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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~異世界召喚失敗!? 少女の中に宿った勇者の冒険譚~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

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第108話 王国ノ最後

ルティーナ達は、イスガ王国から放たれた光に包まれ、地上へ転移させられていた。


空はすでに白みを帯びている。

転移した瞬間、三人は辺りを見回した。


そしてルティーナが大声で叫ぶ。


「ミヤ――っ!?」

「サーミャ=キャスティルぅぅぅぅっ!!」


悲鳴にも似た声が、朝焼け何もない大地へ響き渡った。


だが――返事はなかった。


吹き抜ける風だけが、静かに砂を揺らしている。


その瞬間。

張り詰めていた糸が切れた。


ルティーナはその場に崩れ、掻き切れそうな声をだしながら涙を流した。


「ああ゛あ゛あ゛――――――っ」


ロザリナも。

エリアルも。

かける言葉が見当たらなかった。


ただ喪失感だけが胸を重く締めつける。


どれほど時間が経ったのか分からない。

いつの間にか、灼熱の砂漠は消えていた。

そこに広がっていたのは、朝露に濡れた草原だった。


王国が封印された証だった。



しかし、今の彼女達には、その光景を喜ぶ余裕はなかった。


サーミャが命を懸けて辿り着いた結末。

それを共に喜ぶはずの彼女だけが、そこには居なかった。



砂漠の消失は大事件だ。

いつまでもここにいる訳にはいかない。


ルティーナは唇を噛み締めながら立ち上がった。


「……みんな、行こう」


元気はない……声が震えていた。

それでも歩き出す。

転移地点は街道から数キロ離れていた。


ルティーナは懐で眠るシャルレシカをそのままに、

エリアルとロザリナを小さくして懐へ収めた。


そして人目を避けながら宿場町近くまで飛翔した。


道中、誰も口を開かなかった。

話そうと思えば、いくらでも話せた。


だが誰も最初の一言を見つけられず、ただ時間だけが過ぎていった。




そして昼過ぎ。

ようやくヘギンズの待つ宿場町へ辿り着く。


「おっ! ルナリカ! 無事だったか!」


だが、三人の顔を見た瞬間、ヘギンズは言葉を失った。


泣き腫らした目。

力のない表情。

何かがあったことは明白だった。


「ごめん、ギンさん……今は少しだけ……」


ロザリナはルティーナを抱きしめながら、頭を下げる。


「目的は達成できました。詳しい事は明日、お話いたします……」


ヘギンズは黙って頷いた。


それ以上聞かなかった。


三人は肩を落としながら、部屋へ入って行く。


「あいつら……」





部屋に入ると、ルティーナは懐で眠り続けていたシャルレシカをそっとベッドへ寝かせ、元の大きさへ戻した。


そして三人も、それぞれベッドへ倒れ込む。


身体は限界だった。

それでも、誰一人として眠れるわけがなかった。




――静まり返った部屋。


「ルナ?」


ロザリナが小さく声をかける。


「寝れないんですか?」


「……ばれちゃったか」


ルティーナは天井を見つめたまま答えた。


「リーナも起きてたの?」


「私も眠れないわ」


ロザリナは苦笑する。


会話が続かない。


――そこへ。


「なんだ」

「みんな一緒か」


エリアルが上体を起こす。


「エルも?」


「眠れる訳ないだろ」


自嘲気味に笑う。



眠れないまま時間だけが過ぎていく。

その静寂を破ったのは――。


「……むにゅ?」


小さな声が響き、三人が振り向いた。


「シャル!」


ようやく魔力枯渇から回復したシャルレシカが目を覚ました。


そして周囲を見回し――。


「あれぇ? ミヤは?」


――誰も答えなかった。


空気が凍りつく。


事情を聞かされたシャルレシカは顔色を失った。


「そんなぁ……」


力なく俯く。


「わたしが倒れてなかったらぁ……」


「――違うよ」


ルティーナは即座に否定した。


「でもぉ……」


誰もシャルレシカを責めてはいない。

責める相手など、どこにもいなかった。

結局、誰一人眠れないまま朝を迎える。



さらに目を腫らしたまま、ヘギンズの馬車でバルステン王国へ向かうことになる。

道中、四人はイスガ王国で起きた出来事を説明する。


話を聞いたヘギンズは絶句した。

だが最後に一言だけ口にした。


「そうだったのか……」

「辛かったな」


その短い言葉だけが胸に刺さった。


誰も多くを語らない。

沈黙のままバルステン王国へ到着した。






その夜。

ルティーナとエリアルは孤児院を訪れた。


王国を救った報告をしなければならない。

本来なら喜ばしいはずだった。

だがルティーナの足取りは重かった。


そして二人を出迎えたミレイユは無事な姿を見て安堵する。


エリアルは早速、イスガ王国で起きた全てを語った。


王国の状況。

フレーディアが帰って来れなかった理由。

イスガ王が封印に固執していた理由。


ミレイユは静かに聞いていた。


「そんなことが……」

「でも、あなた達のおかげで、お父様もお母様も眠れます」


そう微笑んだ彼女だったが、二人の表情の違和感に気づく。


「何か隠してませんか?」


ルティーナは言葉に詰まる。

それを見かねたエリアルは代わりにサーミャの事を話した。


ミレイユは口元を押さえる。


「そんな……」


涙が零れ落ちた。


「私、自分達の事ばかり……」


「ごめんなさい……」


ルティーナは首を横に振る。


誰も悪くない。

それでも悲しみは消えなかった。



サーミャが居れば。

きっと今頃――


「何、しけた面してんだよ」

「お前ららしくねぇーぞ」


そう吐き捨てるように笑っていただろう。



沈黙が続く。

その静寂を破るように、エリアルが突然頭を下げた。


「ミレイユ、僕のわがままを聞いてくれますか?」


「?」


「ルナ、僕を『零の運命』に入れてくれ」


突然の発言に、ルティーナが目を見開く。


「エル?」


「ミヤの代わりにはなれない」

「でも、彼女が守ろうとしたものを僕も守りたい」


真っ直ぐな言葉だった。


ルティーナはしばらく黙っていた。


そして小さく頷く。


「うん! これからもよろしくね」

「ミヤの代わりじゃなく、エルはエルだからね」


「ありがとう」


エリアルは安堵したように笑った。


ミレイユも静かに頷く。


「エリアルのやりたいようにしなさい」

「でも、いつか戻ってきてくださいね」


「はい!」


エリアルは力強く返事をした。


その後、イスガ王の形見である宝石を受け取ったミレイユは、それを大切そうに胸へ抱きしめた。


「……残りの余生、これでさみしくなくなりました」

「(お父様、逢えたのですね)」

「ありがとう。あなた達を信じてよかった……」


その笑顔は、どこか寂しげだった。




翌日。

エリアルは孤児院の子供達へしばしの別れを告げる為、一日一緒に過ごすことにした。


ルティーナ達は宿で四人、サーミャとの思い出を語り合う。

忘れないように、心に刻むため。


仲間の為に怒る顔。

馬鹿笑いしていた顔。

毒舌で語るしたり顔。

二日酔いのだらしない顔。


全部が鮮明だった。

そして最後に思い出したのは――。


「「「残念な、美人っ!」」」

「「「くすっ」」」


絶対に忘れない。

それでも人は前に進まなければならない。


しばらく三人はお互いを気にせずに泣いた。

そしていつの間にか眠りに落ちていた。



そして翌朝。

ルティーナ達はバルステンを離れ、ノモナーガ王国へ向けて出発する。

少し遅れてエリアルは馬で追いかけてくる予定だ。


馬車の中。


「そういえば」


ロザリナが窓の外を見る。


「全然暑くないですね」


「そうだね」


ルティーナも頷いた。


「あの暑さって、砂漠が原因だったのかな」


「これからは魔物が出るようになったりするのかな?」


シャルレシカが『エクソシズム・ケーン』を持ちながら目を閉じる。


そして数秒後、目を開いた。


「大丈夫だと思いますぅ」


「え?」


「八キロくらい先でぇ……大きな悪意が固まったまま残ってますぅ」


馬琴(まこと)は小さく呟く。


(封印の余波……今はもう動いていないということか)


「(そういえば、王国に居た時には遭遇しなかったわね)」


(姿を見せなかったのは理由があったんだろうか?)



――そして、砂漠のあった場所を後にする。


ルティーナはつぶやく。


「おやすみ、ミヤ」

「いままで、ありがと……」


挿絵(By みてみん)




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