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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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938話


 3月3日(火曜日)


 美理愛は一歳の誕生日を迎えた。


 伝い歩きが出来るようになり足の力が更に強くなり、ベビーウォーカーでの移動も早くなった。


 ゴロゴロ ゴロゴロ


 雄太宅のリビングからダイニングまでの広い空間を端から端まで走り周っている。


(あはは。本当、元気いっぱいだなぁ〜。上がお兄ちゃんだとお転婆になるのって本当なのかも)


 凱央が学校から帰ってきたら誕生日と初節句のお祝いをする予定なのだが、今の状態で爆走していたらお祝いしている途中で眠くなってしまうのではと思うぐらいだ。


「マッマ。オモチャカタヅケタヨ」

「俊洋。お利口さんね」


 俊洋は春香に褒められ嬉しそうに笑う。美理愛が産まれてから一気にお兄ちゃんぽくなった。


「マッマ、ソレトマト?」

「そうだよ。サラダの入れ物にするんだよ」


 春香がキッチンで飾り切りをしているのを興味深そうに眺めている俊洋の言葉に美理愛がベビーウォーカーでリビングからやっていた。


「マー」

「え?」


 はっきりと聞こえた美理愛の言葉に春香は手を止めた。


「マッマ。ミリアガマッマヨンデル」

「うん。今、マーって言ったよね?」


 キッチンに入るところにはベビーゲートが設置してある。そのギリギリのところで、美理愛が春香を見ながら両手を伸ばしている。


「マー」

「なぁに、美理愛」


 ベビーゲートを開けて美理愛の前に膝をつくと、美理愛は春香の手を取った。


(ん? あ、もしかして……)


 春香は立ち上がり、飾り切りをしたトマトの切り取った物を美理愛に見せた。


「マー、マー」

(やっぱり)


 春香はクスクスと笑いながらトマトの欠片かけらを美理愛の口に入れてやった。


「俊洋もトマト食べる?」

「ボクハ、キュウリガイイ〜」


 春香はキュウリを俊洋の口に入れてやる。ポリポリと良い音がする。


「マー」

「まだ食べたいの?」


 小さなトマトの欠片を差し出すと、美理愛は春香の手をガシッと掴みパクっと食べた。


 春香の手をハムハムすると小さな乳歯が当たる。


「美理愛……。ママの手は食べられないよ?」


 春香は苦笑いを浮かべて、美理愛の口から自分の手を救出した。




 午後になり、慎一郎達と直樹達がやってきて、美理愛は直樹が買ってきたフリフリのドレスのような洋服を着せてもらっていた。


「美理愛、これからも元気いっぱいでな」

「本当に可愛いわね」


 直樹達はきっと見た事がない春香の幼い頃を想像したのだろう。薄っすらと涙ぐんでいるように見える。


「おぉ〜。可愛いな」

「あらあら、美理愛。お姫様みたいね」


 慎一郎達は初めての女の子の孫の初節句に感無量といった感じだ。


(父さんも母さんもメロメロ過ぎるだろ)


 美理愛は新しい洋服を着させてもらい里美に支えられて立っていたのだが、体を捻り凱央のほうに一歩踏み出した。


「あ……歩いた……」


 雄太の口から出た言葉に、慎一郎達も直樹達も目を丸くして美理愛を見詰めた。


「みりあ。ゆっくりだよ?」

「ウヤゥ……ニャニイ……」


 凱央が手を広げて待ってやっている。美理愛は、また一歩と凱央に近づいていた。


「ミリア。モウスコシダヨ」

「ガンバレ、ミリア」


 悠助も俊洋も体を乗り出して応援している。


 小さな足がチョコンチョコンと前に進んでいく。凱央は近寄りたい気持ちを押さえながら両手を伸ばして美理愛を見詰めている。


 そして、美理愛の指先が凱央の手に触れた。


「みりあ、じょうずに歩けたね」

「アバァダウアゥ」


 凱央の腕にしがみつき、美理愛は嬉しそうに笑った。


「あぁ……。美理愛が初めて歩いた時を見られるとは」

「嬉しいですね、あなた」


 慎一郎も理保も嬉しそうだ。


「感動的だな。初めて歩いたのを見られるとか」

「可愛いわ」


 ビデオカメラで撮影していた春香の目も潤んでいる。


「美理愛が歩いたのは嬉しいけど、何で凱央のところに向かったんだ? 俺のところに来てくれても良かっのに……」


 凱央の隣に座っていた雄太は少し拗ねたように言った。


 皆、顔を見合わせて大笑いをした。







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