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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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905話


 6月22日に阪神競馬場で開催されたG3マーメイドステークスを勝った雄太は、夏の遠征のスケジュールを確認していた。


(ん〜。アチコチ飛び回るよなぁ……。騎乗依頼をもらったところに行くのは仕方ないけど、疲れを溜めないようにしなきゃな)


 七月の頭だけでも福島から阪神に移動をして、次週は小倉だ。


 その週ならまだしも、一日ごとに離れた競馬場へ行く事もあるのも騎手の仕事である。


(自分の選んだ仕事だもんな)


 その事に文句の一つも言わないで笑顔で見送ってくれる最愛の妻春香が、愛娘の美理愛を寝かせリビングへやってくる。


「雄太くん。美理愛が寝てる間に地下に運んで欲しい物があるの。良いかな?」

「ん? 良いぞ」


 雄太が春香と階段下の物置きに行くと、大き目の段ボール箱がいくつも置かれていた。


(DVDプレイヤー……?)

「それとこの箱もお願いね」

「あ、うん」


 エレベーターに箱を積み地下に降りる。


(DVDプレイヤーって梅野さんが買ったって言って見せてくれた奴だよな?)


 新しい物好きの梅野なら分かるが、春香がなぜという気持ちで箱を下ろし、春香がコレクションルームのドアを開けて、雄太が運び入れた。


 春香はDVDプレイヤーの箱を開けて説明書に手を伸ばす。


「ここに設置するんだ?」

「そうだよ。えっとぉ……」


 説明書を読みながら配線をしていく。そんなに難しい物ではないから設置は直ぐに終わった。


「電源を入れて……。ここを押して……」


 スインと軽い音がして、ディスクトレイが出てくる。


「雄太くん。その箱を開けて」

「これか」


 箱を封をしてあるガムテープを剥がす。


「そうそう。一枚ディスクを取り出して、ここに置いてみて」


 春香に言われるがまま、プラスチックのケースから取り出してトレイに置く。


 春香がリモコンを操作すると、映像が始まった。


「これ……俺のレースの……」

「うん。ビデオテープのをねDVDに移してもらったんだぁ〜。これならテープが伸びるとか劣化とか気にしなくても良いしね」


 ビデオテープも保存用と見る用と分けてある。ただ、何度も見返していると画質が悪くなる。


「それにビデオテープより保管の場所とらないし」


 春香が説明しているが、雄太はジッと春香の顔を見詰めていた。


 何も言わない雄太に、春香はどうしたのかと思い雄太の手を握る。


「どうかした? 雄太くん」

「え……。あっと……嬉し過ぎて……。言葉が見つからない……」


 雄太はそう言って春香を抱き締めた。


「ありがとう……、春香」

「ううん。私が雄太くんが頑張ってる姿をずっと綺麗に残しておきたいって思ったからなんだよ? 私の欲望なの」

「欲望って」


 雄太が吹き出した。


「えっと……希望? 望み? そんな感じだよ」


 何か言おうとするが、込み上げる笑いで言葉が出ない。


(ありがとう。本当にありがとうな)


 しばらく春香を抱き締めていた雄太は、テレビから聞こえる自分の声に少し恥ずかしくなった。


 いつもは勝利騎手インタビューは聞いてなかったのだ。


 スッと手を伸ばしてリモコンを手にして再生を止めた。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。てかさ、ビデオテープはどうしたんだ?」

「ああ。DVDに移してくれる業者さんの社長さんが雄太くんのファンで、料金安くするから引き取らせて欲しいって言ってたからお譲りする事にしたの」


 まだビデオテープをDVDにしてくれる業者はそんなに多くはない。それなのに、依頼した業者が雄太のファンだというのは嬉しい偶然だった。


「まだこれで全部移し終わった訳じゃないんだよね。出来終わったら、また送ってくださるの」

「そりゃ、ビデオテープかなりの量だったもんな」

「うん。あっ!」


 ニコニコと話していた春香が声を上げた。


「どうした?」

「私、コレクションルームのDVDプレイヤーだけしか買ってなかった……」

「え? あ……」

「凱央のアルのビデオも移してもらったのにぃ……」


 ショボくれる春香が可愛くて、雄太はもう一度抱き締める。




 翌日、仕事終わりにDVDプレイヤーを買いに走った雄太だった。







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