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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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920話


 11月22日に京阪杯で優勝した雄太の頭の中は、火曜日からは次のレースの事で占められている。


 もちろんトレセンから出れば春香達家族の事が第一ではあるが。


(今日はもう何にもないよな? そうだ。もう一回、デイの顔を見てから帰るか)


 インポータントデイはいよいよ29日に新馬戦に出走する事になっている。


 今までもたくさんの新馬に乗ってきたが、インポータントデイには期待をしていた。


(良い背中してるんだよな。何かやれるって思えるような)


 追い切りに乗った時に、確かに気の荒さのようなものは感じた。それが父の血による気性の荒さなのか、本当に幼さからくるものなのかは成長をしてみなければ分からない。


 成長と共に治まれば良いが、生涯気性難と言われる馬もいる。そこは、人間では計れないところだろう。


(人間だって本性が読めないとかあるもんな。そもそも人間は嘘を吐く生き物だしな)


 雄太はこれまで見てきた腹黒い人間や平気で嘘を吐く人間を思い出してみて、深い深い溜め息を吐いた。


(馬は嘘を吐かないよな。吐く必要がないんだよな。たまに厩舎にいる時とレースでは性格が違いまくってるだろっていう馬もいるけど)


 そんな事をつらつらと考えながら歩いていると根岸厩舎に着いた。


「デイ」


 インポータントデイは馬房から顔を出して外を見ていた。


「お前、また馬房で転がりまくってたろ? 寝藁とかがたてがみに絡みついてるじゃないか」


 雄太のほうを向いたインポータントデイは鬣や鼻などに藁屑をつけて、野原で遊んでいて服に引っ付き虫を大量につけて理保に呆れられていた小さな頃の自身を思い出す。


 手を伸ばして藁屑を取ってやっていると、根岸が歩いてきた。


「おう、雄太くん」

「根岸調教師(せんせい)。デイ、良い感じですよね」

「ああ。追い切りしてからも飼い葉はペロリだしな。毛艶も良い。週末が楽しみだよ」


 根岸も手を伸ばして藁屑を取ってやるが、二人がいなくなったらまた藁屑まみれになるのは想像出来るのだ。


 担当厩務員が『藁に潜る趣味があるんじゃないか』とボヤいていたからだ。


「新馬戦、雄太くんは何度も経験してるだろうし、任せる……って事で良いか?」

「え……。調教師せんせいの指示はなしですか?」


 ニッと笑う根岸が笑って雄太の肩をポンポンと叩く。そして苦笑いで返す雄太をインポータントデイは眺めていた。




「週末、いよいよだなぁ……」

「デイの新馬戦はテレビでやらないよね。見たいんだけどなぁ〜」

「阪神での開催で重賞もないから現地に来ても良いけど、当日の天気は雨っぽいしな」

「そうなんだよね。さすがに雨だと大変だし、テレビでの結果のダイジェストで我慢するよ」


 夫婦二人でのゆったりとした時間を過ごしているが、やはり話題はインポータントデイの新馬戦になった。


「美理愛の観戦デビューはまた今度な」

「うん」


 そして、雄太は今日思い出した事を春香に訊ねてみた。


「あのさ、俺ちょっと気になったんだけど」

「なぁに?」

「美理愛って、ゲイルを見てもデイを見てもあんまり興味ないって感じじゃなかったか?」


 春香は雄太に言われて、当日の事を思い出してみた。


 凱央達は撫でさせてもらえるかとウズウズしていた。


「そう言えばそうかも。凱央達って、本当に乳幼児って時から馬を触りたいって感じで喃語なんごで催促してたよね?」

「だろ? 俺、今日デイの様子を見に行ったんだよ。で、そう言えばって思ってさ」


 確かに美理愛は馬をジッと見ていたが、凱央達の時のように催促はしていなかった。


「兄妹でも違うんだね。それとも女の子だからかな?」

「大きな馬を見て怖いって感じじゃなかったよな?」

「うん。怖いって思ったら泣くと思うよ」


 実際、美理愛はテレビを見たりして泣く事もある。


「乗馬教室のポニーにもあんまり興味なさそうじゃなかったか? 美理愛は馬に興味ないのかもな」

「ぬいぐるみだと抱えてたりするのになぁ〜」

「それも美理愛の個性なのかもな」

「うん」


 兄達が馬に興味津々だからといって、妹は違うのだなと思った雄太と春香だった。







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