第38章 悠助とメイゲイル 982話
メイゲイルとインポータントデイが放牧先から栗東トレセンに帰って来た。
その事を帰宅した雄太は春香に報告をした。
「そっか。元気に帰ってきてくれたんだね。秋競馬が始まったら、また応援しなきゃ」
「そうだな。俺も楽しみだ」
「うん」
リビングで俊洋と美理愛と遊んでいた悠助は、ジッと雄太を見ていた。
雄太が地下のトレーニングルームでトレーニングしていた時だ。
カチャリとドアが開く音がした。
(ん?)
雄太がそちらを見ているとソォーッとドアが少し開いた。半分ぐらい開くと、ドアの影から悠助が顔を覗かせる。
「パーパ」
「どうした? 悠助」
雄太が録画のチェックをしている時やトレーニングをしている時は邪魔してはいけないのを、春香に言われているのに珍しいなと思った。
「アノネ、ボク……。ゲイルニアイタインダケド……ダメカナ?」
コソッとお強請りしている姿は、凱央に似てるなぁ〜と雄太は思う。
そして、競走馬には所有者や管理者がいて許可なくあえるものではないと分かっているのを嬉しく思った。
「そうか。悠助は、ゲイルに秋競馬頑張ってって言いたいんだな」
「ウン」
「じゃあ、江川調教師にお願いしておいてやるからな?」
雄太がニッコリと笑って言うと悠助はドアを全開にしてパァーと顔を輝かせた。
「アリガトウ、パーパ」
「そのかわり、ママのお手伝いしたり俊洋と美理愛の遊び相手をいっぱいしてやるんだぞ?」
「ワカッタァ〜」
コクコクと頷きながら、悠助はドアを閉めた。
(ゲイルが放牧に出てたから淋しかったんだろうな。乗馬教室に行く時も、よくトレセンのほうを見てたし)
今をもっても悠助がメイゲイルに何を感じて夢中になったかは分からない。似たような馬はいるし、初めてメイゲイルと対面した時はそこまで成績の良い馬でもなかった。
皆が皆、強い馬に魅力を感じたり応援するのでないのも分かっている。
(悠助はゲイルに何かしら惹かれるものがあったんだよな)
メイゲイルは雄太が乗るようになるまで、どちらかと言えば『後一歩及ばず』といった感じだったのだ。それでも江川調教師や厩舎スタッフはメイゲイルの事を諦めていなかった。
雄太も『何で勝ちきれないんだろうな? 良い馬なのに』と思っていた。
他馬を寄せつけない圧巻の逃げをするメイゲイルの背中を任せてもらえる事を雄太は誇りに思っている。
(諦めずに頑張れば、必ずなんらかの結果が出るって、俺は馬に教わってるんだよな)
流れる汗をタオルで拭い、明日江川にメイゲイルに会えないかと訊いてやらなきゃなと思いながら自室から着替えを手にして一階へと向かった。
「ただいま、ママ。あ、パパおかえりなさい」
「お、凱央。おかえり」
雄太が水分補給をしていると、凱央が学校から帰ってきて、手洗いのついでに顔を洗ってきたのだろう。前髪が濡れて束になっている。
「はい、凱央。麦茶」
「ありがとう、ママ」
グラスを受け取った凱央はゴクゴクと飲んだ。
ふと、雄太は凱央の身長がまた伸びていると感じた。
「凱央。背が伸びたな」
「うん。もうあんまり伸びてほしくないんだけどね」
「騎手になるなら、身長が伸び過ぎると減量で苦労するからなぁ……」
「パパより低くてママより高いぐらいで良いって思ってるよ」
ニコニコと笑う凱央の顔が近くなった気がして、雄太はクシャクシャと凱央の髪を撫でた。
「よし。パパも今トレーニング終わったところだし、一緒に風呂入るか?」
「うん。汗だくになったし」
まだ残暑が酷しいから、近いとはいえ学校から走って帰ってくると汗だくになるのだ。
「パー、オフヨ」
「え? 美理愛もか?」
「パッパ、オフロハイル〜」
「俊洋も?」
「パーパ、ボクモ、パーパトオフロハイル」
「悠助まで……」
子供達はピョンピョンと跳ねながら雄太の服の裾を引っ張ったりして大騒ぎだ。
「やっぱり、うちの子達はパパッ子だね」
「よし、じゃあ風呂に入るぞぉ〜」
いつまで一緒に風呂に入れるか分からないから、今の内に家族揃っての風呂を楽しみたい雄太だった。




