887話
3月10日(月曜日)
春香と美理愛は無事に退院した。重幸の春香と美理愛を帰したくないアピールが凄かった。
「おじさん。何かあったらおじさんに言うからね?」
「むぅ……」
「小児科じゃなくても、産科じゃなくても、おじさんは世界で一番信頼出来るお医者様だって思ってるから」
迎えに来た雄太は毎度のやり取りに苦笑するしかなかった。
帰宅すると、慎一郎達と悠助と俊洋が待っていてくれた。
「おかえり、春香さん。美理愛」
「おかえりなさい」
「ただいまもどりました。お義父さん、お義母さん」
悠助と俊洋はピョンピョンとジャンプをして美理愛を覗き込もうとする。
春香は膝をついて美理愛と二人のお兄ちゃんと目線を合わせてやる。
「ミリア、オカエリ」
「ミリタン、ミリタン」
美理愛は二人を見てパヤッと笑った。つられて悠助も俊洋も嬉しそうに笑う。
「さぁ、美理愛。ここがあなたのお家よ」
「アゥ……」
まだ言葉が理解出来る訳もないのに、美理愛は小さな声を出した。
リビングに入り春香は美理愛をそっとベビーベッドに寝かせた。
ベビー布団のカバーは雄太家では初めてのピンクだ。布団カバーもベッドガードも柔らかなシュガーピンクで、白いフリルがついている。
「女の子って、華やかって気がするなぁ……」
「雄太から俊洋まで男の子ばかり見て来ましたからね。でも、鈴掛くんのところ愛香音ちゃんを見たでしょう?」
「それはそうだが、やっぱり自分の孫は気持ちが違う」
雄太はベビーベッドに齧りついている両親に苦笑いを浮かべていた。
「パーパ、ミリアミセテ」
「パッパ、ボクモ」
雄太は順番に抱っこしてやる。春香はニコニコと笑って見ていたが、ゆっくりとソファーに座った。
理保がスッとキッチンに向かって行ったと思ったら、カップを持って来て春香に差し出した。
「春香さん。ホットミルクよ。疲れてるだろうから、少し甘くしておいたわ」
「お義母さん……。ありがとうございます」
「それを飲んだら、横になりなさいね。まだまだ本調子じゃないんだから」
「はい。甘えさせてもらいます」
雄太は二人のやり取りを見てから、ベビーベッドでベッドメリーを見ている美理愛を見詰めた。
春香と似たほんの少し茶色味がかったサラサラの髪と輪郭のはっきりした薄いピンク色の唇、大きなクルンとした目。
(春香に似てる部分が多くないか? てか可愛い……。可愛過ぎるぞ)
自分と似ている部分を探す事を放棄した雄太は、グッと拳を握り締めた。
「俺、美理愛は嫁にはやらない」
自然に口から出た言葉だったが、春香をはじめ、慎一郎達も目を真ん丸にして固まっていた。
その視線に気づいた雄太は驚いてしまった。
「え? え? 俺、何か変な事言った?」
「雄太くん……。そんなにお父さんに似ないで良いから……」
「は……春香……」
雄太はヒクヒクと頬を引きつらせて笑うしかなかった。
春香は美理愛がお腹が減ったと泣くまで、少しの間自室で眠っていた。
雄太がいてくれる。慎一郎達も、一気にお兄ちゃんぽくなった悠助達もいてくれる。その安心感からか久し振りにしっかりと春香は眠った。
「悠助、俊洋。美理愛が起きちゃうから遊ぶなら二階でな?」
「ウン。ワカッテルヨ」
「ウン」
二人は遊ぶ事も忘れて、ソファーの上に立ちベビーベッドを覗き込み美理愛を見ていた。
慎一郎は一度トレセンに行って、戻ってきたかと思えば美理愛を見ていた。
「父さん……」
「何だ?」
「孫って、やっぱり嬉しいか?」
「ああ。最高だ。孫は子より可愛いとか、目に入れても痛くないとか、昔の人は上手い事を言ったと思うぞ」
眠っている美理愛が口をモニュモニュと動かしている。
「こういう仕草ですら可愛いと思う。お前が赤子の時に見られなかった分もたっぷりと見させてもらえる。春香さんに感謝だな」
「父さん……」
たくさんの人の助けがなければ四人もの子供を育てられないだろう。雄太も分かっている。もちろん春香も。
(俺こそ感謝だ。ありがとう。父さん、母さん。春香)
たくさんの人に感謝をする気持ちでいっぱいの雄太だった。




