第113話 「サーミャ」ノ奇跡
サーミャとシャルレシカは眩い光に包まれ、その場から姿を消した。
「き、消えた!?」
ルティーナが思わず声を上げる。
先ほどまで目の前にいた二人の姿はどこにもない。
「成功……したんでしょうか?」
ロザリナが窓の外へ視線を向けた。
その直後――。
次の瞬間、宿の外でエリアルの悲鳴が響き渡る。
「きゃあああぁぁぁ!?」
(その悲鳴だ!)
(よしっ!)
部屋の空気が止まる。
馬琴は拳を握る。
「(いやいや、『よし』じゃないでしょ?)」
「ルナ、今のエリアルの悲鳴……だよね?」
「失敗したの!?」
(やっぱりだ! この魔法はとんでもないぞ!)
「(だ・か・ら、エルの悲鳴が気になるんだけど!?)」
馬琴は興奮していた。
この魔法があれば行動範囲は一気に広がる。
危機的状況からの離脱すら可能になる。
ルティーナ達は慌てて、外に出ようとする。
しかし、逆に勢いよく扉が開いた。
「すげぇぇぇぇぞっ!!」
飛び込んできたのは、満面の笑みのサーミャだった。
「マコマコ! お前、天才か?」
「成功だ成功っ!」
そのままルティーナへ抱きついた。
「ミヤぁぁぁ!?」
「苦しい苦しいって!」
「本当に転移できたんだぞっ!」
サーミャは興奮が収まらない。
まるで新しい玩具を手に入れた子供のようだった。
「これでルナが飛ばなくても、知り合いの所に一瞬で行けるじゃねぇか!」
「だ・か・ら……」
ルティーナはサーミャを引きはがしながら訴える。
「エルの悲鳴は何なの?」
後からエリアルが苦笑しながら入ってくる。
「大丈夫ですよ」
「衝撃は半端なかったですが……」
――サーミャが初めて転移してきた時の様子。
「アンハルトさんから聞いていた通りでした」
突然、黒い空間が目の前に現れ。
その中から人が飛び出してきた。
予想以上の恐怖だった。
「普通は悲鳴を上げますよ……」
「私じゃなくてよかったですね」
ロザリナの口元が上がる。
「確実に出てきた瞬間……ぶん殴ってます」
ロザリナが真顔で言う。
「「「あはは……」」」
「笑えねぇ……エルで正解だった……」
サーミャは遠い目をした。
確かに初見の相手に対して――。
戦闘中なら攻撃されても文句は言えない。
サーミャが助かったのは、ルティーナの脱出するタイミングだけの偶然ではなかった。
「あの時、アンハルト達が墓参りって目的じゃなかったら……」
「確実に総攻撃、いや、トドメを刺されてたわね」
エリアルは、目印になった側の感想を語る。
「出る場所や、相手の状況をちゃんと考えて使わないといけませんね」
サーミャは納得しながらも、あることをひらめく。
「そっか、黒魔法でも使えれば……無くもないぜ」
ルティーナも気づく。
「転移先に使い魔を置いておけば、意識共有で安全確認もできるんだよね」
「なら、ヘレンを引き抜く?」
「「「「あははは、アンハルトに殺される」」」」
盛り上がる中、ロザリナが冷静な一言を放つ。
「でもルナの『ヒーリング・ストーン』ありきですよね?」
この魔道具は一度、使うと再度、回復師からの魔力補充が必要となる石であった。
「あ……」
サーミャが固まった。
確かにその通りだった。
「そもそも、ルナがお母さんからもらった誕生日プレゼントでしょ?」
「うーん」
ルティーナが考え込む。
「ミヤがシャルに杖を貸すみたいな感じで使うしかないか……」
「悩んでもしかたねぇ、とりあえず実験は成功ってことで」
サーミャはふと思い出したように鞄へ手を伸ばした。
「まだ、話は終わっちゃいねぇんだ」
「一つ見てもらいたい物がある」
取り出したのは『エクソシズム・ケーン』だった。
「シャル」
「はいぃ~?」
「今度は、こいつの過去を見てくれ」
サーミャは真剣な表情になる。
『エクソシズム・ケーン』は四年前にジェイストという村でヴァイスが見知らぬ老婆から手渡されたと。
なぜ老婆がこの杖を持っていたのか?
「でもイスガで見つけた資料に、試作品と書いてあったんだ」
「この杖は、イスガで作られた……」
偶然とは思えない。
そう感じていた。
「なるほど……確かにただの魔道具ではないですものね」
「自分の魔法が五倍に増幅されるんですから」
ロザリナが頷く。
「だから、経緯を知りたい……」
「わかりましたぁ~」
シャルレシカは杖へ手を添えた。
すると、水晶に映像が浮かび上がった。
一人で依頼をこなしていたヴァイスに、老婆が話しかけている様子。
そして。
半ば無理やり杖を押し付けられていた。
「あなたに託します」
「ふさわしい方へ渡してください」
「って、言われたらしいぜ」
サーミャが呟いた。
「シャル、さっきの老婆をもう一度映してください」
ロザリナが紙を取り出す。
「似顔絵を描いておきます」
「さすがリーナだな」
「手掛かりは多い方がいいですから」
丁寧に老婆の顔を書き留めていく。
「その人を見つければ何か分かるかもしれませんね」
サーミャは意気揚々になる。
「んじゃ今のばあさんの顔覚えたから、そいつんところに転移魔法で――」
「「「「駄目っ――」」」」
「さっきも言ったでしょ! おばあさんショック死しちゃいますよ」
「だから、聞き込み用に似顔絵を描いてるんじゃないですか!」
ロザリナはサーミャに説教する。
「あはは、つい……」
「それより、ジェイストってどこだ?」
「アジャンレ村からなら近いですよぉ~」
シャルレシカの言葉に。
ルティーナが何かを思いついたように顔を上げた。
「ねぇ」
「これは私の個人的な提案なんだけど……いい?」
皆の視線が集まる。
「私のお母さんに会いに行ってみない?」
「『ヒーリング・ストーン』をどこで手に入れたか情報が聞けるかも」
その一言で空気が変わった。
サーミャも納得したように頷く。
「なるほどな」
「石がいっぱい手に入れば、転移回数の制限消える」
サーミャの笑顔をよそに、ロザリナの顔が険しくなる。
「……まさか全部充電させる気じゃないでしょうね?」
ロザリナが半眼になる。
「……バレたか」
「やっぱり」
全員が笑った。
「でもぉ」
シャルレシカが言う。
「ルナが倒れていた場所に行けばぁ~」
「マコマコの事が、もう少し分かるかもしれませんねぇ~」
(……)
馬琴も否定できなかった。
そして話し合いの結果。
アジャンレへ向かうことが決まった。
ただし全員ではない。
組織の目を両親に及ばせたくない。
行くのはルティーナ、サーミャ、シャルレシカの三人。
「僕達は留守番ですね」
「今回は戻る時しか石は使わないんですから……」
「私が居なくても問題ないですね」
「いざとなれば、お母さんも回復師だから大丈夫よ」
ロザリナも賛成した。
ルティーナは方針を説明する。
「組織の目を欺くために、皆が普通に活動しているように見せる必要はあるわ」
「だから……」
異論はなかった。
目的地はアジャンレ村。
母親からの情報。
その近くにあるジェイスト村。
謎の老婆の情報。
任務は五人でこなしているフリ。
組織への攪乱。
だが、シャルレシカは過去視のやりすぎで、目が泳いでいた。
「ねむぅ~いですぅ……」
そして。
そのまま眠りに落ちた。
サーミャの件で盛り上がりすぎ、気付けば深夜だったこともある。
「やっべ、あたいらも寝ようぜ」
「そうね」
皆は翌日の予定だけ確認し床につく。
わくわくを抑えきれないまま――。
「半年ぶりにお父さんとお母さんに逢える」
ルティーナだけは寝れそうになかった。
(やっぱり子供だな)
「(ふんっだ)」




