1064話
11月28日(日曜日)
東京競馬場 10R 第19回ジャパンカップG1 15:20発走 芝2400m
14万人近い来場者の歓声が場内に溢れている。
「凄い人だよな、デイ。お前がダービー馬だって海外の馬達と騎手達に見せつけてやろうな」
春香に甘えている時と全く違うキリリとしているインポータントデイは、何度か首を振っている。
インポータントデイは十四頭立ての二番人気だ。一番人気は凱旋門賞を征した外国馬だ。
つい羨ましさも含めた視線を投げかけてしまう。
(あの馬、本当に良い馬だよな。けど、デイだって負けちゃいないさ。負けるつもりなんてない)
ゲートはスタンド前の騒がしい場所だが、インポータントデイは堂々としていて落ち着いて輪乗りをしている。
(デイ、頑張るんだよ。応援してるからね)
春香はテレビの画面の中のインポータントデイの凛々しい姿を両手をギュッと見ながら祈っていた。
「ママ。デイ落ち着いてるね」
「うん。お客さん達の前がゲートだと嫌がる馬も多いのにね」
「ほら、あの馬なんてすごくカリカリしてるのが分かっちゃうよね」
凱央はテレビの画面を指差し、春香は頷いた。
数日前、自分がいない事で盛大に拗ねていたと聞かされた姿と海外の馬達とレースに挑む姿は同じ馬とは思えない。
悠助達は各々のポンポンを手にして、雄太が映るたびに声援を送っている。
「あ、パパだぁ〜。パパ、がんばれぇ〜」
「パパァ〜、パパァ〜」
「パー、ガンバレェ〜。デイ、ガンバレェ〜」
シャカシャカとポンポンの音を響かせている下三人とソファーに座ってジッと見ている凱央。
春香は子供達の成長を感じながら、テレビの中の雄太を見詰めていた。
響き渡るファンファーレが観客のボルテージを上げた。それでもインポータントデイは落ち着いていた。
順番にゲートに入って行く馬達が落ち着いた時、ゲートが開いた。
綺麗なスタートをきったインポータントデイは、後方集団の前目に位置取った。
観客席からは大歓声が沸き上がり、馬達を見送った。
「デイの定位置って感じの場所だね」
「うん」
前走の天皇賞秋と同じような位置取りだと凱央は思いながら見ていた。
(きっとあの位置が、デイが一番気持ち良く走れるんだろうな。パパとデイが見つけた位置……。ぼくも馬の気持ちやその馬に合う位置取りを見つけられるようにならないと……)
まだサラブレッドに乗っている訳でもないし、馬の気持ちが分かる訳でもない。
まだ騎手としてスタートラインにも立ってはいない。
それでも騎手になりたいという気持ちは日々増えていくのだ。
雄太は順位が上がっても下がっても、インポータントデイのペースを乱さずにいた。雄太が他の騎手と違うと言われるのは、きっちりとラップタイムをコントロール出来るところだ。
展開を考え対処し、尚且つタイムを計れる。
それは誰にもが簡単に出来ないと言われている事で、先輩からも後輩からも尊敬されている。
インポータントデイだけでなく、殆どの馬をペース乱さずに乗りこなしているのが実情だ。
向こう正面に差し掛かり、雄太はゆっくりと順位を上げ始めた。
「え?」
春香は小さく声を上げた。
(いつもより早くない……? 雄太くんらしくないと思うんだけど……)
いつもならもう少し後だと思って見ていると、凱央も同じように思ったようで小さな声で呟いていた。
「パパ……。どういうはんだんしたんだろう……。デイなら今から仕かけても最期までもつって思った……? パパがはんだんミスするなんて思えないんだけど……」
その顔は真剣で、恐らく隣に座っている春香の事も、テレビの前にいる悠助達の事も頭にないように春香には見えた。
(凱央は雄太くんのようになりたいって思ってるのが本当に伝わってくる……。凱央にとって雄太くんはパパであるけど、騎手の先輩なんだな……)
真剣な顔をする凱央からテレビの中の雄太に視線を戻す。
インポータントデイは他馬を楽々と抜き去りながら、前へ前へと一つずつ順位を上げていった。




