928話
年明け早々に雄太は1月6日の京都での平安ステークスに勝利して、10日の中山でのガーネットステークスを勝った。
(今年もスタートダッシュは良い感じだな)
そして、車の助手席に置いた大きな箱をチラリと見る。
大馬主である坂野と月城から凱央がもらった馬を模した手押し車を補修に出していたのを競馬場からの帰りに受け取りに行っていたのだ。
✤✤✤
「これ補修に出したほうが良くないか?」
「そうだね」
凱央がもらった手押し車は凱央が使い悠助が使った。悠助が使い終わる頃には背中の部分が薄れてしまっていて、アチコチガタがきていた。
「前の所にお願いしておくよ」
「うん」
春香の腕に抱かれた生まれたての三人目も男の子だったから、きっと使うだろうと思ったのだ。
✤✤✤
(俊洋もお気に入りで乗りまくってたからな)
すり減った車輪の交換と馬の体全体の生地を交換してもらった。手汗で黒ずんでいた手綱も新しい物に替えてもらい、新品のようになっていた。
(美理愛は乗るかどうか分からないけどさ)
凱央達と比べて美理愛はあまり馬に興味があるように思えなかった。
インポータントデイやメイゲイルと会わせてもジッと見ているだけで、凱央達の時のように触りたいという感じがなかったのだ。
(まぁ、女の子だしな。ウサギとか犬とかに興味を持ったりするのかも知れないな)
そんな事を考えながら雄太は自宅へと戻った。
「パパ、おかえり〜」
「パーパァ〜」
「パッパ、ナニモッテルノ?」
玄関で出迎えてくれた凱央達は、帰ってきた雄太と抱えた大きな箱を交互に見ていた。
「ただいま。凱央、これ運べるか?」
「うん。大じょうぶだよ」
凱央はンショと抱えリビングのほうへ歩いて行く。
「悠助。リビングのドアを開けてやってくれ」
「ハァ〜イ」
雄太はシューズクローゼットに入り靴を片付けた。
(凱央、楽々と持って行ってくれたな)
「パッパ。ボクハ、ナニハコブノ?」
「え? じゃあ、パパのバッグを洗面所に運んでおいてくれるか?」
「ハァ〜イ」
自分も何か言いつけてもらえるとウズウズとして待っていた俊洋に言う。
(用事を言われるの待ってるとか、俊洋も良いお兄ちゃんだな)
俊洋がバッグを持ち上げ洗面所に向かうのと入れ違いに春香が美理愛を抱っこして廊下を歩いてきた。
「おかえりなさい、雄太くん」
「ただいま、春香。ん? 美理愛は寝起きか?」
「そうなの。夕方にベビーウォーカーで暴走してて疲れたみたいで、ついさっき起きたところなの」
眠そうな顔で目をクシクシしている美理愛のほっぺたを雄太がツンとつつく。
「美理愛。ただいま」
「ウァ……」
美理愛は小さな声を出した。まだ眠気がとれないのか、春香の胸に頭をつける。
「ははは。どれだけ走り回ってたんだか」
雄太は春香と並んで歩きながら、美理愛の顔を覗き込んで笑った。
風呂に入った後、子供達が箱の中身を気にしているのに気づいた雄太は忍び笑いをしながらガムテープを捲り箱を開けてやった。
そして梱包材を取り除いて、箱から出してやると、凱央達は綺麗になった馬の手押し車に目を輝かせた。
「パパ。すこくきれいになってるね」
「トシヒロガノッテタヤツダァ〜」
「カッコイインマタン」
俊洋が乗らなくなりしまっていたから、子供達は久し振りの対面だ。
「綺麗にしてもらったんだ。もしかしたら美理愛が乗るかもって思ってな」
まだヨチヨチもしてない美理愛だが、座る事ぐらいは出来るだろう。
美理愛はハイハイで馬の手押し車の横にやってきた。
「ダァ〜、ンバウ」
「ミリア、コウヤッテノルンダヨ」
俊洋が跨った見せると美理愛が小さな手で馬の頭を撫でる。
(お? 本物の馬には興味なかったのにな。それに馬は撫でるものだって凱央達を見て覚えたんだな)
まだ美理愛にとって手押し車という感覚はないだろう。
触れるだけならまだしも手押し車を持って立ち上がったりしても滑っても危ないかと思い、地下のコレクションルームの隅に置いた。
いつか美理愛が跨ってくれると信じて。




