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LEAF MEMORY 〜始まりの鐘〜  作者: えんJOYラピス


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応酬

 稽古場は無料で貸し出されていた。人が居ないとはいえ一応公共の場なので当然それぞれの獲物は訓練用の木刀になる。


 始まりこそ静かなものであったが勝負はものの数分で白熱した戦いとなっていた。

 使用する武器は互いの剣と魔法のみ。どちらかが降伏するか気を失ったら勝負あり。

 武器を除けば際限のない極めてシンプルなルールだ。背丈こそ同等だが男性であるエルの方が有利でもある。つまり筋力での勝負になってしまうと分が悪い。それをお互い分かっているからこそリースは力勝負を避けるように戦い、エルは隙あらば自身の有利なように仕向けようと動く。


「(体格差や筋力差はともかくとして…この人、強い…!普通にやったんじゃ…勝てない…!)」

 そもそもリースは魔法らしい魔法を使えた試しがなかった。何度か魔法の習得を試みたこともあったが、大体の魔法と相性が合わず習得できた魔法は簡単な基礎魔法しかなかった。その時点でリースには剣と自身の体術しか武器がない。それに対してエルは恐らく幼少の頃から稽古をしてきたのだろう。立ち回り方や剣の振るい方がかなり洗練されていた。更にエルは尋常ではないほど素早かった。目前にいたはずが後ろに回り込まれていたり、弾き飛ばしたはずの木刀が瞬きの間にエルの手に握られていたりだ。これがエルの操る魔法によるものなのかは定かではないが、人智を超えるスピードを前にリースも多少動揺はしていた。彼がもし騎士だったら騎士団のトップだと言われてもおかしくはない。


 不意に手から剣が弾き飛ばされる。息をのむと同時にエルに押し倒され、顔の真横にエルの木刀が突き立てられるのが見えた。

「……思いの他かなり苦戦した。が…チェックメイトだ。」

 布に隠れて見えない表情の代わりに鋭く光る瞳の鋭さが勝利を確信していることを物語る。お前に勝機はない、とでも言っているようだ。


「…お強いんですね。」

「…幼いころから鍛錬ばかりを続けてきたからな」

「そうですか…その割には、油断が過ぎると思いますよ!」

 覆いかぶさっていたエルを蹴り上げると、予想外だったのかエルは派手に吹き飛んでいった。その隙に形勢を立て直す。エルが完全に勝利を確信し、油断していた時点でリースにまだ勝機はあった。吹っ飛んでいったエルが立て直す前に一気に距離を詰め、木刀を奪いとった。彼のあの速度では遠くに放ったところですぐに取り返されてしまうだろう。

「チェックメイトです。エルさん。」

 武器がなければ戦うことはほぼ不可能。エルも理解しているのだろう。

「…俺の負けだ。」

 それだけ呟くと彼は布を整える。


 どこか満足気に身なりを整え始めたエルに木刀を返すとなぜか懐かしく感じた。レンクでもアマロでもない強者と久々に戦うことができたからだろうか。

「ここまで強いとは予想外だ。こんな実力者なら王国トップとして活躍できるかもしれないな。」

「エルさんこそ、とてもお強かったですよ。あんな速さ、見たこともなかった…」

「…これならいい……リーフ。少し話をしよう。……こっちへ来てくれ。」

 

 森の奥へ進むエルを追いかける。どれだけ歩いたのかもわからなくなってきた頃合いに一軒の屋敷が見えた。たしか数百年ほど前には貴族が暮らしていたはずだが、今ではすっかり廃墟になってしまっている。

 エルが扉を三度ノックすると中から猫の鳴き声が聞こえた。

「墜落した王国」

 おそらく合言葉だろう。薄っぺらな扉が開くと、そこには思いもしない光景が広がっていた。

 明るい部屋にはテーブルや椅子といった最低限の家具が備え付けられており、何よりもそこには多くの人物が集っていた。


「全員定位置に座ってくれ。紹介したい人物がいる」

 男女問わず多くの人物が丸イスに腰掛ける。人数はざっと見積もって30人ほどだろうか。

「彼女はリーフ。城下町で出会った剣士だ。リーフ、ここにいるのは革命軍の同志だ」

「革命軍…?」

 確かにこの国の住人は国王の悪政に苦しみ、恨みを抱いている物も多い。事実十年以上前から革命軍自体は存在し、何度も革命戦争を仕掛けてきた。近年になって革命軍自体が衰退してきている事は知っていたがここにきて革命軍がまた結成されていたとは知らなかった。しかし、いきなり出会って間もない人間に水面下で行動するべき存在を知らせるなんて自殺行為にも程があるだろう。


「え、えっと…エルさん…?」

「リーフ、単刀直入に言おう。革命軍に加わってほしい」

 革命軍、と言われた時点で予想はしていた。予想していたとはいえ、いざ言われるとやはり突拍子もない事だった。

「お前はとても強い。国王の首だって、討ち落とせるかも知れない」

 国王の首などに興味はなかった。しかしこの国がよくなるのなら、革命軍に入るのも悪くないと不思議にそう思えた。

「…私は、記憶を失っているんです。もしかしたら裏切るような事になるかも知れません。」

「問題ない。お前の意志を尊重しよう。裏切ったとしても、それはそれで俺は構わない」

 その時は俺がお前を斬る、ということだろう。それにしたって余りに無防備すぎる。何故こんなにもハイリスクな人材を引き入れようとしているのだろうか。


「…少し、考えさせて頂いてもよろしいですか?」

「もちろんだ。お前には選択の自由がある。だが俺の考えは変わらない。」

 エルの考えが読めない、怖い。全く考えが追いついていけない今ではまともに考える事が出来ない。

「なあエル。彼女は信頼できるのか?それにこんなこと言っちゃ失礼だが…あまり腕の立つ剣士には見えない」

 革命軍の一人が声を上げる。これは当然の声だと思った。当たり前だ、彼らから見れば、自分は突然現れた部外者、それも子供にしか見えない小柄な女だ。実力も素性も全く分からない突如現れた第三者。むしろエルの方がやや変わり者なのだろう。

「単純な剣での実力は俺より上だ。素性については俺が保証する。怪しい人間じゃない。」

 エルはよほど信頼があるのか、或いはここに居る人間の警戒心が薄いのか、それ以上の詮索をする人間はいなかった。


 こんなことで良いのか、とは思ったがそれはこの国の圧政がそれ程までに深刻であることの表れでもあるのだろう。リースは森の奥、第一騎士団のツートップというレンクとアマロと共に生活してきた。たまに城下に出たりはするものの、他の一般階級の国民がしている様な苦労とは無縁だ。貴族でもない国民にはこうして冷静に考える余裕などないのだろう。

「リーフ、ちょっとこっちに来てくれ。お前の装備を見立てておきたい」

 エルの言葉に我に返る。エルだけでなくここにいる人間も、賛否はあるにせよ、自分がこの集団に加入するものとして動いているようだ。


 こっちだ、と顎を振ると、エルは広間の隅にある書棚の前のカーペットをめくり上げた。床板に四角く切れ目が入り、把手が付いている。地下へ続く通路への出入り口らしい。その扉をエルが持ち上げると、下へ続く階段が見える。ランプを手に数歩降りたところでリースに向き直り、早く来い、といわんばかりに視線を向ける。階下に消えていったエルの後を追いかけ、薄暗い急な階段をよたよたと降りながら、リースはエルの背中に声高に訴えた。

「エルさん…私は考えさせて下さいとは言いましたが、仲間に加わるとは言っていませんよ?」

「準備しておくに越したことはない。まだ情報を流すわけにはいかないが、必要なものは揃えておいたほうが後々話が早いだろう?」


 階段を降りた先の暗く長い廊下を、ランプを掲げたエルはずんずんと足早に歩いていく。その後ろを小走りでリースがついていく。

「だいたい革命軍と言っても、これだけの人数でどうしようというんですか?」

「今はまだ話せない。いつか知る時が来るだろう」

「いつ?」

「そう遠くないうちに、だ」

 エルはすでにリースが仲間に加わることを確信しているように、楽しげに話す。廊下の突き当たりのドアを開けて部屋に入ると、入り口の脇に置かれた大きな燭台へ手にしたランプから灯火を移した。エルの楽しげな口調に少々苛立ちながら、リースは答えた。

「私が仲間になるのを断ったらどうするつもりですか?」

「そんな心配はない。」

 明かりが灯ると、部屋の様子が少しずつ浮かび上がってくる。エルはというと相変わらず楽しげだ。


「分かりませんよ? そもそも革命軍といっても、武器も防具もどれほどの用意があるのか…」

 そこまで口にして、リースは言葉を飲み込んだ。ぼんやりと明かりが広がったその部屋には、騎士団の武器庫かと見紛うほどの武器防具が整然と並んでいた。エルは棚に並べられた鋼鉄の鎧のひとつを無造作に取り上げた。敵の打撃を受け流すための鋼鉄の刃が両腕に2本ずつ入っているほかは、急所だけを鋼板で覆った軽量な造りだ。

「これが良さそうだな。」

 そう言いながら、立ちすくむリースの肩にあてがい満足げに頷いた。

「俺達が作ったオリジナルだ。防御力はさほど高くはないが軽く動きやすい。一発食らったら危なくとも、あれだけ素早いお前なら大丈夫だろう。」

「ですから……私が断ることもあるわけで…」

「もし本当に断られてしまったら、その時は仕方がない」

 相変わらずマントで顔を隠してはいるが、エルの美しい蒼い瞳は嬉しそうに底光りしている。


「俺としては、革命軍最強レベルの剣士をこの手で始末したくはないがな。」

閲覧ありがとうございました。

次回投稿を楽しみにお待ちください。

※この作品はpixivにて同時連載中となっております。

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