革命会議
未だ戦闘の跡が残る城内、広々とした円卓の目立つ第一会議室。この国で最も重要な会議を執り行う為の部屋に会しているのは、各騎士団長と指揮官もしくはその代理の者、革命軍の先導者にて第一王子のリーフ、王の側近として国政を取り仕切っていた官職の者達、そして王の首を討ち取った現在の王位継承権第一位、リースだった。
「これで全員だな。それでは始めるか。」
緊迫したこの場の空気を物ともせず、リーフが会議の開始を告げた。
王の首を討ち取り革命軍の勝利を高らかに宣言したその後、リーフは元王国側に話し合いを提案した。国王と言う主導者亡き今、この国の先導者たるのは王位継承権を持つ者だ。今までならばその王位継承者…双子の王族は行方不明扱いでこの国はもっと混乱しただろうが、今はその王位継承権の証でもある、王家の紋章を持つ人間が2人も現れた。順当に行けば現王位継承権第一位のリースがこの国の女王として王位を継ぐことになる。勿論革命軍としてはそれは万々歳、なのだが。
「まず状況の整理をしよう。先の戦いで王国側は大将たる王を失い、我々革命軍に敗北した。現時点で革命軍側は、王国側の要人を一時的に拘束している。今ここに集まって居るのは革命軍側から話をする必要がある人間、つまりは最高権力者や要人の中でも特に決定権を強く持つ人間だ。王族、政治を取り仕切る大臣、各騎士団の双璧達…」
ぐるりとその顔ぶれを見渡すリーフは玩具を与えられた子供のように無邪気な目をしている。偶に見せるその表情が何を思っているのか、リースには分からない。だが確実に、彼は唯一この状況を楽しんでいた。
「先に言わせて貰おう。俺達革命軍は第五王女、リース・ハーティームーンの王政撤廃を前提とした王位継承をここに宣言する。」
その言葉への反応はそれぞれで、ある者は驚き戸惑い、ある者はある程度予想していたと言わんばかりに腕を組む。
「少しお尋ねしても?リーフ王子。」
ほんの僅かなどよめきを破ったのはクロノワールだった。
「どうした?クロノワール騎士団長」
「王政撤廃を前提とした、と言うのはどういうことでしょう?そもそも私は革命軍の目的は王政の崩壊と見ております。その革命軍が壊したいはずの王政を次に引き継ぐ?けれど王政撤廃を前提、というのは?」
その隣でミルノが『貴様の頭には脳の代わりに腐ったキャベツでも詰まっているのか』とでも言いたげにため息を吐いていた。それを見て見ぬふりをし、リーフは口を開く。
「確かに革命軍の目的は王政撤廃、及び民主主義国家への切り替えにある。だがそれにも先導者が必要になる。そして何より今この国は『まだ』王政だ。さてここでクイズといこう。現在王位継承権を持つ人間は果たしてどこに所属しているか。」
「……成程。革命軍のリーダー達である貴方がたで王位を継ぎ、王政撤廃と民主主義国家としての体制整えを行う、と……」
「まあ、これに関しては先人達の遺志でもある。国王の子供がこの国の現状を憂いて革命軍のリーダーを担っていたからこそ、思いついた計画のようだが。要するに民主主義国家への繋ぎとしてだな。王位を継ぐにあたって体制整えに必要な政治だけを行い、国の代表者を選出したら速やかに王政を排除する旨の宣誓を立てる。ああ、念の為言っておくと革命軍側は全員このことを承知している。勿論、革命軍側に属する少数の貴族もな。」
「成程、御説明いただき感謝致します。」
「続けるぞ。次に王国側が最も気になることの一つだと思うが、王国側の処遇についてだ。俺が騎士団長と指揮官をここに招いた大きな理由もこの処遇についてだ。」
王国側は固唾を飲む。当然だ。邪智暴挙の限りを尽くした王の側に付き、そのおこぼれに預かっていた者、そんな人間を守る事で食い扶持を稼ぎ生きていた者、国民から見た彼等はそういう存在だと言うことは誰が言わずとも皆分かりきっていた。革命軍に加担していたレンクやアマロはいざ知らず、王国側の人間は一人残らず処刑されたとしても不思議は無い………この男が、ここにいる大半の人間の運命を告げるのだ。リーフの発言こそが多くの国民が参画した革命軍の総意______
「まずは官職の人間からだな。結論から言うと、命を奪う事まではしない。ただし政治執行権の剥奪ならびに財産の没収が条件だ。勿論、新しい国づくりへの参画も認めない。」
「……もしそれを飲まない者が居たらどうするのですか?」
恐る恐る年若い官職が口を開いた。
「その時は………一人残らずパイにして食ってやる!!!」
勢いよく椅子から立ち上がったリーフは肉食獣のように驚かせて見せた。ここにいる誰もが『ふざけていい場面か』と内心思ったことだろう。しかし当の官職は心底驚いたのか、『ひぃぃ!!』と情けない悲鳴を上げて縮こまってしまった。
「……まさかここまで驚かれるとは。」
流石に周囲の白い視線には気づいたのか、リーフは気まずそうに椅子に座り直しひとつ咳払いを零す。
「すまない、こんな場で悪ふざけが過ぎた。謝ろう。条件を飲まなかった場合は身ぐるみ剥いで国外追放か処刑の二択になるだろう。しかしさっきも言ったが、革命軍は余程のことがない限り命を取る真似はしない。」
自分達が強いられてきたのが正しく生きるか死ぬかだったんだからな。というリーフの言葉にその場にいた官職たちは幾分安堵したようだった。権威と金、命の代償としては安いものだと皆が考えたのだろう。
「次に騎士団の面々についてだが。」
その一言で再び場が静まり返る。騎士団、特に第二騎士団は実際に革命軍と戦った直接的な敵だ。革命軍のメンバーや国民が目の敵にしやすいのも彼等だろう。第三騎士団と第四騎士団の代理メンバーも第二騎士団、クロノワールとミルノの心配をしているように成り行きを見守っている。クロノワールは目を瞑り、どんな処遇も運命と受け入れるつもりのようだった。ミルノも普段の鋭い面持ちは変わらず、堂々たる態度を崩さんとしていた。
「騎士団について、革命軍は処罰を考えていない。」
会議室は水を打ったように静まり返っていた。先程と違い、安堵の息も聞こえない。
「理由は主として2つ。まず第一に、騎士団はこの国の軍事力であるからだ。革命軍にとってはそれこそが脅威だった訳だが、革命が終わった今は国そのものを守るための大切な機関とも言える。ましてや国王がレインバースに戦いを仕掛けていたとなれば、国を守る為の軍事力は温存すべきだ。」
強靭な肉体を保つにも武装を整えるにも金はかかるからな。と、誰も手を伸ばさなかったテーブルのミニバスケットから小さなチョコレートを摘むとその手で弄び始めた。
「次に騎士団はその組織を構成している人数があまりに多すぎる。いちいち誰がどんなことをした、なんて調べるのも面倒だろう?そんな非効率な作業をする暇があるなら、こういうものをどうやって国中の子供達に配って歩くか考えた方がよっぽど為になる。」
コロコロとリーフの指先で踊っていたチョコレートは掌へと収められた。
「……何より。」
空気を少し絞めるような、リーフの真剣な声がその場を刺した。
「何より革命軍も王子としての俺も、騎士団の面々は出自や階級に関わらず国王の犠牲者と見ている。」
「…それはどういうことでしょうか。騎士団は王族直属の組織、国王の配下に当たります。現に今回の戦闘において、私もクロノワール団長も革命軍幹部と戦っております。それが革命軍への妨害行為であることも明確であるはずです。もっと率直に申し上げるならば、我々が直接対決をしている以上、少なくとも第二騎士団は革命軍の倒すべき敵。国王に忠実な排除すべき不穏分子のはず。一般兵はともかく、何の処分もなし、というのはいかがなものかと。」
「…つまり、『国王側に居た挙げ句、革命軍の邪魔をした我々は敵のはずだ。なのになぜ情けをかけるのか』ということか。」
「情けなど……!ただ私は…」
「ああ済まない、情けというのは少し意地悪が過ぎたな。しかし噂には聞いていたが本当に何処までも厳格だなミルノ指揮官。折角美人でもそこまで厳しいと近寄り難くて勿体ないぞ。」
「お戯れも程々になさって下さい!どういうおつもりですか!」
ミルノは声を荒らげ問いただした。彼女の性格からしてリーフのこの態度は色々と気に障るのだろう。
「そうだな、ならもっと素っ気ない話をしよう。これからこの国は民主主義国家になる。その流れに絶対王政時代の政治家は必要ないと切り捨てることは出来る。だが軍事力はそうもいかない。兵士1人と言えど育てるには時間も金もかかる。王国側にいたから処分しよう、と思えば確かに出来るだろう。しかしさっき言った通りレインバースとの事もある。いや、レインバースだけでは無い。マキシティやその他の国もどうなるか。国の作り替えというのはただでさえ隙が生じやすい。そこに軍事力への制裁なんてしようものならそれこそ他国に襲って下さいと腹を見せるようなものだ。つまり敵対していたからと処分を下す理由がない。」
「それは分かりますが…」
「お前は誰にでも厳しいからな。納得がいかないのは俺も理解しているつもりだ。だがミルノ、人の淘汰なんていつでも出来る。今はこの国を整えるのが先だ。」
「しかし…!これでは国民にも示しがつきません。仮に騎士団の処分をしないとしても、第一騎士団と第二騎士団の間に軋轢が生じてしまうのは明白。どちらも敵に隙を見せるようなものではありませんか!」
「ミルノ。」
リーフが感情的になりつつある指揮官を真っ直ぐ見つめる。その表情は先程までのようなおどけた顔でも、執拗いと嫌悪する顔でも無かった。
「大丈夫だ。俺達を信じてくれないか?」
自信に満ちたような笑顔だった。そんな第一王子には何も言えなくなったのか、流石にミルノも押し黙る。
「さて、これで騎士団の処遇も話し終わったな。第一騎士団と第二騎士団の折り合いについては…」
「その事でしたら、まずは我々団長と指揮官で話し合いを致しましょう。上で決着がつけば、一般兵も多少落ち着ける事でしょう。」
「そうか。ならこのまま俺達双子と第一、第二騎士団の4人は残って話し合いをしよう。なに、殴り合いの大乱闘が起こるとは思っていないが念の為な。他の皆もそれでいいか?特に異論なければ今回は解散となるが。」
その言葉に意を唱える者はいなかった。
ぐるりと集まった面々を見渡してからリーフは手短に『解散っ』と告げた。
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