893話
入園式が終わった後、雄太達は急いで自宅に戻った。
「ジィジ、バァバ。タダイマ〜」
「おかえり、悠助」
「おぉ〜。おかえり、悠助」
悠助は帽子を脱いで、慎一郎に抱きつきに行った。慎一郎は目尻を下げまくりながら抱きとめてやっている。
(父さん、デレデレだ)
雄太は忍び笑いをしていた。
「簡単に食べられる物を作っておいたわ。手が空いた人から食べちゃってね」
美理愛の宮参りに行くまでそんなに時間がある訳じゃないからと、理保が作ってくれたおにぎりやだし巻き玉子が置いてある。
「あら。糠漬けがあるわ。私、理保さんの糠漬け大好きなのよね」
「里美さんに大好きって言ってもらえて嬉しいわ」
祖母同士の微笑ましい会話を聞きながら、既に悠助と俊洋は並んでモシャモシャとおにぎりを頬張っている。
「バァバ、オイシイヨ」
「タマゴヤキモ、オイシイ〜」
「ありがとう。悠助、俊洋。ほら春香さん、美理愛抱っこしててあげるから食べちゃいなさい」
理保はセレモニードレスを取りに自室に行っていた春香に声をかける。
「はい。お義母さん、お願いします」
「春香さん。儂が抱いててやろう」
美理愛を見てウズウズとしていた慎一郎が両手を差し出す。春香と理保は顔を見合わせて小さく笑う。
「あらあら。雄太を抱っこしたのは数える程だったのに、孫は進んで抱っこするんですね」
「う……」
図星をつかれた慎一郎はバツが悪そうな顔をした。仕事柄、ゆっくり雄太と関わる事も出来なかったのもあるし、慎一郎の若い頃は男が子育てに関わる事も少なかっただろう。
耳まで赤くなっている慎一郎に、春香はそっと美理愛を差し出した。
「じゃあ、お義父さん。しばらく美理愛をお願いしますね」
「ああ」
慎一郎は小さな宝物を受け取り、目を細めていた。
(こうして見ると父さんも歳なんだよなぁ〜)
慎一郎が聞いたら怒りそうな事を思いながら、雄太もおにぎりを頬張っていた。
しばらくしてインターホンが鳴り、近くにいた理保がモニターを見ると学校から帰って来た凱央が映っていた。
門扉の開錠キーを押して玄関まで迎えに行くと、凱央が息を切らしながら笑っていた。
「バァバ。ただいまっ!」
「おかえり、凱央。走って帰ってきたのね」
「うんっ!」
凱央は洗面所に向かい、それからリビングのドアを開ける。
「まにあったぁ〜。ただいまぁ〜」
「おかえり、凱央」
「間に合って良かったわね」
直樹と里美が頬を赤くした凱央を出迎える。
「おぉ〜。長男の到着だなぁ〜」
「まさきにいちゃん、ただいま」
「美理愛のお宮参りの写真に凱央がいないのは淋しいからなぁ〜。間に合って良かったぞぉ〜」
「うん」
凱央は慎一郎が抱っこをしている美理愛に近づき、小さな手に触れる
「みりあ、ただいま。いいこにしてた?」
「アゥ……ンバァ……」
「ぼくは、がんばってべんきょうしてきたよ。みりあがおおきくなったら、べんきょうおしえてあげるからね」
凱央が美理愛に話しかけているのを見ていた雄太と春香は顔を見合わせた。
そして、雄太は春香の耳元に口を寄せた。
「なぁ……。凱央って美理愛の喃語が通じてる……?」
「なんかそんな感じするよね……?」
パッと見は微笑ましい兄妹と言う感じだが、毎回凱央の喃語の通訳には『そうなのかも』といった感じがするのだ。
「凱央も二年生だもんな」
「うん。本当にあっという間だよね」
(子供の時ってこんなに早かったっけか……?)
凱央は悠助と俊洋と一緒におにぎりを頬張っている。
「バァバ。だしまきたまごおいしいよ。ママのとおなじぐらい」
「あら。嬉しい事を言ってくれるわね」
凱央に褒められ理保は満面の笑みを浮かべた。
「理保も料理上手だからな。騎手時代、腹いっぱい食えないのがもどかしいぐらいだった」
慎一郎がしみじみと言うと、大人達の視線がバッと慎一郎に注がれた。
「あ……いや……その……。ゴホンッ!」
無意識に惚気てしまった慎一郎は顔を赤くし、理保は慎一郎以上に赤くなってエプロンで顔を覆っていた。




