911話
7月20日に小倉でG3北九州記念で優勝した雄太は、翌週函館3歳ステークスを勝ちホクホク顔で空港にいた。
(二週連続で重賞を勝てると気持ちが良いぞぉ〜)
空港の売店で手にしている買い物かごにポイポイと春香と子供達へのお土産を入れていく。
(お? これ可愛いなぁ〜。春香のと子供達へ買って帰ってやろう)
たくさんの土産物を買い求めた雄太はウキウキと飛行機に乗り、大切な家族の元へと帰宅の途についた。
「パパァ〜。おかえり〜」
「パーパ、パーパァ〜」
「パッパ、オカエリ〜」
子供達はピョンピョンと跳ねている。
「ただいま。良い子にしてたか?」
子供達は大きく頷いた。美理愛は春香に抱かれながら、雄太に手を伸ばしていた。
「アゥ……」
「雄太くん、おかえりなさい」
「美理愛、春香。ただいま」
最愛の妻と子供達の顔を見るとホッとする。勝負の世界に身を置く者故なのだろうか。
(他の人はどうかは分からないけど、俺はこの癒しがなければ騎手としてここまで来られたかなって思うんだ)
幸せな気持ちが雄太の胸を占めていた。
家族揃って風呂に入り、お湯が減るぐらいにバシャバシャと凱央達ははしゃいでいる。
美理愛も小さな手をペチペチと湯を叩いている。跳ねたお湯を頭からかぶってもお構いなしだ。
「春香。タオル取って」
「うん」
春香はガーゼのタオルを雄太に手渡した。雄太が美理愛の頭と顔を拭ってやると一瞬美理愛は手を止めたが、再びペチペチと激しく湯を跳ね上げた。
「こいつぅ〜。わざとだな?」
「ウキャウ〜」
凱央達もこうだったなと雄太は思って何度も美理愛の頭と顔を拭っていた。
「はい。雄太くん」
「ありがとう、春香」
雄太は春香が差し出してくれたアイスコーヒーを受け取り一口飲む。
凱央達は雄太の函館土産をキャッキャと嬉しそうに紙袋から取り出している。
「ゆーすけ、としひろ。ぼくが分けてあげるから、ちょっとまってて」
「ウン。トキオニイチャン」
「ハ〜イ」
凱央は小袋の菓子を一つずつ並べていた。
「凱央。美理愛はまだ食べられないから三人で分けて良いんだぞ」
「え? あ、うん。分かった」
まだスナック菓子やクッキーは美理愛にはまだ早い。それでも凱央は四人で分けていた。
その優しさと兄妹全員に同じ数に分けられるという成長に雄太も春香も嬉しくなった。
ミルクキャンディの缶の表面を俊洋はジッと見ていた。
「パッパ。コレ、ンマタンチガウネ」
「ん? そうだな。それは牛さんだぞ」
「ウシサン」
俊洋はオレンジ色の缶を手に取って、可愛い牛のイラストを眺めていた。
「パパ。これはみんないっしょ?」
凱央は小さな紙袋を床に取り出していた。
「ああ。でもな、少しずつ違うからジャンケンして勝った順番に選ぶんだ。出来るか? あ、ピンクのシールのはママの分な?」
「うん」
凱央達はジャンケンをして、それぞれが紙袋を手に取り中身を出した。
「わぁ〜。うまのキーホルダーだぁ〜。パパ、ありがとう」
「パーパ。アリガトウ〜」
「ンマタン〜、ンマタン〜」
手作りの馬のぬいぐるみは、一つ一つ表情などが違っている。メンコをつけていたり、シャドーロールをつけていたりして様々だ。
「はい。ママのぶんだよ」
「うん。雄太くんありがとう」
凱央はソファーに座って美理愛を抱っこしている春香に紙袋を手渡した。
「ああ。きっと春香は凱央達より気に入ると思うぞ」
「え?」
雄太はそう言って美理愛に手を伸ばす。
「ほら、パパにおいで」
「アウ〜」
美理愛は雄太に手を伸ばして、抱き上げられるとキャッキャと喜んだ。春香は紙袋を開けて目を丸くした。
「これ……」
「毛色もだけど、白斑がカームっぽくないか?」
「うん。カームっぽいね」
紙袋から取り出し顔を撫でていると、スリスリと顔を寄せてきては撫でろと催促をする大きな甘えん坊を思い出す。
手を伸ばしてキーホルダーを掲げ、目をキラキラとさせている春香が出会った頃と変わらなくて、雄太は嬉しくなったのだった。




