目覚め
意識が浮上する。そこは鬼気迫る部屋などではなく、元の、革命軍が進撃準備をしている森の近くだった。随分と長い時が経ったように感じる。だが実際は大した時間は経っていないのだろう。周囲は暗く、夜明けまでにはまだ時間があるようだった。
「全部思い出されましたか?………姉上。」
目の前ではリーフが…あの時、囮になってまで自分たちを助けてくれた弟が、困ったように笑っていた。
さっきまで混乱していた頭が急速に冷えていく。ようやく少しずつ記憶が戻ってきていた。全てではないけれど、自分が記憶を失った経緯も、この男が自分の弟だという確信も持てた。
ふと右手を見やると手の甲が淡く光り、王家の紋が浮かんでいる。これはこの国の王族にのみ存在する証であることは知っていた。今になってこの印が自分に表れたのは、記憶を取り戻し、王族としての自我が甦ったためだろうか。
それはリーフが語ったことが全て真実である事を、疑いようもなく立証したのだ。
「………………全部じゃないけど……でも、あの時……あの場所で、四人で生き残る計画を立てたのは思い出したよ。」
一気に多くの記憶を呼び起こされたせいか、頭が痛む。リースは頭を軽くさすりながら答えた。
「あの時、レンクやアマロもあの場所にいたんだね。」
「ええ…あの二人は見習いだったとはいえ、あの頃から姉上に忠誠を誓った騎士でした。姉上をお守りするためなら命だって賭けるでしょう。」
ただでさえあんな状況だったんだから、と苦笑をこぼす弟の笑顔は昔から変わってはいなかった。それと同時に沸きあがってきたのは罪悪感だ。こんな自分を、何もできなかった自分を三人は10年もの間ずっと守り続けてくれていた。消した記憶が甦らないように、全てを隠してきたのだろう。優しい彼らのことだ、それも全部自分を守るためだというのは容易に想像がついた。
「さあ、姉上。俺がなぜ今ここであなたの記憶を呼び戻したか、お分かりですか?」
リーフは相変わらず優しく、懐かしく、そして真剣な鋭い瞳でこちらをじっと見つめている。その瞳が何を言いたいかは既に分かっていた。覚悟は出来ている。
「うん………もう終わりにしなくちゃいけないね。悪い歴史も、政治も………全部終わりにしよう。」
「分かっているのですか?それは俺たちの実の父を葬るということ、俺たちは国の為に父を殺すことになる。」
「そうだね………でも仕方がないよ。王族の役目は国民が豊かに暮らせる国に導くことでしょ?それができなかった…しなかった。だからその報いが来た。それだけだよ。」
「………記憶を取り戻しただけで随分と、一国の王女らしくなられたものだ。」
「あはは…いきなり王女気取るなって呆れた?…でもね、これは王族とか剣士とかそういうの抜きで考えた、私個人の考えだよ。王族の務めは国のために動くこと。たとえそれが自分から見ていい方向に向かっていたものだったとしても、それが正しいとは限らない。今の国王…私たちからしたらお父さんになるから…父上かな?父上は間違っていただけだよ。でもそれは取り返しのつかない間違いだったんだから、仕方ない。まだ完全に思い出したわけじゃないから、国王に対する情とかはあんまりないけど………それでも父親を手にかける覚悟はできてるよ。」
「…そうか。貴女は生まれながらに王女でしたね。昔から貴女は一個人としても、王女としても毅然としておられる。」
要らぬ心配だったな、と微笑む弟は手を差し伸べる。
その手を取ると彼は満足そうに目を細めた。
「さあ、行きましょう姉上。今ごろ、幹部たちが最終確認のために集まっています。彼らにも、最後の希望が揃ったことを伝えねばなりません。」
そっとリーフのその手を取る。微かな不安と期待、そして少しの寂しさを胸に本部に向かった。
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