908話
7月も半ばを過ぎ、雨の心配がない日には、尚道が自転車の前カゴにトマトやキュウリやピーマンを詰めてやってくるようになった。
「こんにちは。おじゃまします」
「いらっしゃい、尚道くん」
野菜は尚道が雄太宅でオヤツを食べさせてもらう代金の代わりだと彩葉から聞いている。
(採れたての新鮮な野菜をこんなにもらってるんだもん。尚道くんが美味しいって思ってくれるオヤツを作らなきゃ)
春香は尚道から手渡された野菜をウキウキしながら眺めていた。
凱央達は一緒に宿題をした後、二人並んでソファーに座っている雄太達の前に正座をした。
「パパとママにおねがいがあります」
「きいてください」
雄太と春香は顔を見合わせた。
「許可しよう」
凱央がお願い事を言う前に、雄太が笑いながら言った。
「パパ。ぼくたち、まだなにもいってないのに」
「夏休みにお庭キャンプしたいんだろ?」
どうやら正解だったようで凱央も尚道も笑った。
「トキくんパパ。あたりです」
「パパは、なんでわかったのかなぁ〜」
しっかりとしているようだが、二人はまだ小学二年生だ。オヤツのフルーツたっぷりのゼリーを食べながらコソコソと話しているのをバレていないと思っているのが可愛い。
「二人共去年、お庭キャンプをする時にした約束は覚えてるか?」
「うん。おぼえてるよ」
「ぼくも、おぼえてます」
7月中に出来る範囲の宿題を終わらせる事と尚道の両親に許可をもらう約束を二人はしっかりと覚えていた。
「なら良いよ。去年、二人はちゃんと約束を守ってたし、何も迷惑になるような事もしなかったしな」
「ありがとう、パパ」
「ありがとうございます。トキくんパパ」
キラキラと目を輝かせて言う二人の心はすでに夏休みへと飛んでいるようだ。
「ことしはね、パパがいえにいる月よう日にお庭キャンプするってきめてたんだよ」
「トキくんパパともあそびたいっておもったんです」
「そうなのか? じゃあ、俺も二人と外でご飯食べたりするの楽しみにしてるからな?」
二人はコクコクと頷いた。
「ちゃんとけいかくひょう作るからね」
「ダメなところがあったらおしえてください」
「ああ。楽しみに待ってるからな」
二人はニッと笑って、両手でハイタッチをしていた。
その日の夜、雄太と春香はソファーで昼間の凱央達の事を話していた。
雄太達は五月の末ぐらいから、凱央達がいつお庭キャンプの話しをしてくるだろうと話していたのだ。
「夏休みの思い出にしたいってのが可愛いよな」
「今年は雄太くんがいる時にっていうのも可愛いよね」
「ああ。本当に可愛いよ。俺、花火とか買ってきてやろうっと」
雄太もワクワクしているようで、春香も嬉しくなる。
「駐車場側だと打ち上げ花火出来るよな。庭側だと芝生で安定しないから危ないし」
「そうだね。美理愛も喜ぶかなぁ〜」
「そりゃな。大きな音がするのは避けるか……」
花火の購入や大量のシャボン液の購入など話は盛り上がってしまう。
「なぁなぁ。電動のかき氷機買わない?」
「電動の?」
「ああ。うち四人も子供がいる訳だろ? 一人ずつやってたら時間かかるし、腕も疲れるんじゃないか?」
去年の夏、凱央達と尚道の四人分を作っていた春香が腕がダルいと言っていたのを思い出したのだ。
「夜店とかみたいな大きいのじゃなくても電動ってあるんだろ?」
「うん。ホームセンターで売ってるのは見た事あるよ」
「なら買おう」
「うん」
遊園地に行ったり、バーベキューしたり、雄太がそういう事が好きなのだと春香は気づいていた。
(子供の頃に出来なかった事を今したいって思ってるのは、私と同じだったりして)
春香は貧しい暮らしをしていた祖母と暮らしていて、そういうイベント的な事とは無縁だった。
雄太は慎一郎が人気のある有名な騎手で、ほぼ理保と二人暮らしのようだった。
(よし。電動かき氷機買ってこよう。後、氷を作るカップも忘れずに買い足ししなきゃね。楽しい夏休みの思い出を作ってあげなきゃ)
雄太も春香も凱央達と同様に楽しみにしているのだった。




