894話
食事が済んで、里美はワンピースから水色に桜柄の着物に着替えた。宮参りで美理愛を抱くからだ。
春香は美理愛に真っ白なセレモニードレスを着せてやる。胸元の淡いピンクのリボンと裾のピンクの花のフリルが可愛さを倍増させている。
「あらあら。美理愛、お姫様みたいね」
「オヒメサマ〜」
「カワイイネ」
慎一郎と直樹の目尻は戻らないのではないかと思うぐらい下がりまくっている。
「車、駐車場から出し……」
ワンボックスカーを駐車場から表の道路へと出しに行った雄太がリビングに戻ってきて、セレモニードレスを着てドレスアップした美理愛を見て固まった。
「雄太くん? どうかしたの?」
「ウエディングドレスみたいで……」
春香がフリーズした雄太に声をかけると、思いがけない言葉が返ってきた。ニヤリと笑った梅野が雄太にすり寄る。
「お義父さん。俺、美理愛を幸せにしますぅ〜」
その瞬間、慎一郎と直樹が梅野を見た。
「美理愛は嫁にやらんぞっ!」
「美理愛は嫁にやらんっ!」
「ヒェ〜」
孫ラブな祖父二人に睨みつけられて梅野は飛び上がり雄太の背中に縮み上がり背中に隠れた。
その姿に雄太と春香は涙を滲ませて忍び笑いをしていた。
「雄太。これは小野寺先生から預かってきた。で、これが……」
「雄太ぁ〜。これは俺のと鈴掛さんのところからと、純也と純也のご両親のな」
雄太の手に次々と乗せられていくたくさんの紐銭に唖然としてしまう。
「これはもう内緒とか他言無用って言ってる意味ないだろ」
そうは言っても、たくさんの人達の美理愛への気持ちが嬉しい。
「これは川下のおじいちゃんからね。あ、美容院の店長さんから預かったものよ」
「こっちは寿司屋の大将と肉屋の店長だろ。これがケーキ屋夫婦からで、これが電気屋のだ。あ、兄さんからもな。それと……」
春香の手にも紐銭が山盛りになっていく。
「こんなに……」
「皆、お前の父母と祖父だからな。孫のお宮参りだと聞かされて黙ってる訳ないだろ?」
春香が子供を産んだと聞き、4月7日は臨時休業だとお知らせを貼っていれば宮参りの日だと想像出来る。
結婚し地元を離れても娘のように思ってくれているおじさんやおばさんの笑顔を思い出すと涙が溢れそうになった。
雄太と春香は美理愛に掛けられた淡いピンクに毬柄の初着に一つ一つ紐銭をつけていった。
「さてと、今日二回目の撮影しましょぉ〜」
梅野が三脚を立てて、門扉の前で真ん中に美理愛を抱いた里美が立ち、後ろに大人が並んで最前列は子供達が並んだ構図で撮り、里美と雄太夫婦でも撮影してくれた。
(本当、何度撮っても良い家族って感じだよなぁ〜)
『二度と同じ瞬間はない。だから、その一瞬を残したい』
そう思ってシャッターを切る梅野は良い顔をしていた。
神社に着き、厳かな雰囲気の中で神楽鈴の音にも動じる事なく美理愛は手をフリフリとしていた。
落ち着かなかったのは俊洋だったが、凱央と悠助が人差し指でシィーとやると大人しくなった。
梅野はカメラを手に撮影をしてくれていて、雄太と春香は写真が楽しみでたまらなかった。
「凱央、悠助、俊洋。馬の前で写真撮るかぁ〜?」
「慎一郎調教師、理保さんの肩に手を乗せてくださいよぉ〜。なんなら肩を抱いても良いですよぉ〜」
「直樹先生。もっと里美先生に近寄ってください〜」
宮参りの後も、梅野は楽しそうに撮影をしていた。
「梅野くんは、本当に撮影が好きなのね」
「騎手になってなかったらカメラマンになっていたんじゃない?」
「理保さんと里美先生みたいな美人モデルがいてくれるなら、引退後はカメラマンになっても良いですねぇ〜」
相変わらずな梅野に女性陣はケラケラと笑い、男性陣は苦笑いを浮かべていた。
(こんなに軽口をきいてて、男から嫌われないんだもんな。梅野さんって、不思議だな。普通、イケメンって同性からは煙たがられそうなのに)
梅野は雄太や純也より年下の後輩からも慕われている。時には恋愛相談も受けていると聞いた。
なんだかんだ面倒見が良い梅野は若手の兄貴的な存在である。




