第107話 封印ト脱出
――サーミャが瓦礫の下敷きになってしまう数十分前に話は遡る。
エリアルは必死に爆弾の部屋に繋がる扉に群がろうとする魔物を振り払う。
それだけではない。
向こう側では、無抵抗のまま倒れているシャルレシカにも魔物が群がっていた。
「くそっ、殺したくない……これ以上」
エリアルは風の剣を振り下ろし、旋風を起こし吹き飛ばすことしかできなかった。
「し、しまった!」
そして、魔物の手がシャルレシカに伸びようとしていた。
その瞬間――。
「うぉりゃぁ~っ! シャルから離れろっ」
ルティーナは手裏剣に30cm程の大きさの【爆】を描き、魔物の方に投げつけ爆破で魔物を混乱させた。
そしてシャルレシカのもとに颯爽とロザリナが駆けつけ、魔物達を拳で突き飛ばすのであった。
「ルナぁ~リーナっ!!」
「例のやつを見つけたんだ!」
「!」
「早く! シャルをと一緒にこっちに来てくれっ!」
「でも、魔物は……?」
「――この人達はっ!」
ルティーナは首を傾げる。
「(――その人……達?)」
「それって! まさかっ」
「魔物に姿をかえさせらてしまった、イスガの民なんだぁっ!」
エリアルはシャルレシカからの情報を共有するために叫んだ。
――ルティーナ達にも、彼らを傷つけてほしくなかった。
それを聞いたロザリナは、シャルレシカの持っていた『エクソシズム・ケーン』を静かに拾う。
「これって、自分の魔法を五倍にできるんですよね?」
「う、うん……リーナ――まさか?」
「そのまさかよ! ルナはシャルを運んでっ」
ルティーナはシャルレシカを小さくし、エリアルの元へ駆けだす。
馬琴は一つの不安を抱きながら。
(魔物にされた?)
(ゲレンガの組織が作っていたものは……真似しようとしていた……のか)
ロザリナは周囲の魔物を引きつけながら、エリアルの元へゆっくり移動する。
―― 一人でも多く救うために。
十分な数が集まったところで……放つ。
「『シャイン・レストレーション――再生――』」
全力で放たれた魔法は周辺にいた魔物を優しく暖かい光で包み込む。
「こ、これがリーナの……」
エリアルは思わず息を呑んだ。
予想通り魔物たちの動きが止まる。
体中から緑の液体が噴き出し徐々に人間の姿を取り戻す。
幸せそうな顔をしながら、最後は朽ちて消えていくのであった。
「救ってあげられなくてごめんね……」
ロザリナは杖を構えながら、涙を流す。
「でも、一瞬でも人間として人生を終えられてよかった……」
「(僕は、なんて非力なんだ……)」
エリアルは心が締め付けられた。
四人は合流し、施設の中に駆け込む。
すぐさまルティーナは扉に手をあて、【硬】と【鍵】を包み込む大きさで描き、外からの魔物の侵入を封殺した。
「ルナ、こっちだ!」
エリアルに部屋まで案内されたルティーナとロザリナは、その光景に驚く。
それ以上に馬琴は実際に見た事はないが、どうみても『核爆弾』が目の前にあることに震撼した。
(こんなものが……この世界に!)
「なによ? カクバクダンって――」
「はっ」
「ルナは、これを知っているのかい?」
「あ、うん……知らない」
エリアルは追及を後回しにした。
魔物達が群がる中、核兵器を守る時間もないことから後回しにし、王国の封印を急ごうと話しを進めた。
「確かに、この最初に来た部屋にあった銅像と同じだし鍵穴があるね」
「ミレイユの言う通りなら、これで封印できるはずですが……」
エリアルはルティーナを見つめる
「転移されたここから、最初の部屋に戻る方法が――」
するとルティーナはエリアルに手書きの見取り図を見せ、自分たちがここに来れた経緯を説明した。
「そんな物が……」
ロザリナは見取り図を指でなぞりながら説明する。
「そう、この部屋の扉の配置からすれば、私たちはここに居ます」
「あの壁に穴をあけて通路を進めば――皆が別れた場所へ戻れます」
帰還までの方法は解決できた。
――だが問題はサーミャの安否だった。
シャルレシカが眠っている以上、その居場所を知る術はない。
だが分断時の状況から考えれば、
もう一方の通路にいる可能性が高い。
「シャルが最後に見た時は、元の通路にむかってると言っていたが」
合流できると信じるしかなかった。
そして――。
「よし『鍵』をさすよっ」
そしてルティーナが銅像に『鍵』を差した。
瞬間――。
銅像は突然輝き始め天井に向かって光柱が放たれた。
外で何かが崩れ始める大きな音が響き渡る。
「「「!」」」
そして、銅像から声がする――。
「ふ・う・い・ん・か・い・し・ま・で・・・あ・と・じ・ゅ・っ・ぷ・ん・で・す」
(封印開始まで……後10分だと)
「(なに? どういうこと――)」
(急げ! 最初の部屋まで戻るんだっ!)
ルティーナは銅像から『鍵』を抜き取り、決めたルート通りに全員で移動を始めた。
壁に穴を開け、そこから通路に出ようとしたその時――。
ルティーナは爆弾のあった部屋に振り返り【凍】を展開し氷漬けにするのであった。
そして何事もなく、分岐のトラップがあった場所までたどり着く。
目の前には、大量の鎧の人形が煙を吹き出し壊れて転がっていた。
ルティーナ達は、サーミャが倒したものだと判断し、この先に敵はなく安全に目的地まで行けると確信していた。
「ルナ、あっち側の通路で変な音がしますよ……」
「この音は人形の音だわ!」
「急ぐよ!」
そして四人は、最初の部屋でサーミャが待っていると信じ去っていく。
だが、その願いは届いていなかった。
「この扉だったよね! 開けるよっ」
「……」
「…………」
「ミヤ? ――居ない」
「じょ、冗談はやめてよ」
三人は慌てた顔をしながら目を合わせる。
「ま、まさかさっきの通路の先に……」
動揺する中、無常にも銅像から残り1分で封印が開始されると声がする。
もう後戻りできないと唇を噛みしめるルティーナであった。
だが馬琴は、希望を抱く。
サーミャはもう1本の『鍵』を持っている。
仮に分断されたことで、冷静に確実に合流できるこの部屋で待っていた可能性。
この銅像から封印が成功したことを知り、先に脱出しているかもしれないと――。
しかし、その言葉はルティーナの心を大きく揺さぶった。
つい、言ってはいけない言葉を口に出してしまう。
「マコトの馬鹿っ! ミヤはそんな事はしないも――!」
言った瞬間、ルティーナの顔から血の気が引いた。
(おい! ルナっ)
「! あっ」
エリアルとロザリナは目を見開く。
だが二人の耳は、その言葉を聞き逃さなかった。
「「……マコト?」」
ルティーナは後悔した。
ついに口にしてしまった。
だが今は、それ以上に胸の奥が軋んでいた。
今、この瞬間にも――サーミャは戦っているはずだ。
でも……時間がない。
「ふ……二人とも私につかまって……」
声は震えていた。
足が動かない。
決められない。
ロザリナが気づく。
「ミヤは……?」
「(このまま行けば……ミヤを置き去りにすることになる)」
唇を噛む。
指先が震える。
選ばなければならない。
どちらかを――切り捨てる決断を。
「お願いだから……つかまって――」
その声は、祈りに近かった。
エリアルも気づく。
「ルナ……まさか……」
ルティーナは答えない。
ただ、目を閉じた。
「(ごめん)」
「(ごめん……ミヤ)」
一瞬だけ、サーミャの顔が浮かぶ。
笑っていた顔。
毒を吐きながらも、前に進んでいた背中。
――助けたい。
――でも、助けに行けばここから全員出られなくなる。
ルティーナは目を開いた。
その瞳には、迷いはもうなかった。
「お願い!」
その言葉は命令ではない。
助けに行けなかった仲間への――最後の別れだった。
そして、自分自身への言い聞かせでもあった。
ロザリナとエリアルは、何も言わずしがみつく。
ルティーナは涙を流しながら、銅像へ『鍵』をさす。
ゴゴゴゴ……。
「(ミヤ……信じてるよ)」
「(あなたは……こんなとこで、死ぬような人じゃない)」
そして――。
四人は光に包まれた。
だが、その光は誰の心も照らしてはくれなかった。




