1075話
12月31日(金曜日)
夜になってから、雄太宅に直樹と里美が訪れた。
「ジィジ、バァバ。いらっしゃい〜」
「まってたぁ〜」
「ジィジ、バァバ。ハヤクハヤク〜」
「ジィジ〜、バァバ〜」
玄関を開けた途端に可愛い孫達の歓迎を受けた直樹達は嬉しそうに笑った。
「お義父さん、お義母さん。いらっしゃい」
「お父さん、お母さん。早く上がって」
開け放ってあるリビングからふんわりと良い香りが漂って来る。
直樹と里美は孫達に囲まれながら、雄太宅での宿泊への一歩を踏み出した。
クツクツと煮える土鍋の蓋から湯気が立ち上っている。
「いっぱい食べてくださいね」
雄太が土鍋の蓋を取ると部屋いっぱいに甘い白菜と蟹の甘い香りが広がる。
「おぉ〜。良い匂いだな」
「立派な蟹ね」
春香は白菜や豆腐をサッと俊洋と美理愛の小皿に取りフーフーと冷ましてやる。凱央と悠助の分は、雄太が取り分けてやる。
(雄太は相変わらず良いパパしてるなぁ〜)
(四人も子供がいても春香が穏やかに過ごせているのは雄太くんがこんな風に動いてくれてるからなのよね)
子供達が揃って手を合わせて『いただきます』と言うのを直樹と里美は微笑ましく見ていた。
ある程度食事が進み、春香は蕎麦を茹でて盛り付け、雄太は一人一人の前に置いていく。
直樹は蕎麦をすするとホゥと息を吐いた。
「この蕎麦、良い香りだな」
「うん。美味しいお蕎麦屋さん見つけたの。でね、店主さんが雄太くんのファンだって言ってくださって、特別に打ってくださったの」
「へぇ〜。後で店を教えてくれ。俺、こう言う田舎蕎麦が大好物なんだ」
「うん」
直樹と里美の碗には柔らかく煮た鰊が入っている。里美は美味しそうに噛み締めている。
「うん。鰊しっかり炊けるようになったわね」
「お祖母ちゃんの味にはまだ及ばないけどね」
春香を育ててくれた祖母はもう居ない。だが、春香は祖母の味を忘れてはいないし、いつか越えたいと思っている。
「ママ。ニシンッテ、ナニ?」
「ん? お魚の名前だよ」
「オサカナ? ボク、タベタコトアル?」
「俊洋は食べた事ないかな」
細い骨が多い鰊は子供には食べ辛いものだと思う。
鯖味噌などは骨まで柔らかくなるように圧力鍋で煮たりするが、そこまでして鰊を子供達に食べさせようと思った事がないなと春香は思っていた。
鰊に興味津々の俊洋は里美の顔をジッと見る。俊洋の視線に里美は微笑んだ。
「俊洋。少しだけ食べてみる?」
「ウンっ!」
里美は上手く小骨を箸で避けて、小さな身を大きく口を開けている俊洋のほうに差し出した。
パクリと鰊を口にした俊洋はモグモグと口を動かしている。
「ニシンッテ、オイシイネ」
「お? 俊洋はなかなか通好みだな」
俊洋に直樹の言葉の意味は分からなかったようだが、それでも『美味しい』と言う言葉に春香は嬉しそうに笑った。
「マー。オアゲサン、オカワリ」
「はいはい」
春香は美理愛用に短冊切りにした油揚げを碗に入れてやる。
凱央と悠助は手に大きなタラバガニを持ちハフハフと食べている。
「凱央と悠助はわんぱくな食べ方するな」
「男の子って感じよね」
「俊洋も美理愛も好き嫌いないのかな。野菜もしっかり食べてる」
「そうね。小さい頃から好き嫌いがないのは良い事だわ」
直樹と里美は孫との食事が楽しくて堪らないと言った感じだ。
楽しそうな二人の様子が雄太は本当に嬉しかった。
(宿泊券プレゼントして良かったな。普段、一緒に食事をするなんて出来ないし)
ふと春香を見ると、春香も嬉しそうに微笑みながら直樹達を見詰めていた。
(春香にも良い時間をプレゼントしてやれたかな)
春香が里帰り出産以外で結婚後直樹達と過ごす事はない。雄太宅に泊まりに来て欲しいとずっと思っていた事を雄太は気づいてはいた。
(きっかけがなかったもんな。お義父さん達もずっと休みなしで働いてるし)
嬉しそうに笑っている直樹達と春香と、ウキウキしている子供達と過ごす大晦日が嬉しくて堪らない雄太だった。




