897話
5月5日(月曜日)
「ヤッネヨリタッカイ、コイノボリ〜」
雄太宅のウッドデッキから、少し調子っぱずれな悠助の歌声が聞こえてくる。
(凱央は歌が上手いのに……。悠助は俺に似たのか……? いや、まだ幼稚園に行くようになった歳だし……な)
雄太は苦笑いを浮かべながら悠助を見ていた。
今日は盲腸で先送りになっていた悠助の誕生パーティーとこどもの日のお祝いをする日だ。
リビングは準備をするからと凱央達は外で遊んでいる。凱央は俊洋の三輪車をハンドルを持って押していて、悠助は幼稚園で覚えた歌を披露している。
「なぁ、悠助って雄太に似て音痴……フガッ!」
その先を言わせまいとして雄太が純也の口を塞いだ。
「ケーキをワンホール食わせてやったろ? その先は禁句だ」
凱央達が盲腸で入院したのは木曜日で、退院直後にさすがにケーキはどうかと考えた雄太は月曜日に純也を呼んでいたのだ。
「ソル。子供達が見たら食べたがるから地下でこれ食べてくれないか?」
「ほえ? あ、成る程な」
さすがの純也も直ぐに理解したようで、雄太と二人で地下のコレクションルームに向かいケーキを食べてくれた。
「ケーキのキャンセルしたくなかったんだよな。キャンセルしたら廃棄になるかもって思ってさ。なら、ソルに食べてもらったほうがケーキも喜ぶだろ?」
ホールケーキをフォークで切り分けながら一人で食べるというのが子供の頃に夢だった純也は、うんうんと頷きながら食べていた。
「重賞を勝った時の祝勝会は、どちらかと言えば飲み会になるだろ? このケーキは流用で悪いけど、ソルの重賞祝いだと思ってくれ」
あっという間に平らげた純也は、コーラを飲み干してニッと笑った。
「流用だろうが何だろうが、美味いケーキありがとうな」
「ああ。こどもの日にパーティーするから来てくれよな」
「ああ」
「悠助。誕生日おめでとう」
「アリガトウ」
すっかり元気になった悠助はニコニコと笑っていた。
「春さんもバタバタで疲れたっしょ?」
「さすがに平気とは言いがたかったよ」
産後間もない美理愛がいて、凱央と悠助が入院というのは体にも負担が大きかった。
それでも夜間は理保や直樹達が交代で付き添いをしてくれた。
「私は恵まれてるよね。たくさんの人が助けてくれるんだもん」
「さすがに二人同時ってのは、俺も焦った」
子供が入院したからと雄太の仕事は休む事は難しい。
「でも、もう凱央も悠助も元気だしね」
「そうっすね」
退院をして普通食でも大丈夫とは思うが、ここのところ揚げ物などは避けていた。
だが、悠助の誕生パーティーには何が食べたいと訊いた春香に、子供達はそれぞれリクエストをしてきた。
「ママのからあげがたべたい」
「ボクハ、グラタン〜」
「ボクハネ、サバミソ〜」
俊洋だけ渋い食の趣味しているのはよく分からないが、春香は子供達が食べたい物をせっせと作った。
「多分、サバ味噌は父さんが食べさせたんだと思うぞ? 春香が美理愛の出産で入院してた時に」
「成る程な。おっちゃんが好きそうな感じだもんな」
理保が子供の好きな物を作っていてくれるが、なぜか俊洋は慎一郎の食べている物に興味津々なのだ。
「ジィジ。ヒトクチ〜」
「え? ああ、良いぞ」
サバ味噌だったり、鰯の煮付けだったりを美味そうに食べていたと聞いている。
「ボク、コブマキモスキダヨ」
「昆布巻き……」
純也はニコニコと笑っている俊洋の言葉に目が真ん丸になる。
「俊洋、トウモロコシはどうした?」
「トウモロコシモスキダヨ」
俊洋は骨を取ってもらったサバ味噌を美味しそうに食べる。
「ニューインシテタトキハ、ゴハンタベラレナカクテ、マーマノゴハンタベタカッタヨ」
「ぼくも。ごはんもお水もダメだったんだよ」
術後の絶食は子供には辛かっただろうと思う。
「腹の手術はそうなるよなぁ〜。凱央も悠助もよく我慢したな。えらいぞ」
「ソルなら暴れるよな」
「おい……」
純也のような食いしん坊が絶食したらどうなるのだろうかと想像すると、つい笑いがこみ上げてくる雄太だった。




