900話
6月9日(月曜日)
美理愛のお食い初めの日と言う事もあって、雄太宅のリビングは朝から賑やかだ。
「春。美理愛の服はこれな」
「え……。凄いヒラヒラフリル……」
「直樹がどうしてもこれを着せるんだって言い張ったのよ」
直樹が箱から取り出したのはセレモニードレスみたいなフリルがいっぱいの服だった。
「お父さんって確か私にもフリルとかついてる可愛い服を着させようとしてたよね……」
「え゙」
「フリルがついたエプロンでさえ感動してたしぃ……」
ジト目で見られた直樹は焦りまくっている。東雲家の微笑ましいプチ親子喧嘩に雄太と慎一郎達は忍び笑いをしていた。
「ほ……ほら、孫のお祝いは相談して決めたんだぞ? だから、な?」
「良いけどぉ……」
鷹羽家と東雲家で『孫のお祝いなどのプレゼントは相談しましょう』と決めたと雄太達は聞いている。
プレゼントがかぶってしまったりしても困るからというのが理由だ。
ふと思いたった時は雄太か春香に訊ねて了承を得るように言ってある。
「まぁまぁ、春香さん。儂もそれは可愛くて良いと思うぞ」
「東雲さんは美理愛に可愛いのを着せたかったのよね」
「お義父さん……。お義母さん……」
苦手を浮かべた春香は、ニッコリと笑って美理愛の着替えをさせた。
「あらぁ〜。可愛いわね」
理保は嬉しそうに美理愛を見ていた。
直樹は本当に嬉しそうに笑って美理愛の頭を撫でていた。
(お義父さん……)
雄太は直樹と里美の亡くした娘の話を思い出していた。
(お義父さんは美理愛や春香を亡くした娘の代わりにするような人じゃない。でも、やっぱり思い出すんだろうな。まぁ、凱央達に対しても産まれてから溺愛してたし、愛情深い人なんだろう)
雄太も親になり父親の気持ちという物が理解出来ている。大切に育てた春香の産んだ大切な孫だから多少暴走するのは仕方ないよなと笑って見ていた。
祝い膳が届き、凱央達の時と同じように春香が美理愛を抱っこして慎一郎の隣に座る。
「じゃあ、始めるぞ」
慎一郎が順番通りに美理愛の口元近くに箸を近づける。
美理愛はキョトンとした顔で眺めている。
俊洋は不思議そうな顔をしていたが慎一郎の服の裾をツンツンと引っ張った。
「ジィジ」
「ん? どうした、俊洋」
「ミリアニ、ゴハンアゲナイノ?」
「へ?」
俊洋には、慎一郎が美理愛の口に食べ物を入れてやらない事が不思議に見えたのだ。
チュパッ
そこにいた全員が音のしたほうを見た。
「あ……」
「美理愛……」
写真を撮っていた雄太と美理愛を抱っこしていた春香の声に、慎一郎は『まさか』と思い手にしていた匙を見た。
「あ……ああ……。また……」
ガックリと項垂れた慎一郎とご機嫌で口をンクンクと動かしている美理愛の対比が面白く吹き出しそうになりながら春香はタオルで美理愛の口元を拭いた。
「ジィジ、ジィジ。ミリア、オイシイッテ」
「ん? あ……そうか。美味いって……うん」
慎一郎は美理愛が美味そうに目を細めているのを見てから春香に視線を移した。
「春香さん。申し訳ないが、美理愛が腹を壊したりしないか経過観察をしてやって欲しい……」
「はい、お義父さん。でも大丈夫だと思いますよ? うちの子達が食いしん坊なだけですから気になさらないでください」
「ん……。分かった」
慎一郎はホッと息を吐き、盗み食いをした美理愛を見た。
「キャウ」
美理愛が満面の笑みを浮かべると、慎一郎は優しい顔をして美理愛の頭を撫でた。
雄太は多少なりとも塩分がある汁を口にした美理愛のヨダレはかぶれたりするかも知れないと、お湯に浸し絞ったタオルで拭いてやる。
「アバァ……ダゥ……」
「ほら、ジッとしろよ。せっかくの可愛い顔が塩分で真っ赤になったら困るだろ?」
直樹達も理保も、子育てに慣れサポートをして来た雄太の姿を見てホッとしながら優しく見詰めている。
(うちの子達の食い意地は誰に似たのかなぁ……)
そんな事を思いながら、可愛い服を来た食いしん坊姫の頭を優しく撫でた。




