第41章 別れと変化 1077話
2000年1月1日(土曜日)
新たな年を迎えた雄太宅のキッチンには春香と里美が楽しそうに朝食の準備をしていた。
「お母さん。こんな感じでどう?」
春香が差し出した小皿を受け取り、里美はコクンと味見をした。
「あら、美味しい。この白味噌、甘味が優しくて良いわね」
「でしょ? 木桶で仕込んだお味噌なんだって」
「良いわね。御出汁も良い感じよ」
里美に褒められた春香は子供のように笑う。
雄太と直樹は子供達の洗面などを手伝い、白味噌の香りが漂うリビングへとやってきた。
「お、良い匂いだな」
直樹は久し振りの春香の作る雑煮を楽しみにしていたのである。
雄太は満面の笑みを浮かべる直樹の様子に満足した。
「盛り付け終わった分から運んでね」
里美は大皿に子供達が喜びそうな洋風のオードブルと大人向けのオードブルを盛り付けてカウンターへと乗せていった。
雄太と直樹は頷きリビングのテーブルに運んでいく。凱央は食器棚に準備してあった祝い箸や取り皿を取り出し悠助に手渡した。
「ゆっくりだよ、ゆうすけ」
「うん。ときお兄ちゃん」
俊洋はリビングで食事をする時用の椅子を並べていた。
「トキオニイタン。ワタチモ、オテツダイスル〜」
「じゃあ、みりあはこれ運んで」
「ハイッ!」
凱央は美理愛がいつも使っているウサギの絵の描いてあるプラカップと俊洋の黄色いプラカップを手渡した。
その様子を直樹も里美も嬉しそうに笑っている。
「なぁ、雄太。昨日も思ったけど、子供達しっかりお手伝い出来るよな」
「ええ。お手伝いするようになんて言った事はないんですけどね」
そう言って雄太は直樹に微笑んだ。
(言わなくても、お前の背中を見てりゃ子供達は自然とお手伝いするさ)
雄太の世代だとまだまだ家の事を自然と手伝う男は少数だろう。
春香は時折東雲での仕事があるだけで、ほぼ専業主婦だ。子供が小さいからと言っても、雄太のように家事を手伝おうと思う男は少ないだろう。
(本当、こいつは良い夫で良い父親だよ。春香の男を見る目に狂いはなかったよな)
そう言う直樹も雄太との交際を認めたのだ。結婚したいと言われた時は春香を手離したくない故に抵抗はしてしまったが。
「お父さん? どうかしたの?」
雄太がテーブルに料理を運んでいる背中を見詰めていた直樹に春香が声をかける。
「ん? いや、何でもない」
「そう? あ、昨日の鍋の白菜の余りで作ったお漬物あるよ」
「貧乏漬け物か」
「うん。昆布のと鰹節のと二種類あるから」
春香は小鉢に入れてある漬け物を冷蔵庫から取り出しカウンターに置いた。
「ふふふ。直樹ったら貧乏漬け物って名前変えろって言いながら自分で言ってるわよ?」
「あ、確かに」
里美は雑煮をよそった碗をカウンターに置きながら笑う。直樹は笑って白菜の漬け物をリビングに運んだ。
「なんだかんだで直樹は貧乏漬け物が好きなのよね」
「雄太くんも、鷹羽のお義父さんも喜んで食べてくれるから、作り甲斐あるんだよ」
慎一郎はシャキシャキした歯ごたえが良いと言って理保にも作ってもらっている。
鯛飯のおこげや白菜の芯の部分は長男であった慎一郎には口にさせてもらえなかった反動だろう。
「鷹羽のお義父さん、鰤カマとか鯛のアラの潮汁も喜んで食べてくださるの。お義母さんはお義父さんのご両親から、そう言うのは食べさせる事は駄目だと言われてたっておっしゃってた」
「昔の人はそういう考えだったから仕方ないのよね。特に田舎だとね」
「うん」
慎一郎は結婚をしても好きな物を食べたいと言う事に躊躇があったと言っていた。
『儂が食べたいと言ったら理保は食べさせてくれたとは思うが、その事がバレた時に理保が嫌味や小言を言われるんじゃないかと思ったら言えんかった』
酔っ払った慎一郎がしみじみと話し、理保は慎一郎の心遣いに目を潤ませていたのだ。
「春、里美。子供達が待ってるぞ」
「はいはい。今行くわ」
「うん」
家事に積極的な夫を持った春香と里美は感謝しなければなと思いながらリビングへと向かった。




