信じる
「さて、それじゃ4人での話し合いを始めてくれ。俺と姉上は見届け人だ。居ないものと思ってくれて構わない。蹴り合い殴り合いが始まったら止めるからな。」
会議室に6人が取り残されると、リーフはぐっと伸びをすると頬杖をついて再びチョコレートの包みを弄び始める。
なんとも投げやりな、と心の内で思いつつリースも4人の邪魔にならないよう少し縮こまるようにして座り直した。
それを見届けたクロノワールがさて、と始める。
「ここにいる4人。聞きたいことも言いたいことも色々あるけれど、だ。まずはお互い命があってよかったと言っておこうか。…うん、本当に。なんで生きているのか不思議な位、怪我は酷かったようだけど。」
クロノワールの言う通り、レンクとアマロの傷はかなり酷いものだった。本当はベッドの上で絶対安静であろう程の深手だったのだが、今はリーフの魔法で怪我を軽くしてもらっているらしい。とは言えそれも一時的なもので、翌日には満身創痍の二人に戻っているとの事だから、内心二人にはゆっくり養生していて欲しかったのだが。
「前置きはこの辺りにして、早速だけれどいつから君達はこの戦いを計画していたんだい?物資や人員の育成、資金だってそうだ。1年やそこらじゃ到底できないレベルにまで到達している。だけど何年もかけていたとして、この国の監視の目を掻い潜って…なんてとても考えられない。ましてや騎士団を預かる君たちの立場を考えれば尚のこと、誰にも気付かれず動くのは無理がある。……君達はどうやってここまで仕上げられたんだい?」
「……そうだな、それについては俺から話そう。と言ってもそこまで大層な話じゃない。10年、リーフ王子を中心に3人で全力の用意を進めていただけだ。」
「10年…?馬鹿な、有り得ない。」
少し頭が冷えたのか、ミルノが真っ先に食らいつく。
「その主張が真実ならば、齢7つの子供が計画立て、資金繰りや戦力を整え始めることになる。いや、何もそこから始まったとは考えんが……それにしたってたかが子供に何が出来る?そもそも、王子は10年前の革命で行方不明のままだった。まさか10年この国の捜索や他国の目を逃れて一人で生きてきたとでも言うつもりか?」
「ああ、その通りだ。」
「っ……それこそ有り得ん!捜索隊は当時の精鋭や手練を選りすぐった、この国最高峰の探知力を誇る部隊だったはずだ!その目を逃れるなど……!」
「早速口を挟んで悪いが、アマロの言ったことは9割方本当だぞ?」
相変わらず退屈そうにしているリーフが割って入ると部屋中の視線がリーフに集まった。
「9割方……?どういう事です?」
「そのままの意味だ。俺は一人で生きてきた訳では無い、それ以外は真実だ。」
「ま、まあ信じられないよね…うん。実際僕達もよくここまでやれたなって思わなくもないし………」
気まずい沈黙を作るまいと、わたわたその場を凌ぐレンクとは裏腹にミルノは何かを考えていた。そんなことが信じられるかと疑っているようにも、有り得る話かもしれないと思案しているようにも見て取れる。
「……よし。じゃあ仮にそれが現実で起こったとして、だ。君達が革命軍に加担した理由はなんだい?レンクは兎も角、スカイウォーク家が革命軍に加担するからにはリスクに見合ったメリットがあるはずだ。それとも、君個人としての支援だったのかな?どうなんだい?アマロ。」
「………そうだな。今回の件に関しては俺個人とスカイウォーク家の意見の一致が大きな要因だ。」
「と言うと?」
「俺もレンクも…幼い頃からリース王女が平和を願っていたのを知っていた。これが『俺個人』の理由だ。そして俺の妹……メア・スカイウォークの占いが王の死、そして次なる王族による新時代を予言した。家始まって以来の天才と呼ばれるあいつの占いだ。家としては事実と受け止める他ないだろう?王族に仕える身としては王族は裏切れない。だがその後には玉座に腰を据える王族がいる。ならば悪政を終わらせる側に加担すれば、次の王に忠義を尽くし国の為に動くことも出来る。」
「……次の世代に期待したってことかな。」
「そうだな。以前から王の暴君ぶりにはスカイウォーク家でも問題視されていた。何度も忠告はしていたが……それも無意味に終わってしまったな。」
ともすれば、こちらとしても最終手段をとる他ない。そう言うアマロの表情はどこか悲しそうだった。
「念押ししておくが、俺が革命軍についたのは自分の意志だ。そしてスカイウォーク家の支援について、俺は一切関与していない。スカイウォーク家の人間に革命軍の話をしたのはリーフ王子だし、王子には俺の存在を伏せて頂いた。スカイウォーク家は次の王に着いただけのことだし、俺は仕えた主の望みを叶えようとした。今回は倒すべき敵が一致しただけだ。」
「そう必死にならなくてもいいよ。君とお家が関係ないのはよくわかった。……それじゃあ最後にもうひとつ。君たち二人に質問しても良いかい?」
「……なんだ?」
「……えっもしかして僕も?」
「僕は君たち二人、って言ったんだよ?」
レンクの素っ頓狂な声にくすくすと笑いを堪えられない様子のクロノワールは一呼吸おくと胸の内を見透かすような視線で二人に問いかけた。
「10年行方を眩ませていた王族、そして何より王位を継ぐにはまだ若すぎる。……ま、これは騎士団長や指揮官をこの年でやってる僕らにも言えるかもしれないけどね。それでも彼らのどちらが王位を継ぐとしても、それに反発する人間は少なくはないだろう。王位を継いだとして、その後本当に民主主義国家を作り上げることができるのか、という疑問もある。それでも君たちは本気で、彼等がこの国を良くしていくと信じて」
「信じる。」
ふたつの声が重なった。レンクとアマロはクロノワールの言葉を聞くことすら愚かだと言わんばかりに即答していた。その表情に不安や疑念は微塵もない。ただそこにあるのは、夢や希望を追いかける少年の瞳そのものだった。
「僕は信じてる。たとえ世界中が二人のことを疑って、誰も二人を信じなくても僕は信じてる。王の悪政に染まらないで、あの在り方をおかしいと怯えて震えていたリースを信じる。王に怒りを向け続けて、絶対に悪い時代を終わらせるって決心したリーフを、僕は信じる。二人は絶対にこの国を幸せにしてくれる。」
「占うまでもない。隣に幸せそうな奴がいたら同じ位幸せそうに笑って、目の前に苦しんでいる人間がいたら同じ苦しみを分かち合おうとする奴らに国は滅ぼせない。」
ここまで真っ直ぐな目を見たことがあっただろうか______
そう考える余裕すらない程にクロノワールは心奪われていた。貫くような強い眼差しに込められた信頼と期待。何より強く、温かなその想いを、言葉にすることすら、ひどく烏滸がましくすら感じた。
「(なんて…なんて美しい…これを美と呼ばずして……)」
僕は一体何を美しいと思えば良いのだろう?
宝石に絵画、戦場に舞う戦乙女。美しいと思える物は幼い頃から幾多と見てきた。だと言うのに、今目の前に佇む彼等の瞳は、この四人の結び付きは、今まで見てきた何よりも美しい。今すぐに跪きその美しさを讃えたい衝動にさえ駆られる。だが、それをしてしまえばこの美しさを穢してしまいそうだと畏れてしまう。
僅かな沈黙がクロノワールの動揺を表しているようだった。
気圧されるとはこういうことか…
戦場とはまた違う、心からの畏敬から訪れる圧力。
「……そうか。それなら僕も信じるよ。君達の信じたお二人と、君達の進む未来をね。」
「ラフィル…?」
ミルノが不思議そうにクロノワールの顔を覗き込む。その肩に優しく両手を置いて向き直ると、クロノワールは深く息を吸い込んだ。
「ミルノ。僕は信じたい。彼等が信じた主を、彼等が正しいと思い、進んだこの道を。僕は信じてみたいんだ。君はまた指図するなと嫌がるかもしれない。だけどお願いだ。僕と一緒に信じて欲しい。アマロ達の選択とお二人が作る未来を、君にも信じて欲しい。」
願わくば、この道を共に歩まんことを___
閲覧ありがとうございました。
次回投稿を楽しみにお待ちください。
※この作品はpixivにて同時連載中となっております。




