猛進
ひたすらに走ると、城にどんどん近づいていく。ただ真っ直ぐに、目標だけを見つめて全力で突っ走る。
夢中とも昂りとも違う。血が沸き立ちそうなくらい興奮しているのに、冷静に状況を達観している自分もいる…不思議な感覚だ。
隣を走るリーフに目を向けると、リーフは前を見つめたまま声を掛けてきた。
「姉上、もうすぐ城に到着します。当然、向こうはこちらの侵入を阻止しようとするでしょうが………レンクもアマロもいるのです、時間稼ぎは十分できるでしょう。姉上の部隊はいち早く城内に侵入し、王を追い詰めることを目的にしてください。」
「了解。………ねえ、リーフ。」
彼の名を呼ぶと目があった。実の弟であることを思い出してから、どうしても言っておきたいことが一つ、あったのだ。最終決戦を前に。これだけは伝えておきたい。
「なんでしょう、姉上」
「………私のこと、ずっと助けてくれてありがとう。私、リーフと双子で本当に良かった。」
「………まるで今生の別れですね。縁起でもない。」
擽ったそうに目を細め、リーフは笑う。
「あはは。そうだよね、ごめんね。」
「……積もる話は全て終わってからにしましょう。だから…」
「うん。絶対に生きて、全部終わらせよう。」
そうだ、彼にはまだまだ言いたいことや話したいことが山ほどある。ここで死ぬのも、死なれるのも困る。10年振りに再会してすぐ死に別れるだなんてごめんだ。そんな悲劇は小説や空想の中だけで充分だ。
「総員突入!第一特攻隊は私についてきてください!」
「第二は第一の補佐に回れ!」
ここで、リーフとは一時別行動だ。ここから先は一人で部隊を指揮しなくてはならない。不安はあるが、これが自分の役割だ。大丈夫、恐れずに為すべき事を為せば良い。
リーフから事前に城内の構造は叩き込まれている。王族が有事の際に使う秘密の抜け道も含めて把握している。と言っても、その抜け道は念のためにとレンクが事前に塞いでいるのだが。
4つの組織構成から成るハーティームーン王国騎士団、その内第三・第四騎士団はレインバースとの国境の警備や双子の王族の捜索で鎮静化にまで手が回らない。第一騎士団は革命軍との交戦、そして第二騎士団の一部の部隊と共に爆破事件の後処理や、国民の避難誘導に当たっている。つまり、城に残っている兵力は残された第二騎士団の部隊だ。
更に付け加えるなら、第二騎士団のトップであるクロノワールとミルノはいずれも戦線に身を投じている。いかに訓練された兵達といえど、司令塔も無く戦うのは厳しいはずだ。追い風は革命軍側に吹いている。
率いた仲間達と共に城内に突入すると、騎士の姿はほとんど見られなかった。やはり兵力が外の守りに集中した影響だろうか、無理もない。
とは言え、姿が見えないからと油断は出来ない。第二騎士団の得意分野は諜報活動や要人の護衛だ。そこに籍を置く者達は言わば一流の暗躍者。影に潜む事、人を護ることは彼等の得意分野だ。
恐らく今も、侵入者たるリース達を排除しようと、どこかに身を潜めている事だろう。
「!」
突如、死角から第二騎士団の兵士が襲撃してくる。握られた剣を振り下ろすその腕を瞬時に掴み、思い切り床に投げつけ先を急ぐ。長年アマロとレンクを相手に修業を続けていたのだ。正規軍が相手とは言え、簡単にやられはしない。
しかし此処で二の足を踏んでいる訳にもいかない。こうしている間にも、王を逃がされてしまうかもしれないのだから。幾度となく襲いくる兵士達の攻撃をいなしていると、革命軍の数人が声を上げる。
「リース王女!ここは我々にお任せを!」
「貴女様はどうか先にお進みください!」
そう言って、彼等は果敢にも兵士達に向かっていく。リースを追う者を、少しでも減らそうと言うのだろう。
勿論自分を追う兵士が少ないに越したことはないのだが、統率をとっている自身の周りから戦力が減っていくのは少々心細い。何より、その後の彼らを案じると胸が痛んだ。
「………気をつけて…!」
彼等の健闘と無事を祈り、リースは再び走る。
城内で騎士と遭遇する度、特攻部隊の面々が離れていく。皆一様に『ここで時間を稼ぐ』と言って。
それでもリースは走る他なかった。今ここで立ち止まってしまえば、全てが無意味なものとなってしまうのだから。例え無謀でも進むしかない。隠された部屋や通路も含めて、城内の構造は全て頭に入っている。後は王が居そうな所を絞り込み、そこを目指すだけだ。
兵士達に襲われ、仲間と別れながらも、がむしゃらに標的を探す。気付けば部隊はリース一人になっていた。
心細さなど感じている場合では無い。王が居るとしたらどこだろうか。
まず、爆破事件を起こしたのは夜明けだ。その時王は寝室にいただろう。
その時点で、地上に敵が居ることは想定できる。わざわざ危険な地上に降りていくとは考え難い。とすれば、残された逃げ道は上しかない。こちらが知らない抜け道や隠し部屋があればお手上げだが。
廊下を駆け抜け、階段を上がり、隠し扉を通って最短ルートで最上階を目指す。最上階…城の中でも王族の私室や謁見の間と言った、最も重要な部屋が並ぶフロアだ。だからこのフロアは暗殺等を防止するため、非常に見晴らしが良い。部屋数も他の階より少ない上に、人が隠れられそうな物陰は徹底的に排除されているので、探すのにさほど手間は掛からなかった。
今は亡き王妃や王女…姉達の私室だっただろう部屋を見て回る。豪華絢爛な調度品や椅子に掛けられたローブ、机に放置されたトランプや本の山は、部屋の主が居なくなったその日のままなのだろう。まるで部屋そのものが思い出に縋って時を止めたように思える。結局、それらの部屋にも王の姿はなかった。
続いて開いた扉の先は、予想外の光景が広がっていた。
「……ここは…………」
豪奢な天蓋付きのベッド、花の装飾があしらわれた鏡台、城の周囲一帯を一望できる大きな窓………明らかに寝起きするためのその部屋には、所々に大きななぬいぐるみや、可愛らしいアクセサリーが放置されている。この部屋を、リースは知っていた。
「ここ、夢に出てきた部屋と同じだ………」
リースがレンクとアマロから逃れ、宿に来た初日に見た夢。今思えばあの『夢』は記憶だったのだろう。幼い頃の自分はよく部屋まで聞こえてくる父の傲慢な怒鳴り声や、それに巻き込まれた人間の悲痛な叫びに怯えて、ベッドの上で震えていた。レンクやアマロ、リーフが部屋に来るのをただ待っていた。その夢に出てきた部屋は正しくここだったのだ。
「………大丈夫、もう怖くないよ。」
口をついて出た言葉は怯えて過ごしたこの部屋に投げたのか、それとも部屋に入ったときから感じていた不思議な視線に対してか分からない。返事をする影があるはずもなく、言葉は空気に溶ける。
「今まで見守ってくれて、ありがとう。」
感謝の言葉だけを残してリースは部屋を後にした。
残すは謁見の間だけだ。
閲覧ありがとうございました。
次回投稿を楽しみにお待ちください。
※この作品はpixivにて同時連載中となっております。




