1078話
賑やかに朝食を終えた雄太達と直樹達は慎一郎宅へと向かった。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます。お待ちしておりました」
直樹と里美は深々と頭を下げた。出迎えた慎一郎と理保も笑顔で新年の挨拶をする。
ここしばらく新年の来客が減っている上に、雄太宅に直樹達が滞在するのを聞いた慎一郎が雄太に直樹と将棋をしたいと言い出したのだ。
「鷹羽さんは、かなり将棋がお強いときいたのですが」
「いやいや。最近は相手をしてくれる人も減りましてな。お手柔らかに頼みますよ」
並んで和室へと向かう慎一郎と直樹の楽しそうな様子に、理保と里美も嬉しそうだ。
子供達は来客の接待をするのが楽しみなようで、ワクワクしているのが伝わってくる。
「父さん、子供みたいに笑ってるよな」
「お父さんもだよ」
お互いの親が仲良くしている事は子として嬉しいものだ。理保と里美は互いの夫同士がいたずらっ子のような笑みを浮かべながら話しているのを微笑ましく見ている。
「来客をそっちのけで夢中にならないと良いのだけれど」
「二人共、負けず嫌いですから何局勝負する事になるかしら」
「ふふふ。東雲さんがしばらくお隣にいるのが嬉しいのよ。ご迷惑でなかったら、遊んでやってくださいな」
「直樹も喜びますよ、きっと」
大人になればなるほど新しく友人を作る事は難しい。人との付き合いは増えたとしてもだ。
慎一郎と直樹は、雄太と春香が結婚をした事で縁が出来た。何度も何度も会って話してお互いの話をして来た。
「とりあえず来客があるまで指しましょうか」
「そうですね」
二人はいそいそと和室に入り、慎一郎が大切にしていた将棋盤の前に座った。
凱央と悠助は興味津々で見ているようだが、俊洋と美理愛は春香達とダイニングのほうについて来た。
「来客があるまでゆっくりお茶でも飲んでいましょうか。里美さん、そこの扉を開けたところに俊洋達の椅子があるから出してくださる?」
「あ、はい」
納戸の扉を開けると右側にハイチェアが二脚置いてある。
(ここに孫達が来て食事をしたりしてるのが分かるわね)
普段は慎一郎と理保しかいないのにハイチェアがあり、ヒーターガードが設置してある。
雄太と春香が度々《たびたび》慎一郎宅に孫を連れてきている証拠だなと里美は思った。
「美理愛。椅子に座りましょうね」
「ウン」
里美は美理愛を抱き上げて座らせると、俊洋のほうへ向き直った。
「あら? 俊洋は自分で座れるのね」
「ボクハ、ミリアノオニイチャンダカラ」
背が伸びた俊洋は上手く足置きを使って自分で座って得意げな顔をした。
里美は俊洋の頭を撫でた後、春香と理保が二人並んでキッチンに立っているのを見詰めていた。
「母さん。応接間、ヒーター点けてきたよ」
「ありがとう、雄太」
春香は盆に緑茶の湯飲み二つと子供用のカップ二つ乗せて雄太に笑いかけた。
「雄太くん、ドア開けてくれる?」
「ああ」
二人並んで和室まで向かう。
「雄太くんの分はコーヒー淹れてあるからね」
「ありがとうな。何か不思議な感じの正月だな」
「うん。でも楽しいね」
お互いの両親が揃って和やかに過ごす正月はこの先あるかないかも分からない。
慎一郎の仕事は調教師だ。騎手には定年がないが、調教師には定年がある。
定年をすればのんびりと余生を過ごすだろうというのは想像が出来るが、直樹達は店にも医師にも定年はないから何歳まで仕事を続けるか判断出来ないのだ。
「物凄く先の話になるけど、家族全員で温泉旅行とか出来ると良いよな」
「あ〜。それ良いね」
和室に入ると真剣な顔で将棋盤に向かっている慎一郎と直樹がいて、ルールもなにも分からない凱央と悠助が盤上を見ている。
「お茶持って来ました。凱央と悠助はホットミルクね」
「ああ。すまんね」
「ありがとうな、春」
炬燵の上にホットミルクを置いて、慎一郎と直樹の分は盆のまま将棋盤の横に置いた。
二人共、礼を口にするが視線は盤上に固定されていて、全く春香のほうを見ないのがおかしくて、雄太と顔を見合わせて笑いを堪えるのが大変だった。




