931話
2月8日(日曜日)
京都競馬場 11R 第38回きさらぎ賞 G3 15:45発走 芝1800m
まだまだ寒さが酷しい京都競馬場のパドックを雄太はジッと見詰めていた。
(晴れてても、まだ寒いよな。馬にとっては良いんだろうけど)
インポータントデイはゆったりとパドックを歩いている。黒鹿毛の馬体が冬の陽射しを受けて輝いている。
(デイの調子も良いし、ここは勝っておかないとな)
程々に良い気合いを入れているインポータントデイの姿を見て、雄太も気合いを入れる。
(デイ、一番人気だ。私には、良い馬の血統がぁ〜とか足の運びがぁ〜ってのは分からないけど、体がピカピカしてるのが良いっていうのは分かるもんね)
まだデビューして三戦目だというのに落ち着いて堂々として見える。
「がんばれ、がんばれパパ〜。がんばれ、がんばれデイ〜」
「パーパ、ガンバレェ〜」
「パッパ、パッパァ〜」
真新しい青いポンポンを揺らして、パドックの雄太へと声援を送る子供達に春香を笑顔で見ていた。
その足元に青いポンポンがポンっと飛んでくる。
「美理愛。そんなに激しくフリフリしなくても」
「ナニャウ〜ウォウ〜アウダァ〜」
いつの間にかテレビの画面に映る雄太をパパだと認識していて、ベビーウォーカーでベビーゲートの近くまで行ってポンポンを振っている。
(雄太くんに応援が届くと良いな)
春香は美理愛にポンポンを持たせてソファーに戻った。
インポータントデイはゆっくりとゲートに入った。
ガシャン
ゲートをスッと出たインポータントデイを雄太は中団に位置取らせた。
ゆっくりとしたペースでレースは進んでいく。
(雄太くん、頑張って。デイ、頑張って)
春香はギュッと両手を握り締めていた。インポータントデイは安定した走りで向こう正面に差しかかっていた。
「パパァ〜。デイ〜」
「パーパァ〜。パーパァ〜」
「ガンバレェ〜っ!」
その声が届いたのか4コーナーに入った辺りで、固まっていた馬群の中からゆっくりとインポータントデイが順位を上げたした。
(雄太くんっ! デイっ!)
ゆっくりとインポータントデイが他の馬達の横を追い抜いていく。
直線コースに入ったが、前に馬が多くいて進路がなかった。だがほんの少しの隙間をぬって、雄太はインポータントデイを前に出した。
そして、グングンと他馬を置き去りにして、先頭の馬に並びゴール直前で抜き去った。
「やったぁ〜。パパが勝ったぁ〜っ!」
「パーパガ、イチバンナッタァ〜」
「パッパ、カッタァ〜。デイカッタァ〜」
「ンバウ〜、ダダダァ〜」
子供達はポンポンを放り投げ、手に手を取って喜びを爆発させた。
(おめでとう、雄太くん。おめでとう、デイ)
凱央達がパタパタと駆け寄ってきた。美理愛はベビーウォーカーをゴロゴロと音を立てて春香に近寄って来た。
「パパが勝ったね。今夜はご馳走だよ」
キャッキャと喜んでいる子供達を見て春香は喜びが倍になった気がした。
「パパ、おめでとう〜」
「パーパ。イッパイオウエンシテタヨ〜」
「パッパ。パッパ、オメデトウ〜」
「ンバ〜アウダァ〜ウォウ〜」
自宅に戻った雄太は膝をついて子供達の頭を撫でてやろうとした瞬間囲まれた。
「あ……ありがとうな。ちょっと待ってくれぇ……」
嬉しそうに笑ってはいるが、まさにもみくちゃ状態だ。
「みんな、雄太くんとデイが勝ったのが嬉しいからってはしゃぎまくりながら待ってたんだよ」
そう言う春香も満面の笑みを浮かべていた。
「気持ちは分かるけど……。ほら、風呂入るぞ。一緒に入るんなら着替え取ってくるんだ。よ~いどん」
雄太が号令をかけると、キャッキャと喜んで凱央と悠助は二階の自室に走り、俊洋は春香の部屋に走った。
「ふふふ。雄太くん、おめでとう。格好良かったよ」
「ありがとう、春香」
雄太が春香を抱き締める。
「ウワウ〜ンバウ〜」
美理愛が自分を忘れてるのかと文句のように言い、雄太と春香は顔を見合わせて大笑いをした。




