912話
8月4日(月曜日)
凱央と尚道のお庭キャンプの日がやってきた。
朝から荷物を運んで来てくれた尚道の両親は、何度も何度も『よろしくお願いします』と言って帰っていった。
「またたくさんお野菜もらっちゃった」
「このピーマンも、トウモロコシも美味そうだな」
「だよね。これ使って何か作るね」
「頼むな。じゃあ、俺は凱央達とテント張ってくるよ」
「うん」
春香は室内に入り昼食の準備に取りかかった。
「よぉ〜し。まずはテントからだな」
「はい、パパっ!」
「はい、トキくんパパっ!」
去年と違って、凱央達はキビキビとテントを張る準備を始めた。
(お? 中々の動きだな)
去年より早くテントは張れた。ウッドデッキから見ていた悠助と俊洋はウズウズとしている。
「ゆーすけ、としひろ。もう良いよ」
「いっしょにゴロゴロしよう」
凱央と尚道に呼ばれた二人はパァーっと顔を輝かせると、キャッキャとはしゃぎながらテントのところへと走ってきた。
雄太はスポットクーラーの電源を入れてやる。
(悠助達も楽しそうだな。非日常ってやつなんだろうな)
子供達四人でゴロゴロしていると、春香が雄太に声をかけた。
「雄太くん。テーブルの準備お願い」
「了解」
いつもならガーデンテーブルはガーデンチェアを使って座るのだが、子供達はブルーシートの上に座って食べたいとの事なので、テーブルの足は短い物を使い低くしてやる。
テーブルを置いた雄太はテントの中の子供達に声をかけた。
「ほら、お昼ご飯だぞ。手を洗うから水道のところに集合だ」
先生になったような気分で雄太は子供達と手を洗い、お子様ランチが並んだテーブルに戻った。
(前に、ソルが凱央達にかけっこの指導をした時ってこんな気持ちだったんだろうな)
凱央と尚道。そして悠助と俊洋は、スポットクーラーの涼しい風を浴びながらパクパクと昼食を食べている。
「ウヤゥ、ダゥ」
「ん? 美理愛はお外でご飯は駄目よ? 汗疹治ったのに、またなっちゃうからね」
窓の向こうに見えるお兄ちゃん達の背中が気になるのだろう。離乳食を食べながら美理愛は凱央達に手を伸ばして足をバタつかせている。
「来年には、美理愛も仲間入り出来ると良いねぇ〜」
人参のペーストを口に入れてもらうと、美理愛は目を細める。
(女の子ってキャンプとか興味持つのかな? さっきのは、多分凱央達と遊びたいとかの意味だろうけど……)
春香が椅子の向きを変えて外が見えないように体で隠すと、美理愛は集中して離乳食を食べていた。
凱央と悠助の乗馬教室に行く時間になると、尚道も一緒に行った。
尚道は凱央が乗馬をしているところが見たいとお願いしたのだ。
「うわぁ……。トキくん、かっこいいな」
広い練習場で凱央は一人でポニーに乗っていた。少し離れたところで慎一郎が見守っている。
悠助は凱央の乗っているポニーより小さなポニーに乗り、雄太に手綱を引いてもらって乗っていた。
「ゆーすけものれるんだってきいてたけど、じょうずだなぁ……」
「凱央ちゃんが乗ってるのはチコちゃん。悠助ちゃんが乗ってるのはモモちゃんだよ」
「おのでら先生」
尚道は振り返り、小野寺の手に細長く切った人参があるのに気がついた。そして、足元にはモモちゃんと同じぐらいの茶色いポニーがいる。
「人参の下のほうを持ってごらん」
尚道が人参を持ちポニーに近づく。
「この子の名前はアトムくんだ」
「こんにちは、アトムくん」
尚道が口元に人参を近づけるとボリボリと音を立てて食べはじめる。
「可愛いなぁ〜」
「乗ってみたいなら無料体験の日にお父さんかお母さんとおいで。さすがに今日は保護者のお許しがないから乗せてあげられないんだ」
「はい」
人参を食べさせ終わると、尚道はまた凱央をジッと見ていた。
後日、尚道は彩葉と無料体験にきたが、やはり小さいとは言えポニーの背中に乗るのは怖かったようだ。
「アトムくんより大きなポニーにのれるトキくんはすごいなぁ〜」
何度も何度も彩葉に話していた。
尚道は騎手になる気にはならないようだった。




