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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~異世界召喚失敗!? 少女の中に宿った勇者の冒険譚~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

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第106話 最後ノ魔法

エリアルとシャルレシカは魔物の正体を知ってしまった。

それが、二人の動きを鈍らせていた。


異形の姿へ変わり果てていても――。

その正体は八十年前に滅んだイスガ王国の民。


そう知ってしまった以上、簡単に剣を振るうことはできない。

二人は、戦わずに必死に逃げる。


「僕たちが一体倒した時の雄叫びを聞いて集まってきたのか……?」


「はぁはぁ」

「でもぉ、当時子供だったらぁ……今は九十歳近いですよねぇ?」


シャルレシカの言葉にエリアルはハッとする。


動きが鈍い理由も説明がつく。

だが疑問は残る。


「魔物としての衝動はあるんですかねぇ……?」


シャルレシカは、ふとロザリナの父親のことを思い出した。


人を魔物へ変える実験の被験体にされた。

そして最後は再生魔法で一瞬だけ人間に戻り、笑顔で消えていったことを。


「……この人たちはぁ、リーナのお父さんとぉ同じなのかもしれませんねぇ」


その話を聞いたエリアルは目を伏せてしまう。


「そうか……リーナでも救えなかったんだね」


ロザリナの過去を知り、エリアルは複雑な表情を浮かべた。


目の前にいる魔物たちは、今は人ではない。

だが、まぎれもない人間だった。


家族がいて。

友人がいて。

笑って生きていた。


――そんな人々だ。


八十年もの間、この姿のまま彷徨い続けていたのだとしたら――。


胸が苦しくなる。

リーナもきっと、同じ気持ちだったんだろう。

自分の父親ならなおさらだ。


だが。

本当にそれが正しいのか。


彼らは苦しんでいるのか。

それとも既に何も感じていないのか。


答えは出ない。

それでも剣を振るわなければならない。


それが何より辛かった。


「僕には一瞬で終わらせる術がない……」


「私にぃ~任せてくださぁい」

「あっ『アース・クエイク――溶解――』ぅ~」


地面が波打つように崩れ始め、目の前の数十体の魔物が地中へ飲み込まれていった。


エリアルは小さく頭を下げる。


「ごめん……シャル」

「僕は結局、君にばかり背負わせてる」


「気にしないでくださいぃ」


しかし安堵は一瞬だった。

エリアルの顔色が変わる。


――爆弾の部屋。


外へ出た時、その扉を開けたままにしていたことを思い出したのだ。

しかも数体の魔物が、その方向へ向かっている。


「まずい!」


エリアルは駆け出した。


『ソード・オブ・ウィンドストーム』

(【(あらし)】)


剣を振り抜いた瞬間、暴風が巻き起こる。

エリアルはその風を背に受け、一気に爆弾の部屋へと駆け抜けた。


「爆弾には……近づけさせちゃ駄目だ――世界が終わってしまう」


そして魔物達と扉の間に入り込む。

エリアルは悲しい顔をしながらも、心を鬼にする。


「ごめん」


『ソード・オブ・ボルケーノ』

(【(ほのお)】)


剣を持つ手が震えていた。

しかし、炎の剣で魔物たちを切り伏せる。


「間に合った――」


だが振り返った瞬間。

エリアルの表情が凍り付いた。


シャルレシカが倒れていた。


魔力切れでその場で眠ってしまったのだ。

しかも周囲には新たな魔物たちが集まり始めている。


「そんな……!」


自分が無理をさせた。

その自覚が胸を刺す。


『ソード・オブ・ウィンドストーム』

(【(あらし)】)


風刃を飛ばし、シャルレシカに群がろうとする魔物を払いのけようとする。


――だが止めきれない。


爆弾の部屋にも魔物が集まり始めている。


「だめだ……!」


シャルも守れない。

爆弾も守れない。


その現実がエリアルを追い詰めていった。





一方――。

サーミャも魔物に襲撃され苦戦していた。


戦いの中で分かったことがある。

火魔法だけは通用する。


だが、それは『勝てる』という意味ではなかった。

時間を稼げるだけだ。


「倒せるが効率が悪りぃ……」


一体倒しても。

すぐ次が現れる。


いたずらに魔力だけが削られていく。

このままでは先に力尽きるのは自分だった。



サーミャはやむなく施設へ引き返す決断をする。


――狙いは、立ち去ったばかりの書庫。


今以上の火力――。

新しい魔法を探すためだ。


扉を氷で封鎖し、元の道を走り書庫へ飛び込む。


書庫に入るやいなや、サーミャは本棚から次々と本を引き抜いた。

しかし――見覚えのある魔法ばかりだった。


「違う……」


ページをめくる手が震える。


「これも違う……」


投げ捨てる。


魔力は残り少ない。

呼吸も苦しい。


額から流れる汗が視界へ入り込む。


「くそっ……」


焦れば焦るほど文字が頭に入らない。


「ちっ……こういうのはルナの役目だろうが」

「なんでよりによって、あたいが本なんか読んでんだよ……」


そんな考えがよぎる。

だが今は自分しかいない。


やるしかない。


「こんなところで終われるかよ……」


震える手で本を掴む。


さらに一冊。

さらに一冊。

だが見つからない。


時間だけが過ぎていく。


その時だった。

遠くから氷が軋む音が聞こえた。


ルティーナ達が助けに来てくれたと思った。

――だが現れたのは鎧人形だった。


「まだ居やがった――いや、煙が……完全に停止してなかったのかっ!」


サーミャは咄嗟に魔法を放ち、入口を氷で埋め尽くす。

しかし時間の問題だった。


その時。


一冊の本が目に留まる。


『フィフス・エクスプロージョン』


攻撃系五属性全てを扱える者だけが使える究極魔法。


「これだ!」


サーミャは震える手で本を握り締めた。


「くそっ、この魔法は詠唱が長げぇっ……」

「だが、もう時間が……やるしかねぇ! この一撃で道を開くしか――!」


賭けるしかなかった。


「頼むから間に合ってくれよ……」


小さく呟きながら詠唱を唱え終わるころ、魔力がごっそりと持っていかれる感覚がした。


背筋を嫌な汗が流れ落ちた。


その間にも――。


ガリッ。

氷に亀裂が入る。


バキッ。


鎧の人形の増援が押し寄せる。


「ちっ……!」


完全に出口が塞がれる。


必死に言葉を紡ぐ。

気付けば背中が壁へ触れていた。


逃げ場はない。

人形達がついに氷を突き破る。


鎧の擦れる音が書庫に響いた。


そして。

最後の一節を叫ぶように唱え切った。


そして――。

完成する。


目の前には黒い球体が生成される。


雷。

炎。

土。

風。

水と氷。


五属性全てが球体の中で渦巻いていた。


「くらえっ! 『フィフス・エクスプロージョン』!」


それを鎧の人形たちの中心に投げこむ。


しかし、球体は巨大な空間に広がり始め人形たちを飲み込み粉々にする。

だが、それだけでは終わらない。


その威力は書庫そのものに影響を与える。


天井。

壁。

床。


全てに亀裂が走った。


「しまっ――」


轟音。

そして崩落。

大量の瓦礫が降り注ぐ。


サーミャは避けきれなかった。

体が押し潰され、瓦礫の下敷きになった。


「――うぅ」

「……ち、血、結構出てるじゃんねぇか?」

「……痛てぇ? いや……心地がいい?」


霞んだ視界の先で、崩れた天井がぼんやりと揺れていた。


指先に力が入らない。


身体も動かない。


それなのに、不思議と怖くはなかった。


頭に浮かぶのは仲間達の顔ばかりだった。


ルナ。

シャル。

リーナ。

エリアル。


みんな、今も頑張っているはずだ。


それなのに――。

自分だけがここで終わる。


「……情けねぇな」


まだやることが残っている。


「あたいは……まだ――」

「ルナに借り……返してねぇんだぞ……っ」


力なく笑う。


「悔しいな……」

「みんな……ごめ――」


――そしてサーミャの意識は消えていく。





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