891話
いよいよ悠助の入園式が近づいてきた。
春香は美理愛の世話の合間に、理保に手伝ってもらいながら入園準備をしている。
「たかばねゆうすけ……と」
「はい。こっちは書き終わったわよ」
「お義母さん。ありがとうございます」
入園前の一番手前がかかるのは、持ち物の名前書きだ。細い油性マジックで一つ一つ書いていく。
「面倒って言う人もいるけど、孫の為って思うと楽しいわね」
「小学校のほうが大変ですもんね」
「そうそう。細かい物に一つ一つ書いてると肩がこっちゃうわよね」
理保は楽しそうに笑う。
「お義母さんには、入園説明会にまで行っていただいて助かりました」
「ふふふ。気にしないでって言ったでしょう? 春香さんは産後なんだから」
「はい」
テーブルの上には新しく買った物と凱央のお古が並んでいる。
「新しい物が欲しいって言うんだろうなって思ったのに、凱央のお古が欲しいなんてね。悠助は本当にお兄ちゃん子なのね」
「そうですよね。幼稚園の通園帽なんて、凱央が卒園して半年もしない内にボロボロにするぐらい気に入ってて」
なぜか庭遊びをする時にもかぶっていた凱央の通園帽は、さすがに買い替えるのはやめた。
「良い事よ? お古を喜んで使うんだから」
理保はそう言って真新しい通園帽を手に取った。二年間かぶった後、俊洋が欲しがるかも知れないと思うと笑みが溢れる。
通園バッグは凱央が使っていた物で、名前を書き換えた。その上に通園帽を置いて、理保は駐車場側に視線を移す。
「あの自転車も喜んで使ってるのね」
「ええ。新しいのを買う? って訊いたら、凱央のに乗るって言って」
凱央の初めての自転車を乗っている悠助の後を、これまた凱央の初めて三輪車に乗っている俊洋が追いかけている。
「俊洋が乗る頃にはボロボロになってるかも知れないわね」
「そうかも知れないですね。手入れはしてますけど」
雄太ぐらい収入があれば新しい物は買えるのだが、子供達が『これが良い』とお古を好んで使っているのだから仕方がない。
「男の子だしいつか壊すかも知れないけど、そうなったら新しいの買うしかないわよね。乱暴に扱わなくても、兄弟三人が使えば壊れるんじゃない?」
「私もそう思ってます。まぁ、壊れたら新しいの買います」
「そうね。さすがに壊れたら新しいのを買っても悠助も俊洋も納得するんじゃないかしら」
理保の言葉に春香は深く頷く。嫁姑とは思えないのんびりとした空気感が漂う。
「あ、そうだわ」
「なんでしょう?」
「悠助の靴、さすがに新しいの買うでしょう?」
「あ〜。そうですね。靴は凱央も走り回ったりするからサイズアウトする前にボロボロになっちゃってますから」
雄太宅から学校まではそんなに距離がある訳じゃない。近いほうだ。
だが、学校でも尚道達と鬼ごっこをしたりして走り回って遊んでいると凱央は言っていた。
「なら、悠助の靴は私達からお祝いとして買わせてくれないかしら?」
オモチャや贅沢品はなるべくポンポン買い与えたくないと雄太達は常々言っているが、学校で必要な物ならばと春香は思った。
「はい。お願いします」
「ふふふ。ありがとう」
「ありがとうは、私のほうですよ? お義母さん」
「あら、そうね」
春香と理保は顔を見合わせて笑う。
「フヤァ……」
「あ、美理愛起きちゃった」
春香は手にしていたマジックをテーブルに置いて、ベビーベッドに近寄った。
「お腹減ったのかな? オムツ替えようね」
「フニャウ……」
春香が手早くオムツを替えているのを理保は見ていた。
(手際良いのよね。四人目っていうのもあるんでしょうけど)
その時、インターホンが鳴り理保が立ち上がりモニターを見ると凱央が映っていた。
理保が門扉の鍵の開錠キーを押して玄関に向かう。
「バァバ。ただいま」
「おかえり、凱央」
洗面所へ向かった凱央の靴を見ると傷だらけになっていた。
(あらあら)
春香が言っていた通り、凱央は靴をボロボロになるぐらいに走り回っているのだなと思った。
後日、慎一郎と理保は孫達を連れて靴屋へ向かい、三人の孫に三足ずつ買ってやり満足していた。




