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LEAF MEMORY 〜始まりの鐘〜  作者: えんJOYラピス


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12/14

戦場に舞うカフェオレ

 騎士団の門戸を叩いたその日が蘇ったのは何故だろうか。


 ラフィルがスカイウォークに揺さぶりをかけていると聞いた時、私は心底苛立った。また考え無しに行動を起こしたのかと呆れ、なぜ指揮官である私に話を通さなかったのかと不満を持った。あの男は昔から周りの事などは何処吹く風で、自分の思うままに動いて人を振り回す。それがずっと気に食わなかった。

 そしてそれは他の騎士団長にも言えることだ。一王国の騎士団も名ばかりでは意味が無い。国民が畏れ敬う威光があってこそ、国を担うに相応しい誇り高き一団となる。だからこの国では力の象徴として騎士団長を、知略の象徴として指揮官を。それぞれを対等な権威を持つ騎士団の先導者とした。


 しかしその結果はあまりに口惜しいものだった。今の騎士団長は皆揃いも揃って視野も狭く、暴れる事や己の興味関心しか頭にない愚か者ばかり。指揮官は騎士団長の暴走や見切り発車を抑えながら最善の策を模索する…私達指揮官は貴様ら団長共のお守り係ではないのだぞ。

 何より私が許せないのは奴らが揃いも揃って頭脳以外は優秀である点だ。戦闘力はもとより体格や筋力、魔法の使える体質……何も身体能力に限った話では無い。例えばスカイウォークは王族への進言を許された高貴な身分の生まれだ。クロノワールの出も貴族だと聞く。他の団長も指揮官も、一般兵だって皆生まれながらに何らかの才能や地位に恵まれている。……私と違って。


 私はスラム街に住む貧しい母の元、魔法が使えない女としての生を受けた。父の顔は知らない。乱暴を受けた女が父無子を産むなんてこと、スラム街ではよくある話だ。何処の馬の骨とも知らぬ憎い相手の子だと言うのに、母は私を大切に育ててくれた。

 安定した収入も縋る宛てもないから、私と母は何かを学ぶことも、体を鍛えることも許されなかった。貧困が私達母娘を縛り蝕み、更なる地獄へと腕を引く。私がそこから逃れる唯一の術は、幼いうちから少年騎士団に入団し、騎士としてトップに立つことだった。学のない幼子はそれだけで仕事すら回しては貰えない。まして貧しく小汚いともあれば尚更だ。今ほどでは無いにしろ、皆生活するのに必死な時代だったのだから、子供を労働力として教育する余裕なんてどこにだってない。王の庇護下にあり、成績次第で将来仕事にもありつける未来の騎士の養成所、少年騎士団だけが私に残るただ一つの救いだった。


 けれどその希望すらも当時の私にとっては不確かで小さなものだ。入団前の素性調査でスラム街の生まれと分かれば不穏分子と見られる。勿論それだけで入団出来ないなんてことは無いが体も細く小汚い、学も無ければ金もない。なにより魔法も使えない少女は明らかに歓迎されてはいなかった。


『魔法も使えないし、ましてや君は女の子だろう?なぜ城仕えのメイドとか料理人では無いんだい?』

『言っちゃあなんだが、今までの女騎士は皆男性との戦闘力の差を魔法でカバーしていた人が大半だ。魔法が使えない君にとって騎士団は向いていないんじゃないかな?』

 入団面接で、言葉を変え態度を変え、幾度も突きつけられてきた言葉は今も私の胸に染みついて消えない。


 神話の時代からあらゆる生物は雄が狩りを、雌が子育てを行ってきた。人間もその例に漏れず、永く続いたその生活から男は女より強い力を手に入れた。それ故に女にとって戦場で男と並び立つだけの力は必須だった。どうすることも出来ず生まれ持った筋力差、それを魔法でカバーし男騎士と変わらない戦闘力を振るうのが女騎士。どう足掻いても力で劣る女が騎士として活躍するにはそこを補う必要があった。だからこそ騎士として生きた女は自らの魔法を磨いた。けれど私はその魔法すら持ってない。


 貧しく魔法も使えない女に生まれた。それだけで、私のスタートラインは奴らと大きくかけ離れている。同じ速度で走る馬の距離が縮まらないのと同じように、出だしから差がついている状況下では先を行く連中が圧倒的に有利であることは明白だ。それこそ私が限界を超える速度で成長したとしても、それが奴らと等速ではいつまでも差は埋まらない。それは承知の上だと面接官を説得し、辛くも私は少年騎士団に入団できた。


 私は齢8つで自らの境遇の意味を知り、地獄から這い上がる為に研鑽を重ね続けて来た。周りとの差や嘲笑と好奇の目を叩きつけられながら、追いかけても追いつけない存在を相手に差を開かれぬようにと思っていた。


 だが現実は思っていた以上に腐って甘い香を放つものだった。

 私はまるで追いつけないつもりでいたというのに、手合わせで私に勝てる相手はどんどん減っていった。否、手合わせだけでは無い。知略でも工作訓練でも諜報訓練でも、私に勝てる相手はほんのひと握りになり、いつしか私は少年騎士団の成績優秀者に名を連ねていた。

 周りに言わせれば『魔法と性差のハンデを蹴散らし、下克上を果たした未来の女騎士』という美談らしいが、私にとっては『欲しかったものを無碍に扱う連中ばかりがのうのうと生きている』と突きつけられただけのこと。

 素直に喜べるはずもなかった。生活に困らない財力や騎士として生きていくのに不自由ない力を持つ人間が、私より優秀であるはずの連中が気付けば私より下にいる。


 持っているものの価値に気付かず、自分は持たざる者だと嘆いている。金が無いと言うなら、その無駄な飾り気を最小限にしたらいいだろう。学が足りないなら、無償解放されている図書室で自ら学べばいい。力がないと諦めるなら、人一倍鍛錬に励めば済むことだ。私には無い才能や環境を持て余している連中が気に入らない。使えるものは最大限活用してこそだと言うのに、それをしない連中など、私は大嫌いだ。

 だというのに、そんな人間ばかりが私を哀れみ蔑んで来た。『魔法も使えぬ非力な女』『貧しく学もない可哀想な娘』………そんな勝手なラベルを貼られた私がいざ優秀者になってみれば、まるで何事も無かったかのように掌を返す。自らが無遠慮に残したこの評価はそのままに、さも『最初からやると信じていました』とでも言いたげに私を持て囃す。


 ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな!


 私は優秀なんかじゃない。お前達が、私より遥かに優秀であるべきお前達がただ怠惰なだけじゃないか。私は本気を出したお前達と並び立つことすら許されない人間だったと言うのに!

 少女時代に受けた絶望は成長した今でも私を蝕み続けている。否、正式に騎士団に入団してから、より一層深みを増していた。

 自分とは住む世界が違うからと、なにもかも諦めた市民。生きていられているからと与えられた現状に甘んじたままの一般兵。体格と力、そして魔法に恵まれながらもただそれを振るうことしか考えない団長……正式な騎士となってからは悪夢の連続だ。常日頃から戦闘狂の不始末をさせられ、ふざけた二つ名までつけられて。


 それでも私はここで戦う他ない。これは一種の執着、果ては呪縛のようなものだ。他人に己の生き方を強制する気は毛頭ないが、私はあんな甘ったれた精神を許せない。持てる全てを最大限まで利用せずして騎士などと、この国を守ると言わせてなるものか。あんな連中に、もう二度と大きな顔はさせない。

 そのためにも先ずスカイウォークの企みを暴かねば。目の前の問題も片付けられないようでは騎士団全体のてこ入れなどできるわけが無いのだから。これでもし馬鹿な事を企んでいるのだとしたら私は生涯、決してお前を許せなくなるだろう。

 今に見ていろ、アマロ・スカイウォーク。私が貴様の化けの皮を剥いでやる。

閲覧ありがとうございました。

次回投稿を楽しみにお待ちください。

※この作品はpixivにて同時連載中となっております。

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