981話
翌日曜日、春香は子供達と理保を伴って祖母の通夜に訪れていた。
祖母の葬儀会場は『元病院長の妻』にふさわしい大きな会場だった。
(おばあちゃん……)
祖母が好きだったカサブランカが飾られた祭壇の中心にある祖母の遺影は凛とした顔をしていた。
通夜と葬儀の予定を教えてくれた直樹は『出来れば親族席に座ってくれないか』と言っていたが、『子供達に最期の別れをさせたいから連れて行く』という事で春香は断った。
行かないという選択肢はなかったが、春香は親族席に座るという気にはなれなかったのだ。
「ほら、子供達は通夜や葬儀っていう長い時間大人しくしていられないと思うんだよね」
『まぁ……そうか』
「立ったり座ったりしたら、他の親族の方々にも申し訳ないしね。最期の別れをさせてもらえたらそれで良いから。重幸おじさんにも、そう伝えておいて」
直樹も子供達には長時間座っているのは無理だと分かっていたから、無理にとは言わなかった。
「お祖母様、直樹さんに似てらっしゃったのね」
「そうですね」
喪服に身を包み美理愛を抱っこしている春香と同じく喪服の理保が俊洋の手を握り、制服を着た凱央と悠助が会場に入り焼香の列に並ぶ。
凱央達に理解が出来るように話したが、いまいち分かっていなさそうだった。
だが、会場の雰囲気で『騒いではいけない』と思ったのだろう。一番末の美理愛でさえ大人しく春香に抱かれていた。
「ママとバァバがやるの真似してね?」
凱央達は黙って頷き、無事に焼香を済ませた。凱央達は小さな手を合わせていたが、遺影の人物が『曾祖母と言われても理解出来ていないだろう。
(おじいちゃん……。お父さん……。重幸おじさん……)
ガックリと肩を落とした祖父、目を赤くした直樹と重幸に一礼をして春香達はゆっくりと会場を出た。
翌日の葬儀には雄太と慎一郎も参列してくれた。
「お祖母さん、最期まで春香を認めてくれなかったな」
「仕方ないよ」
いくら直樹が説明しても、当初養女にするのを反対していた重幸が賛成した経緯を説明しても、頑として首を縦に振らなかった。
その春香が雄太と結婚をした後は、雄太が競馬関係者という事もあり更に頑なになっていた。
それでも直樹と重幸の母であり、最期の見送りが出来て良かったと春香はホッと息を吐いた。
「ママ。あのお写真の人はだれだったの?」
「ん? 凱央達の曾祖母ちゃんだよ。東雲のジィジのママだよ」
帰る前に遅くなった昼食を食べようと寄ったファミレスでお子様ランチを食べていた凱央が訊いた。
凱央は薄っすらと納得したようだったが、悠助と俊洋はキョトンとしていた。
「春香。説明してなかったのか?」
「説明したんだけど、理解出来てないみたい」
雄太がコッソリと訊ね、春香も小さな声で答えた。
「会った事がないもんな。仕方ないか」
「うん。その内、お葬式に出た事も忘れちゃうんじゃないかな?」
「そうかもな」
凱央は覚えていたとしても、悠助達は記憶に残らないだろうなと二人は思った。
「マー。オタワリホチイ」
「はいはい」
春香は美理愛の器にご飯と小さくしたハンバーグを入れてやった。
凱央達もだが、一度も会ってはくれなかった直樹の母の葬儀に出た雄太は、何とも言えない気持ちが胸にあった。
(お義父さんには申し訳ないけど、妻の祖母っの葬儀って感じがしなかったな……。赤の他人とまでは言わないけど……)
春香を認めなかったという事を置いておいても、何の感情も湧かなかった。
(え? あれ? 俺って冷たい……のか……?)
人の死について何も思わない自分が異常な気がした。
「私って冷たいのかなぁ……。おばあちゃんが亡くなっても何の感情も湧かなかったんだよね。もっと悲しいって気持ちが出て来るかなって……。雄太くん?」
春香は雄太が真っ直ぐに見詰めているのに気づいた。ただ、黙ってジッと見ている。
春香が同じ気持ちだったのかと思ったら言葉が出て来なかったのだ。
仕方なくキョトンとした顔をしている春香の頭を撫でた雄太だった。




