1061話
雄太宅の地下のコレクションルームで、雄太と凱央はレースの録画DVDを見ながら色々と話していた。
「ジャパンカップは海外から強い馬がやって来るのは分かってるな?」
「うん。あ、このジョッキーは日本で乗ってた事がある人だよね」
「ああ、よく覚えてたな。短期免許を取得して乗ってた人だ」
来たるジャパンカップにそなえて、過去レースを見直しをしようとしていた雄太に一緒に見て良いかと凱央が申し出たのだ。
これまではコレクションルームに保管しているDVDを見たい時は雄太に許可を取りリビングで見ていたが、雄太に解説を聞きたいと言ったのだ。
「この馬は……」
何か思う事があるとノートに書いては画面を見ている。
何度となく同じ所を見直したりスロー再生をしたりしている姿は勉強熱心といって差し支えないだろう。
(凱央が本気で騎手になりたいと思ってるなら、俺が出来る範囲で教えてやりたい。実際乗ってみないと分からない事もあるだろうけど)
鈴掛や梅野がしてくれたように、伝えられるものは伝えていきたいと思う。
聞いたものを自分の物とし、身につけて、誰にも負けない気力と技術を磨く努力をしていかなければならないのは凱央自身だが、親の欲目で凱央なら出来るとは思ってはいるが、雄太自身が迷う事もあった。
(今更だけど、我が子が競馬騎手になるのを安易に頷いてしまった俺は父親としてどうなんだろう……。騎手は命がけの仕事なのに……)
凱央は真剣な顔でDVDの映像を見詰めていた。
その横顔が自分の子供の頃に似てる気がして、凱央が騎手になるのは反対出来ないと思った。
その時、コンコンとドアがされ、カチャリとドアが開いて春香が顔を出した。
「雄太くん、凱央。晩ご飯の準備出来たよ」
「あ、ああ」
「え? もうそんな時間?」
雄太と凱央が振り返ると春香は優しい笑顔を向けた。
(うわぁ〜。今の凱央って雄太くんそっくりだぁ〜)
マジマジと凱央を見詰めていて近寄って来た凱央の頭を撫でてしまった。
「どうしたの? ママ」
「ん? 頑張って勉強してる凱央偉いなって思って」
キョトンとしている凱央は、まだまだ可愛いと春香は思った。
雄太は子供達が寝静まってから、もう一度数年前からのジャパンカップの録画DVDを見たり、ライバル馬の前走などのレース映像を見ていた。
(ん……。やっぱりこの馬が……)
どの馬をマークするか、どの馬が先行するかなど、レースの組み立てをするのはもう少し先になる。
それでも有力と言われている馬のチェックはしておきたいのは雄太の性格なのだ。
(デイと走れるのは後少し……。本当にもう……)
インポータントデイは年内で引退が決まっている。それは馬主の意向であり、根岸と何度も何度も相談に相談を重ねた結果だ。
騎手である雄太がどうこう言える事ではない。それが騎手というものだ。
(俺もなんだかんだでたくさんの馬を見送って来たな……)
未勝利のまま引退をした馬。
一勝した後、全く勝てずに引退した馬。
中央では勝てなくて地方競馬に移籍した馬。
乗馬用になった馬や神馬になった馬。
カームマリンやゾルテアレックス、ハーティグロウのように種牡馬になり引退して行った馬。
(乗り替わりがあって、その後が分からない馬もいるからな。今どこで何をしているか分かっている馬のほうが圧倒的に多いんだよな……)
どの馬がどうなったかは騎手が把握しなければならない事ではない。
それは馬主が決める事であると雄太は分かっているからだ。
(でも……)
ハッとして目をテレビに向けた。
「駄目だ、駄目だ。集中するんだ、俺。デイをジャパンカップで勝たせてやる為には、集中しろ」
一勝でも多くインポータントデイを勝たせてやりたいと心の底から思う。
それが『ダービージョッキーという称号を与えてくれたインポータントデイへの感謝の思いであり、種牡馬としての価値を上げてやる事が恩返しだと雄太は思っている。
ジャパンカップは二週間後に迫っていた。




