↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LEAF MEMORY 〜始まりの鐘〜  作者: えんJOYラピス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/41

相対 そして 決別

城の中心、最も高い位置にある部屋。その部屋を前にリースは立っていた。

謁見の間。その名の通り、人々が王族に謁見する為の部屋だ。

中に入るにはこの扉しかないが、謁見の間からは一方通行で他の部屋に行くことが出来る抜け道があった。最も重要な部屋である故に、最も安全な部屋。

扉の前には人一人居ない。既に外に逃げたのか、警備兵と共にどこかに隠れ潜んでいるのか。いずれにせよ、王が居そうな場所は、もうここしかない。

背の高い、重い扉を体を押しつけるように慎重に開けると、部屋の内側から威圧感と強い緊張を感じた。

その部屋に、目指す王はいた。

リースの、実の父が。


壁にはこの世界の始まりを描いた巨大なステンドグラス。この国で最高峰の腕を持つ職人が施したであろう、装飾が散りばめられた柱やシャンデリア。眩いばかりに輝く二つの玉座の一つに、その人物は座っていた。

「国王………」

「ほう………革命軍の者か………」

毅然とした老人は美しいファーの付いた真紅のマントを纏い、そこに居た。背後のステンドグラスから差し込む光が逆光となって、その存在感をより際だたせる。逆光を受けて煌めく王冠と、額に光る王家の紋章が、この老人が正しく王であることを物語っていた。


暴君と呼ばれ、多くの国民から恐れられた悪しき王。会った記憶も戻らない、血の繋がった実父。何より今から殺す相手。

もっと様々な感情が渦巻くかと思っていたが、いざ対峙してみると、自分の感情が分からない。ただ、“認めてはいけない感情”が胸の中でさざめいていた。

「………はい。私は革命軍の人間です。貴方を止めに来ました。」

「ふん…今までの革命軍は城までたどり着くことも叶わなかった。だが貴様はここまでたどり着けた。腕は立つようだな。褒めて遣わす。」

「………それはどうも。」

気圧されないようにこちらも毅然と振る舞う。手に力を込め、握った剣を構え直す。王はそれを嘲笑するような眼差しで見つめていた。


「姉上!」

背後から複数の足音と聞き慣れた声。レンクとアマロ、そしてリーフだ。恐らく兵を撒いてここまで来たのだろう。振り返るわけにはいかないが、聞こえてくる荒い呼吸で、彼らがどれだけ消耗しているか容易に想像が付く。三人共、それぞれ死線を掻い潜り、満身創痍の身体に鞭を打って、ここまで来てくれたのだろう。

「姉上………」

「大丈夫、全部終わらせよう」

こみ上げてくる“何か”を誤魔化すように声を絞り出す。………情けないことに3人にはその“何か”を悟られてしまったようだが。

「ふむ…終わらせる、か………だがそんな震えきった剣先で何ができる?」


僅かに剣を構える手が震えている。

ここまでの道のりで、何人もの人間と剣を交え、戦い続けてきた。

生き残る為に、等しく皆が笑って生きていけるように。そんな戦いだったからこそ、相手を攻撃こそすれ、殺すことも、致命傷を負わせるようなこともしなかった。命を奪う必要は無い、そういう戦いだったのだ。

だがこの男は違う。この男だけは、この手で殺さなければならない。

『命を奪う』。その恐怖に心が飲まれる。

「出来るかどうかはどうでも良いの。私はやるべき事をやるだけ。」


多くの人間を苦しめ、国を滅びの道へ誘った、諸悪の根源。摘み取らねばならない存在の筈だ。頭では理解していても、どうしても体は震えてしまう。

殺す?私が、この人を___?憎むべき暴君でも、記憶には無くても、私にとっては血の通った家族である、この人を___?

恐怖で身体が余計に震える。

怖い。

覚悟はしていたはずなのに、どうしようもなく怖い。


「為すべき事を成す、か……。斯様に脆い心で、良くもここまで来れた物だ。そんな小心者が儂を殺せるか。せいぜい虫けら一匹、踏み潰すくらいじゃろうて。」

「………見くびるな」

地を這うようなアマロの声が聞こえた次の瞬間、三人の影が王を取り囲み、剣を構えた。影の落ちたその顔は、皆怒りに満ちている。


「我らが王女は貴様の言う小心者などでは無い。人の痛みを分かち合う強さを、他者の為に奮励するその強さを、俺達は知っている。」

王の喉元に真っ直ぐに向けた剣を動かさないまま、アマロが口を開く。今まで聞いたことの無い彼の声は、より一層低く、怒りがにじみ出ていた。


「欲に溺れて、守るべき物も忘れて、慢心し続けたお前とは違う。彼女はいつだって、正真正銘この国の王女だ。」

レンクが瞳孔の開いた目を王に向ける。普段の愛らしい印象は微塵もない。そこには激しい炎が宿っていた。

「………姉上。」

リーフの一声で、ようやく恐怖を抑え込む。分かっている。これは自分の役目なのだろう。弟のリーフに任せてはいけない。姉である自分の仕事。

「………分かってる。もう、大丈夫。」

今なら、できる。そう確信して一歩踏み出した瞬間それは起こった。

記憶の復活、失っていた“家族”の記憶が蘇る______


初めに目にしたのは、美しい天使の絵が描かれた天井を背にした夫婦だった。次いで四人の女性。誰も彼も皆嬉しそうな顔をして、代わる代わる自分を抱き上げた。ああ、これは私が生まれた時の記憶だろうか。こんな記憶まで甦るんだなあとどこか人ごとに思っていると、突然聞こえてくる激しい咳に周囲がざわめく。

『王妃様!』

『おい!早く医者を!』


そうだ。王妃は双子を産んだ直後に亡くなったのだった。少しずつ狂っていく王への心労と出産の負担に耐えきれなかった、という噂があった気がする。まさかそれが、自分の母のことだとは思いもしなかったが。

まるで白昼夢でも見ているような感覚だ。どうすれば良いのか分からず戸惑っていると、少しずつ見ている光景が遠のき、闇に飲まれていく。

真っ暗な闇の中、リースはただ呆然と先の記憶を反芻していた。あの記憶の王は既に狂っていたのだろう。けれど、産まれたばかりの我が子を抱いて、慈しむような笑顔を浮かべていた______


あの男が分からない。国を食い物にしてきた、悪逆非道の絶対君主。だというのに、記憶の中の彼はまるでそんな片鱗を見せていない。リースが生まれた頃には既に王の暴政は始まっていたから、狂っていることに変わりないのだろうが………根からの悪人に、あんな笑顔が出来るだろうか。

上も下も分からないような、深い闇の中で考えても解は出てこない。

ふと顔を上げると、遠くに光が見えた。

誰かに呼ばれているような気がして、おもむろに光の方へと歩みを進める。すると、次は何故だか『生まれる前の記憶』が流れ込んできた。


本の虫だった四女。ギャンブルの才能があった三女。魔道士として名を馳せた養子の長女と次女。皆、私の姉…『お姉様』だ。

自分が生まれる前の光景を見せられている。

そこで見たのは、優しい笑みを浮かべた若き王の姿。

恐らく三女か四女だろう。生まれたばかりの赤子を抱きかかえた彼の姿は、今からは想像も付かない程に温かく優しい。

「おお、よしよし。我等の愛しい娘達………お前達の未来が、幸福で何より明るくなるよう、父は奮励しようぞ。この国の行く末を楽しみにしておれよ。」


嗚呼、なんてことだろう。父はどこで道を違えてしまったのだろう。いつの間にか、完全に狂ってしまっていたのだ。娘達の幸せを願った結果がこの腐った国か。父は娘である姉を、自分たちを確かに愛していたのだ。それ故に国を豊かにしようとした。だが、それに捕らわれ過ぎて周りが見えなくなり、身勝手な政治を執る暴君へと化して行き、ついには愛した娘達をも殺してしまったのだ。己が娘達のために国を豊かにするべく行った事は、度の過ぎた悪政となってしまった。しかもそれを貫こうとするあまり、愛していた娘達と対立し、戦い…その果てに、殺すことになろうとは。

なんて残酷な現実だろう。


事実、今も王は我が子等と対峙しているにも拘わらず、それに気付いていない。10年も会っていないのだから、当然と言えば当然か。

けれど、これではあまりに悲しすぎる______

意識が現実に引き戻されていく。

目頭が熱くなるのを必死に堪えて奥歯を噛みしめる。

記憶の奔流が収まっても、状況は何も変わっていない。王に剣を向ける三人と、動じる気配も無い国王。


ただ一つ違っていたのは自分自身だった。

変わらず震えは止まらない。しかしそれは人を殺す恐怖から、ただ家族を愛したが故に狂った父と対峙することになった、その悲しみからに変わっていた。

胸がとても苦しい。心臓が早鐘を打つ。ただ家族を愛しただけだというのに、なぜ父はこんなことになってしまったのだろう。


乱れる息と溢れそうになる涙を必死で押さえつける。まだ為すべき事が残っている。ここで泣いている場合ではない。

「リース…!」

「リース……!」

「姉上!」

呼びかける彼らの声。その声に応えるのだ。どれだけ悲しくて苦しい、家族の殺し合いだとしても。

それが、王女リース・ハーティームーンの成すべき事なのだから。

胸の中で絡みきった感情を吹き飛ばすように咆える。振りかざした剣は隙だらけで、躱そうと思えば躱せる剣だった。

だが王は、その剣を避けることはなかった。否、リースの目には『しなかった』ように見えた。


リースの剣が王の首を刎ねるその刹那、両者の視線が交わり______


王の首は重く熟した林檎のように、ごろん、と床に転がる。

血に濡れた王冠が鈍い音をたて、若き革命家の足元で眩く輝いていた。

閲覧ありがとうございました。

次回投稿を楽しみにお待ちください。

※この作品はpixivにて同時連載中となっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。