904話
6月19日(木曜日)
いよいよ関西地方も梅雨入りが間近だと言うのが夜のニュースで流れ、雄太は濡れた芝で滑るのを注意しないととかダートで馬のスタミナが削られるなとか考えながら、自室で調整ルームに持って行く荷物をバッグに詰めていた。
(小倉じゃなくて良かったな。あ、そうだ。すっかり忘れてた)
雄太は俊洋の秘密基地の事を思い出し、二階へと向かった。
階段を登りきり、子供達に気づかれないようにそっと覗いた。
それなりに広いスペースの端っこに段ボールのそれはあった。
「あれ? パパ。どうしたの?」
「え? あ、俊洋の秘密基地を見に……な」
雄太はプレイルームスペースに入り、俊洋の秘密基地を見ていると、側面の窓らしきところがパカっと開いて俊洋が顔を出した。
「パッパ。ナァニ?」
「俊洋の秘密基地を見せてもらいに来たんだ。中を見せてくれるか?」
「ウン。イイヨ」
雄太は段ボール箱製の秘密基地の中を見た。
中にはお出かけ用リュックや帽子が置いてあり、オモチャも小さ目の箱に入れあった。
(春香は一生懸命に造ったんだな。そう言えば、段ボール馬運車も造ってたよな)
俊洋の秘密基地は子供なら二人寝転べるぐらいの大きさだ。
「俊洋。中は暑くないのか?」
「ン? ダイジョーブダヨ」
(まだ気温がそこまで高くないからか……。でも、真夏になったら熱中症とかならないか?)
プレイルームとは言うが、階段を上がった先の広い場所という場所なだけで部屋として使っている場所ではない。
(ん〜。エアコンつけてやるか? けど、この広さを冷やすとしたら……。いやいや。業務用のエアコンじゃないと無理なんじゃないのか?)
今、二階は凱央の部屋と悠助の部屋がある。その奥には将来の子供部屋のスペースと手前のプレイルームとなっている。
プレイルームはいずれ使わなくなるのは分かっている。それなのにエアコンをつけたりは無駄なのではないかと考えながら、雄太は自室へ戻った。
(ん〜。凱央達はプレイルームを使ってるけど、美理愛はどうなるんだろ? 俊洋は男の子だし美理愛は一緒に遊ぶんだろうか?)
幼い頃の自分を思い出してみる。
(俺、小さい時って女の子と遊んだ記憶ないぞ……。近所に女の子もいたよな……? うわ……。名前すら覚えてねぇ〜)
純也や梅野に話したら『雄太って冷たいよな。覚えててやれよ』と言われそうだなと思った。
子供達が寝静まった後、雄太と春香は秘密基地の話しをしていた。
「え? 秘密基地を造った理由?」
「ああ。何か理由あったのかなって」
春香は麦茶を一口飲んで笑った。
「俊洋がね、自分の部屋はいつかって訊いてきたんだよ」
「え゙。俊洋にはまだ早いだろ? あ、もしかして兄ちゃん達がうらやましかった……とかか?」
春香が大きく頷く。
「多分ね。で、どうしようかなって思ってたんたけど、雄太くんに相談する前に『やっぱり要らない』って言ってきたの」
「速攻だな」
「試しにね、一階の和室にお布団敷いてあげて一人で寝させたの」
雄太はその時の俊洋の様子を想像して吹き出した。
「想像出来ちゃったでしょ? 半時間もしないうちに私の部屋に来て、半ベソで寝ちゃった」
『マッマ……。マッマノオヘヤデネルノ……』
隣に凱央と悠助がいても同じ部屋じゃない。まだまだ俊洋は一人で寝られないようだ。
「それでね、昼間だけの俊洋の部屋として段ボールとかガムテープで秘密基地造ってあげたんだぁ〜」
「成る程な」
「気に入ったみたいで良かったなって思ってるよ」
ニコニコと春香は話すが、雄太は何度も想像してしまい笑いが止まらなくなってしまった。
「小さい子供でもプライドがあるからからかいはしないけど、可愛いよな」
「だよね」
笑いながらアイスコーヒーを口にする。
(俊洋が大きくなった時に、春香の手作り秘密基地を覚えているかな? ん〜。とりあえず写真を撮ってやろう)
翌日、調整ルームに出かける前に雄太は俊洋を二階に連れて行き、秘密基地の中に入ったりしている写真を撮ってやった。
俊洋は本当に楽しそうだった。




