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LEAF MEMORY 〜始まりの鐘〜  作者: えんJOYラピス


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25/41

隠密

「(始まった………)」

 城内の騎士団本拠地。アマロの部隊が起こした騒ぎにミルノを派遣して数分後、遠くから剣をぶつけ合う音や魔法の詠唱が聞こえてきた。

 作戦通りアマロの率いる部隊は爆破事件を起こし、レンクは警備隊を緊急召集し、ミルノを追い出すことに成功した。城下町の治安維持、警備の強化…不審がられない程度にだが人手を割くことも出来た。滑り出しにしては上々と言ったところだろう。


「レンク。」

 声を掛けてきたのはクロノワールだった。ミルノに並び、革命軍が最も警戒すべき人物である彼は城に残している。彼は戦闘力も統率力もミルノ以上だ。アマロの部隊がぶつかったとしても、勝ち目は薄い。そんな戦いをしては無駄に戦力を消耗し、敵兵力を引きつけて時間を稼ぐ、という目的を果たせなくなってしまう。加えて万一、撤退した際に、逃げ道を塞がれる危険もあった。そのため、クロノとその直属の配下たちは、城内に留めるように手配した。


「クロノ?どうしたの?……その様子だと、やっぱり、反乱みたいだね。」

 レンクは普段からクロノとは何かと関わる機会が多い。何となくだが、クロノはレンクの面倒をみたがる節がある。年齢的に年上だから世話焼きになるのか、単に気に入られているだけなのかは分からない。ただそんなクロノとは自然と交流が増える訳で、今回ばかりはそれが危険要素となった。まして、相手は以上に勘の働く男だ。今の状況下で隠し事をしていると思われては、彼は確実に全てを暴きに来るだろう。


「ミルノはどうやら交戦中のようだね。全く…ただでさえ王子達の捜索で人手が割かれていると言うのに爆破事件なんて………嗚呼、美しくない………」

「とはいえ、お二人の捜索をやめるわけにもいかないし……かと言って、この騒ぎを放置しておく訳にも行かないもんね…」

 今行っている捜索は国民にとって、最後の希望だ。双子の王族が無事に見つかれば、王位を継承させることが出来る。国が落ちるところまで落ちた今、死亡手続きが行われるまで、もう一刻の猶予もない。この状況で捜索を止めてしまえば、多くの国民が希望を無くしてしまう。生きるために犯罪に手を染めることにすら躊躇わなくなる者も、今以上に増えるだろう。そうなれば、きっとこの国は破滅の道を突き進み、二度と引き返せなくなる。だから捜索は止められない。それを利用して人員を動かしたのだが、我ながら上手くいったものだ。


「伝令によると、騒ぎを起こした者を率いていたのはアマロだという報告もある。…まあ君のことだ、その辺りの報告はとっくに聞いているのだろうけれどね。どうするんだい?」

「………僕は相手が誰であっても、やるべき事をやるだけだよ。」

「そうかい。レンクらしい答えで安心したよ。アマロは何か不穏な感じがしたから、てっきり君もグルなのかと思っていたけど…どうやら僕の勘違いだったみたいだ。疑ってすまなかったね。」

 肩を叩きこちらを覗き込むクロノの口が弧を描いているだけで目は笑っていなかった。これはまずい、クロノは既にこちらが何か企んでいると勘付いている。だが様子を見る限りでは確信にまでは至っていない。何か隠していると察してはいるものの、それが何か探りたい…と言ったところだろうか。


「それにしても、アマロの目的は一体何だろうね。」

 探るような、疑いの眼差しが向けられる。心臓の奥まで見透かすような、静かで熱く燃える疑念。これは勝負所だ。今、この男に少しでも情報を与えてしまったら、きっと全ての作戦に先手を打たれて革命軍は惨敗するだろう。

 一つでもこちら側の動向に勘付かれないように、けれど不自然な対話にならないように。発言の取捨選択をリアルタイムで行わなければならない。


「もし本当にアマロがこの騒動に絡んでいるとしたら大事は避けられない…。アマロの家系は国内外に沢山信者がいる宗教の教祖の家系だし、それでなくても、王家に進言出来るだけの力を持った家……これが戦争の引き金とかにならないと良いけど………」

「国外勢力による買収、ということかい?」

「流石に断言は出来ないけどね。でも今この状況で国内に攻め込まれたら、間違いなくこの国は陥落するだろうし、無視できない可能性だと思う。」

 恐らくクロノはずっと前から、アマロの動きに不信感を持っていたのだろう。そして今日、この一連の騒動が起こった時点で疑念が確信に変わった。クロノはそこまで頭が回ると言うわけではないが、妙なところで勘が鋭いので侮れない。


「ともかく、今は騒ぎの沈静化を優先させるべきだよ。アマロがいる以上、このまま破壊行為が続けば、被害はどんどん大きくなるだろうからね。でも報告を聞いた感じだと、向こうの動きはかなり統率が取れてるみたいだし、爆破だって数ヶ所で起こってる。…ここから見聞きできる情報だけで判断しても、かなりの火薬が使われてるんじゃないかな。いくらスカイウォーク家がバックについていたとしても、この国の状況じゃ火薬なんて危険物を手に入れて、それを一般人の集まりが上手く扱えるとは思えない。でもそれが大量に使われている、そう考えると…」

「他国が絡んでいる可能性、か…。となると消耗戦になりそうだ。必要なら、第二騎士団の兵力を、まだいくらかは回せるが…どうだい?」

「そうだね………とりあえず城下の警戒はミルノの部隊に任せるよ。クロノは城の警備をお願い。」

「了解。はぁ…それにしても第三、第四騎士団は何をしているんだ…この非常時に!」

「第三と第四の騎士団は双子の捜索に出向いているし、国境の警備も緩めるわけにはいかないからね…今は僕達だけで動くしかないよ。」

「それはそうだが、もう少しこちらに人手を回しても良いだろう…!」

「仕方ないよ。それが国王の命令なんだから。」


 長きに渡って敵対し続けているレインバースは、ハーティームーンの隣国だ。一年を通して雨が降り、食糧難や水不足に陥った事が無いという雨に恵まれた国。その豊かな領土ほしさなのか、王はこの国に干渉し続け、小競り合いを延々と続けていた。最も、レインバースほどで無いにせよ、雨に恵まれ食料も豊富だったハーティームーンには無駄な対立なのだが。

 忠心深いクロノはやはり今も国王の身を案じていた。だからこそ、危険の及ばないように警備を固めておきたいのに、必要な兵力はその国王の命令で別のもの…言ってしまえば無意味な用途に使われているのが歯痒いようだった。この男はいつだって、あの暴君である主人の事を第一に考えているのだ。彼が何故あの王を敬い忠誠の限りを尽くすのか、レンクには分からなかった。


「まあ…いざとなったら、第二騎士団の精鋭全員でお守りすればいい事か。」

「意外とあっさり納得するんだね?…てっきりクロノはもっとイライラするかと思った。」

「今だって僕は納得していないよ。ただ、今ここでどうこう騒いだところで、それがあのお方のご命令であることに変わりは無いじゃないか。だったら従うしかない、それだけのことさ。」

 相変わらず、クロノの忠誠心はブレない。思わず苦笑してしまったレンクを不思議そうに見つめるクロノはきょとんとしていた。


「レンク様!クロノワール様!」

 伝令兵の焦った声が響く。駆け寄る彼に、何ごとだい?と向き直るクロノワールに伝令兵はこう報告した。

「報告いたします!城下町で起こった爆破事件、首謀者はアマロ団長で間違いありません!現在身柄を拘束すべく交戦中ですが、爆発による周囲への被害が甚大です!街での火災も多数発生!このままではこの城も危険です!」

「なっ………」

 クロノは驚きのあまり絶句していた。爆破事件がそこまで大規模だとは思わなかったようだ。無理も無い、作戦を知っているレンクだって、これほどの規模になるのは予想外だった。いくら首謀者が立場のある者とはいえ、この貧困を極めた国で、城にまで危害を及ぼしかねない程の爆発が起こせるだけの物資など、簡単に手に入らないと思っていたのだろう。アマロが申し出た爆弾の改良を手伝っていた時はここまで派手なことにならなかったから、あれからアマロが個人で更に改良したのだろう。いくら事前に『爆発の規模が更に大きくなった』と報告を受けていたとはいえ、まさかここまでとは…


「いかが致しましょう!レンク様、クロノワール様!」

 伝令兵が救いを請うかのような声色で指示を仰ぐ。少しの間を置いて、レンクは口を開いた。

「落ち着いて。………交戦中の第二騎士団はそのまま応戦。城下町を巡回中の部隊は直ぐに周辺住民の避難を最優先。怪我人や病人、子供は発見次第即時保護。いいね?」

「復唱!交戦中の第二騎士団は戦闘継続、城下町を巡回中の各部隊は住民の安全を最優先とし避難誘導!怪我人、病人、子供は発見次第即時保護とする!復唱終わり!」

「よし!」


 弾かれたように去っていった伝令兵から目線を移し、レンクはクロノに言った。

「…それからクロノ。城に残っている兵力の1/4くらいを消火部隊として派遣して、残った面々と君で城内の警備を強化して欲しいんだ。」

「了解。君はどうするんだい?」

「僕は消火部隊を指揮するよ。僕の水魔法は消火活動にはもってこいだからね。」

 魔法にも多くの種類があるが、レンクは実用的な水魔法の使い手だった。水を呼び、操る魔法は時に水路の氾濫を抑え、時に家々を焼き尽くす炎を掻き消し、大いにその威力を発揮した。

「分かったよ。…くれぐれも、アマロに絆されたりしないようにね。」

 クロノは颯爽とその場を後にする。後に残されたレンクは軽く身なりを整えると、急いで消火部隊をまとめるため動き出した。


 これで、王の周囲を更に手薄に出来る。

閲覧ありがとうございました。

次回投稿を楽しみにお待ちください。

※この作品はpixivにて同時連載中となっております。

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