1076話
ゆっくりと食事を終えた直樹達が客間で入浴の準備をしていた時、俊洋と美理愛がテッテッテとやって来た。
「ジィジ、バァバ。オフロ?」
「ん? そうだぞ」
「ここのお風呂は広くて気持ち良いみたいだし楽しみにしてたのよ」
美理愛は直樹の膝の上に乗って楽しそうにリズムを取っていて、俊洋は里美の前に座って甘えている。
「ジィジ、バァバ。ボクモイッショニハイル〜」
「ワタチモ、オフロハイルノ」
直樹達にゆっくりと風呂を楽しんでもらいたいと思っていた雄太達だったのだが、俊洋と美理愛が直樹と里美の服の裾をしっかりと握り締めている。
夕方に風呂に入っただろうと雄太は言ったのだが、どうしてもと頬を膨らませている。
「俊洋、美理愛。そんなにジィジ達と一緒が良いのか?」
「ウンっ! イッショガイイ」
「アノネ、イッショニネルノ〜」
「ボクモ、イッショニネル〜」
美理愛は風呂だけでなく、一緒に寝るとまで言い出した。それに俊洋が乗っかる。
「お父さん、お母さん……」
「良いよ、春。むしろ一緒って言ってもらえて嬉しいぐらいだ」
「そうよ、春香」
困った顔をして直樹達を見ている春香の髪を里美は優しく撫でた。
「うん。じゃあ、俊洋達のパジャマとか準備するね」
「ええ。俊洋と美理愛の枕もここに持ってきてあげてね」
「うん。分かった」
雄太と春香は苦笑いを浮かべて、雄太は二階へ俊洋のパジャマや枕を持って下りてきて、春香は美理愛の分を取って来た。
「まさか、お義父さん達と風呂入りたいとか言うとは思ってなかったよな」
「うん。お父さん達にゆっくりしてもらいたいって雄太くん言ってくれてたのにね」
「ああ」
雄太は嬉しそうに笑いながら枕を置こうとすると、客間の扉が開いた。
そこに立っていたのはパジャマに着替えて枕を抱えた凱央と悠助だ。
「え? 凱央……、悠助……。どうしたんだ?」
「どうしたの? 二人共……」
雄太と春香は目が真ん丸になってしまった。
「ぼくも、ジィジ達と寝たいんだ。良いよね?」
「ぼくもなんだよ。ダメ?」
雄太と春香は顔を見合わせた。
「んん〜。どうする……?」
「えっと……、どうしよう……」
客間にはまだまだスペースがある。だが、ゆっくりしてもらいたいのにとまたもや同じ考えが二人の中に苦笑いを浮かべるしかなかった。
客間に布団を追加で二組敷いて、直樹達と孫達はスヤスヤと眠っていた。
その様子をそっと覗き見た雄太と春香は、間接照明だけにしたリビングのソファーで寄り添っていた。
「結局、お義父さんとお義母さんにゆっくりしてもらえたんだろうか……?」
「あはは……。慌ただしく来てもらったし、食後は孫達に絡まれまくってたもんね」
「だろ? 一緒に風呂まで入って、一緒に寝る事にまでなっちゃったしな」
雄太は苦笑いを浮かべながら、右手で頬をポリポリと掻いた。
春香は体を少し雄太に近づけた。
「きっと、お父さんもお母さんも疲れ吹っ飛んだと思うよ? 可愛い可愛い孫達にまとわりつかれたんだし」
「そうかな?」
「だって本当に幸せそうだなって顔してたもん」
確かに客間に戻って来た直樹達は枕を抱えてニコニコと笑っている凱央と悠助を見てビックリはしていた。
だが、一緒に寝たいと言われて二人共爆笑したのだ。
「凱央と悠助は学校に行くようになって、お買い物について来る事が減ったでしょ? それでも『ジィジ、バァバ』ってくっついてもらったら嬉しいじゃない?」
「そっか。まぁ後数日あるし、仕事が始まっても、ここでまったり出来る時間で癒やされて欲しいよな」
「うん」
まだまだ子供だった十七歳の雄太を一人の人間、一人前の男として扱ってくれた直樹と里美に『いつか思いっきり恩返しがしたい』と雄太は思っていたのだ。
「あ、除夜の鐘が鳴り出したな」
「うん」
「春香。一年間いっぱい助けてくれて、いっぱい癒してくれてありがとうな」
「私も、雄太くんにいっぱい優しくしてもらって幸せが溢れてたよ。ありがとう」
微かに聞こえて来た除夜の鐘に一年の終わりを感じた二人はそっと抱き合い一年の労をねぎらい、来たる一年が良きものになるようにと願った。




