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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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930話


 根岸厩舎を後にして、乗馬教室へ向かって歩いていると悠助が雄太の上着の裾をツンツンと引っ張った。


「どうした、悠助」

「パーパ。ゲイユニアエル?」

「え? ゲイルにか?」


 悠助は真っ直ぐに雄太の顔を見る。


「ん〜。どうだろう。今日、江川調教師(せんせい)に行くって言ってないからな……」

「ダメダッタラ、ボクガマンスル」


 前回会ってから、なぜか悠助がメイゲイルを気になっていたのは分かっていた。


(ゲイルの何が悠助を引きつけているんだろう……)


 メイゲイルは愛想が良い訳でもない。見た目も栗毛で珍しい毛色でもない。


 少し考えて、雄太は膝をついた。


「分かった。江川調教師(せんせい)に訊いてみるから。会えたとしても、ほんの少しの時間だぞ? 乗馬教室あるんだからな?」

「ウン」


 メイゲイルは江川厩舎の馬房にいるのは分かってはいるが、許可なく悠助を連れて行く訳にはいかない。


「じゃあ、私は凱央と俊洋連れて先に行ってるね」

「ああ、そうしてくれ」

「うん。凱央、俊洋。ママと行こうね」


 頷いた凱央と俊洋と一緒に春香は乗馬教室へ向かった。




「すみません。江川調教師(せんせい)いらっしゃいますか?」


 雄太が声をかけると、顔馴染みの厩務員が奥にいた江川を呼んでくれた。


 雄太が事情を話すと、江川は一瞬驚いた顔をしたが大きな声で笑った。


「ははは。良いよ、良いよ。会わせてやってくれても」

「急にすみません。なんか会いたいって言い出して」

「悠助くん、ゲイルの事を気に入ってくれてたって感じだったもんな」

「はい。じゃあ、呼んできます」


 悠助は厩舎の外側でしゃがみ込んで待っていた。


「悠助」


 名前を呼ばれた悠助は顔を上げた。ただメイゲイルに会えるのか不安そうな顔だった。


「江川調教師(せんせい)がゲイルに会っても良いって言ってくれたぞ」

「ホント? ゲイユアッテイイノ?」


 不安気な顔から、一瞬にしてパァーっと顔が輝く。


 立ち上がった悠助は雄太の手をギュッと握った。走り出したい気持ちを一生懸命に堪えているのだろう。


 雄太は悠助の手をしっかり握り締めて馬房へと向かった。


「ゲイル」


 外の景色を見ていたメイゲイルは、ピョコンと耳を動かした。


「ゲイユ。ボク、ゲイユニアイニキタヨ」


 悠助が馬房の外からメイゲイルに向かって声をかけた。メイゲイルはジッと悠助を見詰めている。


 前と違うのは悠助のほうにしっかりと耳を立てている事だ。そして、しばらく見ていた後、メイゲイルは悠助に向かって前掻きをし始めた。


(え? ゲイルが甘えようとしてる……? 疝痛じゃない……よな?)


 それまでメイゲイルが甘える仕草をした事があったかと雄太は考えた。


「ゲイユ、ゲイユ。アノネ、コレカラモモチャンニノルンダヨ。モモチャンハポニーナンダヨ」


 そこに江川が笑いながらやってきた。


「何だ、何だゲイル。お前、悠助くんにあまえてるのか? 珍しい。明日、台風がくるんじゃないか?」


 そう言って江川は悠助に細く切った人参を手渡した。


「さぁ、悠助くん。今日はゲイルにオヤツをやってみようか」

「ハイ。エガワセンセ」


 悠助は一歩馬房へと入った。江川が差し出した人参を持った悠助は、ゆっくりとメイゲイルに近づいた。


 雄太が悠助を抱き上げると、メイゲイルは顔を近づけてくる。


「ゲイユ。ツギモパーパトガンバルンダヨ。ボク、イッパイオウエンスルカラネ」


 優しく語りかけるように話す悠助の差し出した人参をボリボリとメイゲイルは食べた。


 その姿に悠助は満足そうに笑っていた。




 その後、雄太と悠助は江川に礼を述べて乗馬教室へと向かった。


 悠助はゲイルと距離が縮まった事が嬉しかったようで、気分良くモモチャンに乗れていた。


「モモチャン、イイコイイコ。ホラ、ユックリイクヨ」


 苦手だった馬をピタリと止める事も出来た。


「雄太。何か悠助がいきなり成長した気がするんだが……?」

「ああ。俺もビックリしてる……」


 雄太だけでなく慎一郎も悠助の急成長に驚くばかりだった。








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