侵略
立ち上る煙と戦いの気配の中、リースとリーフは隊を率いて城を目指していた。戦線により一層近付いたのだろう、日常から大きくかけ離れた光景に少し胸を痛める。国を救うために一時的にとはいえ、建物を爆破させる事もだが、兵や革命軍の面々が倒れていくのを見るのは、やはり辛いものがあった。この犠牲を無駄にしないためにも、今度こそこの悪夢のような現状を打開しなくては。
これまで革命軍が事を起こす度に多くの命が散っていった筈だ。今は亡き姉達の時も、今回だってそうだ。革命軍が踏みしめる大地は、大勢の人の血と肉で築き上げられている。だから、今度こそ成功させるのだ。何があっても。
城を目指して足早に進みながら、リースはその後のことを何となく考えていた。もしもこの行動が失敗してしまったら……。幹部という地位にいる以上、処刑は免れないだろう。それでも、この国が少しでも苦しみから救われて欲しい。国が望むなら、たとえ命を捧げても構わない。
この国には、リーフやレンク、アマロもいる。一人ではない。恐れる必要はない。まっすぐ突き進めばいい。
城がすぐそこに見える。思考を切り替え、リースは戦況を分析し始めた。目下の不安要素は第二騎士団の団長と指揮官だ。そのうち一人はレンクが引きつけ、特攻隊には接触しないようにしてくれているはずだ。ぶつかるのはどちらか一人だろう。そう思っていたのだが___
「これは………いい意味で想定外だな………」
「リーフ?どうかしたの?」
リーフは行動開始から、度々気配察知の魔法を度々使っては敵の気配を探っていた。正確には運命操作の魔法で一時的に気配察知の魔法を『使えるようにしている』、ということらしい。いずれにせよ、リーフの魔法で不要な戦いを避けてきたのだが、どうやら事態は好転したようだ。
「ミルノ指揮官が1ヶ所から動かないのです。ラフィル団長が前線に出てきているが…これはレンクとアマロが交戦中でしょう。どうやら追い風は革命軍に吹いているらしいな…」
「ちょっと待って、どういうこと?」
「おそらくですが…ミルノは拘束されているのではないかと。先程まで、彼女はアマロと交戦していたようでしたし、アマロの魔法なら不可能ではないでしょう。」
そもそも特攻部隊が動いたのはアマロからの通信がきっかけなのだが、その通信というのがアマロとミルノの会話をそのまま聞かせているという状況だった。ミルノはそれに気づいていないようだったが、それが交戦の合図となって今に至っている。通信を聞いていた弟は、ミルノのきつい言葉に苦笑していた。リースはというと、相変わらず記憶は、少しずつしか戻らない。第二騎士団指揮官のミルノという存在も、未だよく理解できていないままだ。ただ、リーフ曰く『一応、王の直属の部下』という事であるらしい。騎士団を統べているのは国王なので、順当に行けば将来的にミルノはリースの部下になるはずだと言う。
「何はともあれ、好機です。主戦力がこちらに向いていない今、畳み掛けるしかない。城内に兵は居るでしょうが……城外に出ている人数を見るに、大きな脅威にはならないでしょう。」
「でも下手すると団長が追ってくるかもしれない…一気に駆け抜けて、城内に侵入しない?」
「………姉上は昔から、時々妙に思い切りがよくなる御方でしたが…それは今もお変わりないようですね。」
「だめかな………?捕まるよりはいいと思うんだけど。」
「ええ、俺も同じように思っていました。」
マントに隠れた口元がにい、と弧を描いたのがわかる。悪戯っぽく笑うその顔はやはり子供のようにも、勝ちを確信した勝負師のようにも見えるのだ。
「じゃあ一気に突っ込もう。とにかく前へ。」
「御意。」
振り向いて、革命軍のメンバー達を見渡す。皆、突撃の指示を真剣な面持ちで待っている。あとは突撃して戦いを制するだけ、という所まで来ているのだ。勝利すれば、長年続いた地獄が漸く終わる。これはそういう戦いなのだから。
「姉上。」
リーフの優しい、柔らかな声が心地良く響く。細められた青い目は、美しく煌めきながらこちらを向いていた。
「ここからの指示は、貴女から発してください。」
リーフの言葉に呼応するように、どくんと心臓が音を立てた。
リースは今まで幹部として過ごしていたものの、自分の口から指示を出すことはほぼ無かった。それはひとえに、革命軍の面々への遠慮からだ。
今日まで革命軍はエルの導きによって、その戦力を強固な物にしてきた。
革命軍内で最も信頼されているエル…リーフの推挙とはいえ、少々剣の腕が立つというだけでメンバーに加えられ、いつの間にか幹部というポジションに就いた。これまでさまざまな苦労を背負いながらも革命軍を支えてきた古株のメンバーからは、ぽっと出の小娘が重役を任されているのは、あまり快いものではないだろう。だからこそ、リースはできる限り表だった行動を避け、訓練内容の構築や個々人へのアドバイスは、リーフを通じて行ってきた。
しかし改めて周りを見渡すと、皆がリースの言葉を、王女の言葉を待っていた。
今、私は求められている。
先導者の一人として、革命を終わらせた後に彼らが求める国を築き上げる存在として、この悪夢にピリオドを打つのは自分だ。彼等は等しく、リースを必要としていた。リーフと共に闘う革命家として、新しい国を作りあげる道導として期待されているのだ。
リーフは第一王子として、この国を『国民のための国』に作り替えるのだと誓っていた。リースも勿論、それに賛同していた。それは自分たちが最後の王族になるという宣言でもあった。リーフと共に自分たちの王族としての権限を、飢饉の脱却や絶対王制の廃止のため使うと約束したのだ。元より王族らしい事などほぼしていなかったのだから、このくらいの義務は当然だと思う。しかし、その約束に誰もが期待している。記憶の無い王女に対して、ここまで期待を寄せている彼らに応えたい。
「………10年間。…私はずっと消えたまま、誰も知らない場所で過ごしてきました。記憶も無くしたまま、王女らしい事なんて、したこともなかった。王族としてならきっと、皆さんをここまで導いてきたリーフの方が…弟の方が優れている筈です。だけど、それでも私は、これから皆が笑って過ごせるような国を作りたい。これまで弟を、私を信じてくださった皆さんに報いたい…だから、お願いです。私たち姉弟を信じて…最後まで、一緒に闘って下さい!」
心からの言葉だった、本心を叫んだ。今まで大声を出すようなことなんて全く無かったけれど、何故か今日は腹の底から声が出た。途端、喝采が上がる。今まで本でしか知らなかった演説の風景と重なって、これからまた新しい歴史が生み出されるのだと、胸が高鳴った。今はまだ、王女としての記憶も朧気で、弟にくっついているだけの、人形のような存在。それでも彼らは私を求めている。私という、明るい未来への先導者を求めている。
剣を鞘から抜き払い、そのまま真っ直ぐに城へと向けた。
「突撃です!何があってもとにかく前へ!私達が望んだ未来へ!」
鬨の声が響く。それは心臓から魂までを揺さぶり、その目に希望を灯す。
生きていたい。
笑っていたい。
ただそれだけを願う彼等と共に地平線を往く。この願いが叶う、未来のために。
閲覧ありがとうございました。
次回投稿を楽しみにお待ちください。
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