1070話
12月20日(月曜日)
チラチラと雪が降るトレセン前の坂道をキャッキャとはしゃぐ子供達を連れて雄太は美理愛を抱っこして空いた左手で春香の手を握りながら歩いている。
「なぁ、春香。これ積もるかな? 粉雪って感じだし」
「うん。チラチラだし、少しだけなら積もるかな?」
積もれば子供達は喜ぶだろうとは思うが、土日に積もればレースに影響があるかも知れないと雄太は空を見上げた。
「パー。ユキツメタイネ」
「そうだな。ママに作ってもらったマフラー暖かくて良かったな」
「ウン!」
美理愛は大好きなトマトレッドの毛糸で編んであるマフラーをギュッと握る。
凱央は青で悠助は黄緑色、俊洋は黄色で編んである。
「何でも凱央のお古が良いと言っていた悠助達も好みがはっきりしてきたよな」
「そうだね〜」
これからもっともっと自我が出るのだろうなと雄太は思いながら、雪にはしゃぐ子供達の背を眺めていた。
「デイ、鼻息が白いね。けど、馬は寒いほうが好きなんだし、体には負担ないよね」
寒い厩舎の建物の中で、インポータントデイは嬉しそうに尻尾と首を振り春香に撫でられている。
激しい前搔きをしてはいけないと言われてから、片脚を上げてお迎えをするようになったインポータントデイだ。
(デイのラストラン、頑張らないとな)
インポータントデイはスリスリと春香に顔を寄せては、時折雄太をチラリと見るのだ。
(デイの奴ぅ……。安定のドヤ顔だよな)
苦笑いを浮かべながら見ていると、根岸がゆっくりと近づいて来た。
「デイは相変わらず春香さんにベッタリだな」
「そうですね。何て言うか、春香は『甘えても良い人間』『甘やかしてくれる人間』って思ってるんでしょうね」
「そうかも知れんな。馬は頭が良いからな」
雄太は春香にグリグリと顔を寄せているインポータントデイを見詰める。
他馬に負けじと力強く駆ける性格と甘えん坊な姿は全く違っている事が微笑ましいと思った。もちろん、インポータントデイのドヤ顔には苦笑いを浮かべるしかないのだが。
「パパ、ゆきだるま作ったぁ〜」
「ミテミテ〜」
「お、可愛いな。んで、悠助、俊洋手袋は?」
「あ、バケツのところだ」
「ア、ワスレテキタ」
悠助と俊洋は馬房の建物の前に置いてあったバケツなどに積もった雪で遊んでいたようだ。
悠助は雪だるまを俊洋に持たせて手袋を取りに走って行った。
雄太は夢中になると忘れる子供ならではだなと思いながら美理愛を見ると、俊洋の持っている雪だるまをジッと見ていた。
その視線に俊洋は気がついた。
「ミリア。ユキダルマ、サワル?」
「ウン。サワル」
雄太が美理愛を床に下ろしてやると、俊洋が持つ雪だるまをツンツンと指先でつついて嬉しそうに笑った。
俊洋は美理愛の手にそっと雪だるまを持たせた。
「ニイタン、アリガトー。パー。ユキダルマ、デイニミセテイイ?」
「ん? そうだな。じゃあ、美理愛の手が冷え切らない内にデイに見せてやろうな」
「ウン」
雄太は雪だるまを手に乗せたままソロソロと歩く美理愛と凱央達と一緒にインポータントデイの前に立った。
「デイ。がんばるんだよ」
凱央が言うとインポータントデイは凱央の手に鼻面を押しつけた。
「デイ〜。ユキダルマヨ」
美理愛がインポータントデイに一生懸命に雪だるまを見せるが、まだ背が低い美理愛が精一杯腕を上げても、馬房の扉がある為にインポータントデイとは距離がある。
「パー。ダッコシテ」
「よしよし」
雄太は美理愛を抱き上げて、少しだけ馬房に近づくと、インポータントデイは雪だるまに鼻を近づけた。
「デイ。ユキダルマ、カワイイデショ」
美理愛が嬉しそうに言った次の瞬間、インポータントデイは雪だるまをパクリと食べた。
雄太と春香が目を丸くし、凱央達はは口をあんぐりと開け、美理愛は雪玉になってしまった雪だるまを見て大笑いした。
「デイ、ユキダルマタベタァ〜」
一瞬、美理愛が泣くのではないかと思った雄太と春香はホッとして、顔を見合わせて大笑いしてしまった。
インポータントデイのラストランは日曜日の有馬記念だ。




