934話
メイゲイルのバレンタインステークスでの勝利を見届けた悠助は、ますますメイゲイルに夢中になっていた。
「マーマ。パーパガカエッテキタラ、マタゲイユニアワセテクレルカナ?」
「そうだね。おめでとう言いたいもんね。パパにお願いしてみようね」
「ウンっ!」
メイゲイルのレースの翌日も、悠助は黄緑色のポンポンを持って雄太の応援をしていた。
(悠助の応援も激しいから、予備のポンポンを作っておいてあげよう)
テレビの前で雄太の応援している姿に春香は小さく笑っていた。
土曜日は東京での騎乗があり、日曜日は京都だった雄太は、まだ子供達が起きている時間に帰宅が出来る。
子供達もだが、雄太も帰宅後子供達と顔を合わせる京都や阪神での騎乗は嬉しいようだ。
「ただいま」
「パパっ! おかえりなさい〜」
「パーパ、ゲイユトカッタネ」
「パッパ、パッパァ〜」
「ワゥア〜ンバウナァ〜」
雄太が玄関のドアを開けると一気に賑やかになる。
「お疲れ様、雄太くん」
「ああ。変わった事はないか?」
「うん」
雄太はレースの結果を顔に出すほうではないが、やはりメイゲイルの久し振りの勝利も翌日の勝利も嬉しかったようで、明るい表情をしていた。
「アノネ、パーパ」
「どうした、悠助」
「ゲイユニ、オメデトウイイタイ」
食後、悠助はソファーでくつろいでいた雄太の横に座ってお強請りをした。
(馬に会いたいって言う時の顔って、やっぱり春香とそっくりだな)
雄太自身が目を輝かせてG1に出る馬や新馬戦に出る馬、そして慎一郎の騎乗馬を馬房へ覗きに行っていた頃、悠助だけでなく凱央達や春香のように目を輝かせていたのは分かっていない。
春香は慎一郎達から聞かされていて、凱央達の馬を見る時の鼻息荒くワクワクウズウズしているのは雄太譲りだと思っていた。
(やっぱりうちの子達は雄太くん似なんだなぁ〜)
そんな事を思いながら、美理愛と遊んでいた。
「分かった。江川調教師に訊いておいてやるからな?」
「アリガトウ、パーパ」
悠助は雄太の首筋に抱き着いた。それを見ていた凱央達がソファーに駆け上がり凱央は雄太に抱き着き、俊洋は太ももの上に座った。
「ちょっ! お前達……」
さすがに大きくなった子供達の重さと、ソファーから転げ落ちさせてはいけないと抱えようと必死になっている姿に春香はクスクスと笑っている。
お兄ちゃん達の楽しそうな声に気づいた美理愛がベビーウォーカーの方向を変えて雄太のほうへとグングンと向かって行った。
「え? あ、雄太くん。美理愛も行ったぁ〜」
「ふぇっ⁉」
ゴロゴロ、ゴロゴロ
雄太がヒョイと足を上げてベビーウォーカーに轢かれないようにした。
「ウヤゥアウバ、ニャニイウォウ」
「み……美理愛。ちょっと待ってくれ」
雄太は俊洋を一度床に降ろして、美理愛を抱き上げ右の太ももに座らせ、片手で俊洋を抱き上げ左の太ももに座らせた。
(うふふ。うちの子達はパパ大好きなのが分かる光景だぁ〜)
キャッキャとパパに抱き着き、それぞれが話している。
(話してる内容って分かるのかな? 私、たまに分からない時あるのになぁ……)
雄太は一人一人に答えていて凄いなと思って見ていた。
子供達が眠って静かになったリビングで雄太と春香は寄り添って話す。
「ゲイル、凄く格好良かったね」
「俺もビックリしたんだよな。何かゲイルがやる気出してくれたみたいで、凄く生き生き走ってくれたんだよな」
「何かあったのかな?」
「多分……。ハーティの時と同じで自信がなくなってたんだと思うんだ」
ハーティの時に春香にも馬も自信喪失したり、思い悩む事があると雄太は話していた。
「悠助の影響もあると思う」
「悠助の?」
「ああ。悠助が一生懸命に話しかけてたのが良いほうに作用したんじゃないかなって思ったんだ。何の根拠がある訳じゃないけどさ」
馬に言葉は通じないと言われてはいるが、雄太は完璧に通じていないとは思っていない。
言葉は通じなくても気持ちは伝わると思っているのだ。
春香もそう思っているから深く頷いた。




