924話
しばらくして、雑誌の仕事があった梅野が遅れてやってきた。
「遅れてごめんねぇ〜」
「お仕事だったんですから」
玄関まで出迎えに出た春香に、梅野は可愛いクリスマス柄の紙袋を差し出した。
「チビーズに焼き菓子買って来たんたぁ〜。冬休みに食べさせてやってぇ〜」
「ありがとうございます」
リビングのドアを開けると、本日の主役の凱央が嬉しそうに笑った。
「まさき兄ちゃん、まってたぁ〜」
「ごめんなぁ〜、凱央。待っててくれて、ありがとうなぁ〜。凱央、誕生日おめでとうぉ〜」
梅野はそう言って凱央の頭を撫でてた。
「ありがとう、まさき兄ちゃん」
「ああ」
梅野にとって凱央は甥っ子のような感じだ。悠助達も生まれた時から可愛がっているから、遅れてもお祝いがしたかったのだ。
「梅野さん。冷えたでしょ? コーヒーどうぞ」
「ありがとう、春香さん〜。雪降ってきたから冷えたんだよねぇ〜」
梅野が『雪』という言葉を口にした瞬間、凱央達がウッドデッキ側の窓へと走った。
「ゆきぃ〜」
「ユキ、ユキ〜」
「ユキ、ミル〜」
薄暗くなって来た時に雄太がクリスマスツリーの電灯を点けたから、まさにクリスマスといった雰囲気だ。
「ゆきつもるかな?」
「ユキダルマツクレル?」
「ユキダウマ〜」
三人でウッドデッキ側の窓硝子に張り付いている。
「また子供達のデコスタンプが並ぶな」
「うん」
凱央が不思議そうな顔で振り返った。
「パパ。きのうゆきふってなかったよね? サンタさん、どうやってきたの?」
雄太と春香だけでなく、純也も梅野も『ついに来たか』と一瞬固まった。
(サンタさんは、もう少し信じてて欲しいんだけど……)
雄太が何て話せば良いかと迷っていると、春香がニッコリと笑った。
「凱央。サンタさんはね、お空を飛んでくるんだよ」
「サンタさんのソリは空とぶの?」
「だって、道路をソリで滑ってくるなら、雪の降らない所には行けないでしょ?」
春香の話を凱央だけでなく、悠助と俊洋も興味深そうに聞いている。
「そっか。アルもお空とべるもんね」
「うん。だから雪がなくても、皆にプレゼント持って来られたんだよ」
「うん」
春香の話を聞いていて、純也と梅野は目が点になっていた。
(アルが空を飛ぶって何だ……?)
(アルってゾルテアレックスの事だよな……?)
春香の話を聞いた後、またしばらく降る雪を見ていたが、俊洋と美理愛は眠くなったのか、フワフワと欠伸を始めた。
「俊洋と美理愛、寝かせてくるね」
春香は俊洋と美理愛を連れて部屋に行った。
その後、凱央と悠助もプレゼントを持って二階の自室へと向かった。
「まだ飲むでしょ? オツマミ作るね」
テーブルを片付けた春香が言うと、雄太が声をかけた。
「地下で飲むよ。酔って声が大きくなって、俊洋と美理愛を起こしたら可哀想だから」
「うん。じゃあ、作れたら持っていくね」
「ありがとう、春さん」
「頼むねぇ〜」
雄太達は酒やグラスを持って地下へと下りた。
「なぁ、さっき凱央が『アルも空を飛ぶ』って言ってたろ? あれどう言う意味だ?」
「俺も気になったぁ〜」
真夜中を過ぎ、いい感じに酔っ払って来た純也が雄太に訊ねた。
「ん? ああ。あれは凱央がまだ幼稚園の時の話なんだよ。凱央と悠助がクリスマスツリーを飾り付けてたら、庭にアルが来たんだってさ」
「え? えっと……夢だよな?」
雄太は笑って頷いた。
「でな、凱央と悠助を背中に乗せて庭を走り回った後、空を飛んでトレセンの上なんかを飛んだらしい」
「へぇ~。何かロマンチックな夢だよなぁ〜」
梅野がワイングラスを傾けながら言う。
「でもね……」
雄太が眉間に皺を寄せて真剣な顔をした。
「え? 何だよ?」
「何かあったのかぁ〜?」
雄太は深く頷いてから話しだした。
「俺も春香も可愛い夢だなって思ってたんですよ。でもね、悠助も『アウ、ノッチャ』って言ったんですよね」
「え? 凱央の夢だろ?」
「悠助も同じ夢を見てた……とかかぁ〜?」
その後、同じ夢を見る事があるのかなどと三人は凱央の夢で盛り上がっていた。




