978話
9月に入り、雄太は時間がある時に春香の誕生日プレゼントを考える事が増えた。
普段から物欲のない春香を喜ばせるにはと、雄太は頭を悩ませている。
コレクションルームでレースの見返しをし終えた雄太は、フウと息を吐いて目を閉じた。
「誕生日プレゼントもだけど、今年で結婚十年なんだよな」
雄太と春香の結婚記念日は1988年11月28日だ。慎一郎に結婚を許してもらい、入籍をした日を思い出すと雄太の心はポカポカと温かくなる。
付き合っている時も、入籍をしてからも決して平坦な日々ばかりだった訳ではない。紆余曲折あったなと思う。
「春香には気苦労かけてばかりなんだよな」
いつもそう思うが、春香はどんな時もどんな事があっても、ここ一番は頼りになる。どれだけ助けられたか分からないと雄太は思っていた。
『雄太くんが傍にいてくれて、子供達が元気で笑っててくれるから、私は幸せなんだよ』
そう言って共に手を取り一緒に歩んで来た十年だ。
雄太は椅子から立ち上がると自室に入り、クローゼットを開けて上部の棚に置いてある小箱を手に取った。蓋を開け中を見る。
(やっと十個だ。春香、喜んでくれるかな?)
梅野のアドバイスで毎年買い足してきた春香への贈り物を見詰めて小さく笑う。
蓋を閉めて、また棚の上にしまった。
(これはこれだ。とにかく誕生日プレゼントを考えなきゃな)
雄太はググッと体を伸ばしてリビングへ向かった。
リビングのドアを開けるとフワッと良い香りが漂っていた。
ダイニングテーブルについた子供達は鮮やかな黄色のトウモロコシに齧り付いている。
「あ〜。トウモロコシ茹でたんだ」
「うん。良い匂いだよね」
雄太が椅子に座ると春香はキッチンに入り、雄太の分のトウモロコシを皿に乗せて戻ってきた。
雄太が北海道からたくさん送ったトウモロコシは子供達が持ちやすいように半分に切って冷凍保存してある。
春香は届いて直ぐ、そのまま齧る用と粒を外して料理に使う用と分けていた。
「いただきます」
ガブリと齧り付くとトウモロコシの甘味が口いっぱいに広がる。
「やっぱ北海道の採れたてって、保存してても美味いな」
「うん。本当、果物みたいな甘さだよね」
俊洋と美理愛は口の周りにはトウモロコシの欠片がいっぱいついているが気にもせずに夢中だ。
悠助は器用に歯を粒に当てて外しながら食べているが、俊洋達はまだ出来ないでガツガツ食べているからだ。
「悠助は凱央の食べ方を真似出来るようになったんだな」
「ウン。トウモロコシ、オイシイネ」
インターホンが鳴り、春香が対応する。凱央が学校から帰ってきたのだ。
凱央もトウモロコシが好きだ。きっと、喜んで食べるだろうと、春香は準備を始めた。
(う〜ん。多いかなって思ったけど、もう一箱送れば良かったかな? でも、そうなると冷凍庫がパンパンになるか……)
雄太は手を洗ってきてトウモロコシを夢中で食べている凱央の笑顔を見ながら考えていた。
夕方になり、純也がやってきた。
「春さんのコロッケ〜」
「ソル……。落ち着け……」
春香は純也がコロッケに喜ぶ理由が分からずにキョトンとしていた。
「あれ? 春さん、雄太が北海道で……モガッ!」
北海道で雄太が言った事を春香に聞かせようとした純也の口を雄太は両手で塞いだ。
「北海道……?」
「何でもない、何でもない」
「モゴゴモゴ、モガモゴモガァ〜」
雄太は純也の口を塞いだままリビングにズルズルと引きずって行った。
「パパと純兄ちゃん、何してるんだろね?」
「さぁ……? ママにも分からないわ」
お手伝いをしてくれている凱央が不思議そうな顔でリビングの雄太と純也を見ている。
その後、テーブルにはたっぷりコーンコロッケと牛スジ肉コロッケ、カボチャコロッケというコロッケ達とコーンと枝豆のかき揚げがテーブルに並んだ。
「美味いっ! これ最高〜っ!」
「あはは。お口に合って良かったです」
純也は大きな口でコロッケをパクパク食べ、子供達も嬉しそうにコロッケを頬張っていた。




