1072話
12月24日(金曜日)
世間ではクリスマスイブで華やかで賑やかだが、雄太は明日からのレースに備えて調整ルームへ行かなければならない。
(クリスマスイブ、クリスマスが調整ルームで缶詰めだもんな)
サンタ役は春香が頑張ってくれるだろう。帰って来たら、毎年恒例の凱央の誕生パーティーと忘年会などの盛り合わせが待っている。
「雄太くん、いってらっしゃい。気をつけて、頑張ってね」
春香は玄関で雄太の両手をギュッと握った。雄太は春香の手を握り返す。
「ああ。ありがとうな」
昨日から冬休みに入った子供達は並んで雄太を見詰めた。雄太は膝をついて子供達と目線を会わせると大きく腕を広げた。
「パパ、頑張って来るからな。良い子にしてろよ」
子供達は大好きなな雄太の腕の中で頷いている。何度も何度も見て来た光景に春香は幸せを噛み締めていた。
そして、インポータントデイの日曜日のレースを無事で終えて欲しい気持ちがあった。
阪神競馬場の調整ルームにはタクシーで向かった。日曜日は中山競馬場での騎乗があるからだ。
駅前のマンションで暮らしている梅野が駅前でタクシーに乗り、雄太宅で雄太を拾い栗東インターへと向かう。
「もう有馬の時期なんだよなぁ〜」
「そうですね。あっという間な気がします」
「年々、一年が経つのが早いんだよなぁ〜。俺も歳喰ったって……、うはぁ……」
「自分で言ってダメージ喰らわないでくださいよ」
雄太は必死で笑いを堪えてはいるが、肩がプルプルと震える。
「俺はいつまでも若いつもりなんだけど、年々歳喰う……うげぇ……」
「だから、自分でダメージを受けるぐらいなら言わないで良いですって」
薄っすらと涙を浮かべながらゲラゲラと笑う雄太と自分の言葉でダメージを受ける梅野を乗せて、タクシーは阪神競馬場へ到着した。
雄太は部屋に荷物を置いてベッドに腰掛けた。
春香に直樹と里美に届けてもらった招待状の返事の事を思い出す。
『招待状ありがとうな。せっかくもらった宿泊券だから目一杯思いっきり贅沢させてもらっても良いか?』
ワクワクが止められないと言う弾んだ直樹の声は今も耳に残っている。
(お義父さん、春香や子供達と暮らした事がないみたいな感じだったよな)
春香は出産時に里帰りをしていたのを忘れたのかと言って笑っていた。
『大晦日、業者の清掃が終わったら行く事にしたから』
31日の夜から直樹達が泊まる事になると言ったら、子供達も大騒ぎだった。
「ぼく、ジィジとタコあげに行きたい」
「ぼくも行く〜」
「バァバト、トランプスル〜」
「バァバト、オフロハイルノ」
普段は買い物ついでに寄る程度で、凱央や悠助は直樹達と会う時間が減っているからだろう。
大きくなった凱央でさえワクワクとしているようで、雄太は直樹達に宿泊券を渡して良かったなと思った。
(お義父さんもお義母さんも、春香と同じで金を使う事が最善だと思ってないもんな。それに俺達が金額よりも相手を思う気持ちのほうが嬉しいって言ったのを覚えていてくださってる)
たくさんの手作りオーナメントは直樹達の心がこもっていた。
直樹と里美の医師としての収入と店の収入があれば、高価な物でも楽々と買えるはずなのだ。
『これ世界に一つのオーナメントだね。たくさんあるから一つじゃないかな? でも、ずっと大切にしていかなきゃ』
(プラバンのオーナメントを手にしていた春香は本当に嬉しそうだったもんな。凱央達も)
凱央と悠助、そして俊洋はお気に入りのオーナメントを一つずつ部屋に飾っている。美理愛はトマトのオーナメントの紐を春香に長くしてもらい、健人からもらったウサギのぬいぐるみにつけた。
クリスマスツリーをしまった後に見られなくなるのが残念だと淋しそうに言った凱央達の話をすれば、きっと直樹達は喜ぶだろう。
(俺もお義父さんとゆっくり話せるのは久し振りだし、楽しみだな)
春香達のインポータントデイの引退で会えなくなる淋しさも紛れるだろうと思うと、雄太自身も少し気持ちが軽くなる気がしていた。




