889話
3月15日(土曜日)中山競馬場で開催されたG3フラワーカップを勝った雄太はウキウキで新幹線で阪神競馬場へ向かう新幹線に乗っていた。
一緒に新幹線に乗っている梅野は、ニコニコと笑いながら雄太をかまう事に余念がない。
「なぁなぁ、雄太ぁ〜」
「なんです? 美理愛は嫁にはやりませんよ?」
「俺は何にも言ってないじゃないかぁ〜」
雄太が先回りして言うと、梅野は目一杯ショボくれた顔をする。
「なら、なんです?」
「うぅ……。雄太、冷たいぞぉ〜」
鈴掛にも同じように愛香音を嫁にと言って断られているのは、耳にタコが出来るぐらい聞かされている。
「全く……。ちょっとは自分の歳を考えてくださいって何回も言ってるじゃないですか」
「俺は歳はとっても、若くて可愛い嫁をもらえるんだぞぉ〜」
自信満々で言う梅野に、雄太はニッコリと笑った。
「分かりました」
「やっと分かってくれたかぁ〜」
「美理愛を嫁に欲しいなら、先ずは俺を倒して、お義父さんを倒して、さらには父さんを倒してください。ラスボスは重幸さんですから頑張ってくださいね?」
梅野がヒクヒクと頬を引きつらせる。
「ちょっと……待てぇ……。お前は分かるし、直樹先生と慎一郎調教師も分かるけどぉ……。何で、そこに重幸さんが加わってくるんだよぉ〜っ⁉」
「仕方ないですよ。重幸さんも『美理愛は嫁にはやらん』宣言してるんですから」
春香と美理愛が退院する日、重幸は声高らかに雄太に言ったのだ。
『美理愛は可愛い。死ぬほど可愛い。きっと数多の男が言い寄ってくるのは確定している。そいつらに言っておいてくれ。美理愛を嫁に欲しいなら俺を倒してからにしろと』
春香も呆れかえる程のドヤ顔で、雄太の肩に両手に置いて言い放ったのだ。
「重幸さんが……ラスボスとか……反則だろぉ……」
「俺もそう思ってます」
雄太は重幸の宣言にドン引きしたが、よくよく考えると地位も名誉も金もあり、直樹が『兄さんは俺より強い』と言うぐらいなのだ。
美理愛に付く悪い虫退治にうってつけの人物だ。
「俺の……幸せ家族計画がぁ……」
「光源氏計画では?」
「それも良いなぁ〜」
ウハウハと顔をほころばせる梅野だが、ラスボス重幸を思い出したのかシュンとしてしまった。
この先、若くて可愛い美理愛を嫁に欲しいと浮足立っていう梅野には、重幸ガードが一番だろうなと雄太は思いニマニマと笑った。
「俺の……可愛い愛香音ちゃん……美理愛ちゃん……」
スンスンと拗ねたような梅野に、雄太は極上の笑みを向けた。
「俺の出した条件をクリアすれば、美理愛を嫁にやっても良いですけど?」
「何っ⁉ その条件って何〜っ⁉」
パァーと輝かせ、目をキラキラさせた梅野が雄太のほうに向き直る。
「今年、俺の勝利数を上回ったら美理愛の婿候補っていうのはどうです? 条件をクリアしたらお義父さんと父さんや重幸さんも説得してあげるっていうサービスつきで」
「え……。あの……さ、ちなみに雄太の去年の勝利数って……?」
「去年は159ですね。今年は去年より良い感じなんですよねぇ〜。重賞もしっかり獲れてますから」
一気に奈落の底に落とされたような顔になった梅野に、雄太は吹き出しそうになる。
「あ、そうだ。美理愛の宮参りの日なんですけど、悠助の入園式も一緒なんてすよね。また、梅野さんに撮影をお願いしたいなって思ってるんですよ」
「お〜。俺の未来の花嫁の宮参りかぁ〜。ん? そうか。悠助って未来のお兄様なんだよなぁ〜」
ピタリと雄太の動きが止まった。
「どうした? 雄太ぁ〜」
「そうか……。梅野さんが美理愛の婿になったら、凱央達がお義兄さんになるんだ……」
「そりゃそうだろぉ〜? 今んトコ、長男凱央。次男悠助。三男俊洋。末娘美理愛ってなってるんだからぁ〜。俺は末娘の婿だから……」
雄太は右手で梅野の口を塞いだ。
「フゴッ⁉」
「梅野さんに『お義父さん』って言われるのも嫌てすけど、凱央達が『お義兄さん』って言われてるのも何かゾッとしとんで、やっぱり美理愛は嫁にやりません」
なんだかんだ言っても、やはり美理愛は嫁にやりたくない雄太だった。




