第36章 インポータントデイとメイゲイル 927話
1998年1月1日
「あけましておめでとうございます」
「アケマシテオメデトウゴザイマス」
「オメデトウゴライマス」
雄太宅の三兄弟は、慎一郎宅の玄関で来客に挨拶をして出迎えていた。
「おぉ〜。今年はお出迎えをしてくれてるんだね」
「しっかり挨拶が出来て偉いねぇ〜」
「おやおや。男前三人衆のお出迎えかね」
訪れる客が口々に驚きながらも褒めてくれるので、子供達は嬉しそうだ。
挨拶をした後は、お茶を出したり茶菓子を出したりとお手伝いをしている姿に、慎一郎も理保も目尻が下がりっぽなしである。
昔と比べれば本当に少なくなったとは言え、来客を知らせるインターホンが鳴ると、凱央達は走って玄関に並び挨拶をしてお出迎えをしている。
「凱央、悠助、俊洋。ちょっと休憩したら?」
理保が声をかけても凱央達は嬉しそうに走っていく。
「バァバ。ぼくいっぱいおてつだいするね」
「ボクモ、オテツダイスル」
「ボクモダヨ」
そう言われては無理にとめる事も出来ない。慎一郎も同じなのだが、茶菓子ならまだしも、時折俊洋が緊張した面持ちでお茶を運んでいるのにはドキドキしていた。
「父さん。もう昼だし、一時休憩だよな? 父さん?」
「雄太……。頼むから俊洋に茶は運ばせない事は出来んか? 儂が緊張する」
可愛い孫が茶をひっくり返し火傷をしないかと心配して気疲れをした慎一郎の姿がおかしくて雄太は苦笑いを浮かべた。
「父さん。来年には美理愛が茶を運びたいって言うかも知れないんだぞ?」
「そ……そうか。まだ美理愛がおるな。儂は来年もこんな風になるんだな」
その美理愛と言えばベビーウォーカーに乗り、慎一郎宅の廊下をあっちに行ったりこっちに来たりと忙しく動いている。
応接間にいてもベビーウォーカーの車輪の音がゴロゴロとしていて、慎一郎はソファーから立ち上がり扉を開けた。
「なぁ、雄太。美理愛は女の子なのに、凱央達が同じ歳の頃よりも動いているのが激しくないか? 凱央達はこんなだったか?」
「あ、やっぱりそう思う? 何か美理愛は凱央達よりもアクティブなんだよな」
雄太の声が聞こえた美理愛は、凄い勢いでゴロゴロと音を立てながら近づいた。
「ウバウォウ〜。デウアブダァ〜」
まだ喃語しか話さないが、一生懸命に何かを伝えようと話す美理愛を雄太はヒョイと抱き上げた。
「美理愛。お前、靴下はどうした?」
激しく足で廊下を蹴っていたからか、美理愛の靴下は両方脱げていた。
「パッパ。ミリアノクツシタカタッポアッタ〜」
「俊洋。ありがとうな」
雄太は俊洋から靴下片方を受け取った。
「もう片方はどこに置いて来たんだ?」
「キッチンにあったわよ」
理保がもう片方の靴下をヒラヒラと振っている。
慎一郎達の家を建てる時、しっかり断熱材を入れてあるから廊下でも寒くはない。裸足になった足はしっかりグリップが効くのか、廊下を走り回るには丁度良かったのだろう。
「この滑り止めがある靴下だと摩擦で脱げるのかしら? 滑り止めがない靴下のほうが良いのかしら?」
淡いピンクの靴下を見詰めながら呟いている理保の姿が可愛く見えて、春香は隣に座ってクスクスと笑っていた。
「お義母さん。脱げないようにタイツ持ってきますね」
「ああ、そうね。タイツなら脱げないわね」
理保は美理愛の靴下を春香に手渡した。
立ち上がった春香は雄太からもう片方の靴下を受け取り自宅に戻った。
「本当、美理愛の足って力強いんだよな。見た目はプニプニっぽいのに、触るとみっちり筋肉がついてるんだよ」
「ほう。女の子は筋肉がつきにくいと聞いた事があるんだが」
慎一郎はそう言って美理愛の脹脛を軽く握ってみた。
「雄太……。美理愛はアスリートか何かなのか? 乳幼児でこの筋肉のつき方は……」
「だろ? 見た目に騙される足だろ?」
「ああ。凱央達と違って柔らかみのある良い足をしとるな」
プニプニと足を握られ美理愛はキョトンとしていた。
(んん……。儂は美理愛を騎手になどと考えてなかったが、良いかも知れん……)
新年早々、慎一郎の孫への期待がまた一つ増えたのだった。




