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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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898話


 5月11日(日曜日)


 東京競馬場 11R 第2回NHKマイルカップG1 15:35発走 芝1600m


 5月らしい爽やかな青空が気持ち良い。青々とした芝の上をサラッとした気持ちの良い風が吹き渡っていく。


(本当、良い天気だなぁ〜。風も気持ち良いよな)


 自分を落ち着かせるつもりもあり、大きく息を吸い込む。そして、チラリと輪乗りをしている純也と梅野を見た。


 G1に出られる事が増えた純也。ベテランと言われる梅野。


(ライバルは多いほうが張り合いがあるよな)


 雄太の馬のオッズは2.0倍の一番人気だ。その大勢の期待にこたえなければと思う気持ちで、もう一度深呼吸してゲートに馬を向けた。




「ほら、パパだよ。格好良いでしょ?」

「ウダァ……」


 春香はソファーに座り美理愛を抱っこしていて、凱央達はテレビの前に陣取り雄太の応援をしている。


「パパ、がんばれ〜っ!」

「パーパ、ジュンニイチャン、マサキニイチャン。ガンバレェ〜」

「ガンバエェ〜、ガンバエェ〜」


 美理愛も手をフリフリしていた。


(雄太くん、美理愛も応援してるよ。頑張ってね)


 春香は雄太の勝利と純也達の無事の完走を祈っていた。




 ガシャン


 ゲートが開いて、ほぼ綺麗に揃ったスタートをきった。


 雄太と梅野は中団の前めに位置を取った。純也はその少し前だ。


 雄太の順位はほぼ変わらずにレースは進み4コーナーを過ぎると純也は先頭に並びかけた。




(雄太くん……、雄太くん……)


 雄太は中団前めのままで、純也と梅野は前に出ていた。


 春香には分からないが、前に出られない何かがあるのだろうか。


(前に出られない……? ううん。雄太くんは前に出られなかった時も諦めなかった。前に出られるチャンスがあったら全力でそれを掴みに行く……。ほんの少しの可能性も……雄太くんは見逃さないもん)


 春香はテレビの中の雄太を信じて見詰めていた。




 直線コースに入り、梅野は先頭の純也を追った。


 長い直線コースで純也と梅野が競り合っている少し後ろの馬群から、雄太の馬が少しずつ前に抜け出し始めた。


 観客席から大歓声が沸き上がる。


 一完歩ずつ先頭の二頭に近づいていく。




「雄太くんっ! 後少しっ!」

「パパっ! 頑張ってっ!」

「ガンバレッ! パーパッ!」

「ガンバエッ! パッパ、ガンバエッ!」


 雄太の馬が梅野の馬と並び追い越し、続いて純也を追い越した後は一気に突き放した。


 純也も梅野も諦める事なく追っている。


「もう少しでゴールだよっ!」


 雄太の姿がドンドンとゴール板に近づく。


 梅野が必死で追い縋ってはいるが一馬身少しの差をつけて、雄太はゴール板を駆け抜けた。


「パパ、かったぁ〜。いちばん〜」

「パーパ、カッコイイ〜」

「パッパ、パッパ、パッパ」


 凱央達がキャッキャとはしゃいで小躍りしていた。


 春香は美理愛の小さくフクフクとした手を握ってやる。


「パパ、優勝したよ。美理愛のパパは格好良いね」


 美理愛はご機嫌で手足をバタつかせていた。




「あぁ〜。もうちょいだったんだけどなぁ〜」

「今回は斤量の差でいただきました」


 悔しそうな梅野に、雄太はニッと笑った。


 雄太が乗っていたのは牝馬で梅野の馬は牡馬で2キロ斤量が重かった。たった2キロでも結果が違うのだ。


「俺、もうちょい粘れたかなぁ……」

「ソル。惜しかったな」


 純也は写真判定で惜しくも四着だった。


「でも、悔いはねぇぞ。良い勝負だったからな」

「ああ。良いレースが出来た褒美として駅弁おごってやるぞ」

「マジっ⁉ 焼肉弁当……いや。ステーキ弁当でも良いかっ⁉」

「ああ。なんなら二つでも三つでもおごってやるぞ」


 前にハンバーグ弁当を食べていた純也に、食べていたステーキ弁当の肉を奪われそうになったのを思い出した。


「ブフッ」


 吹き出した雄太に純也と梅野が視線を移す。


「どうした?」

「何だよぉ〜?」

「な……なんでも……。ブフフッ」


 純也と梅野は目を丸くして、笑いが止まらなくなった雄太を見詰めていた。







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