1060話
翌日、またもや美理愛の足蹴で目を覚ました雄太はデコを押さえながら苦笑いを浮かべていた。
(わざわざこっちのベッドに転がって来て蹴らなくても)
子供が落ちないようにとベッドをくっつけているから、コロコロと転がって来るのは仕方がない。
可愛い足ではあるが、力がついてきた娘のかかと落としは結構きく。
雄太は大の字の美理愛をそっと抱き上げ上下を直してやり、グッと体を伸ばしてから春香の部屋を出た。
「えっ⁉ パパ、それ本当っ⁉」
「パパもゲイルとはなしたのっ⁉」
朝食を食べている時、雄太は凱央と悠助にレース中にメイゲイルと話した事を伝えた。
凱央と悠助はオムレツを食べていたフォークをポロリと取り落とし、雄太のほうを向き声を上げたのだ。
雄太は深く頷いて、続きを話した。
「ああ。パパも正直ビックリしたけど、今なら凱央と悠助が言ってたのが凄く分かる。もちろん凱央と悠助の夢は理解してたけど、パパは寝てた訳じゃないから、厳密には凱央と悠助の夢とは違うも思うけどさ」
ニッコリと笑って話す雄太の脳裏にはインポータントデイの隣を駆けるメイゲイルの姿がある。
ゴール板を越えた後の空へと駆け上がっていく後ろ姿は堂々としていて、風になびく尻尾までしっかりと思い出せた。
「パパ。ゲイルはデイといっしよにゴール出来たんだね」
「ああ。最期の直線勝負はデイとゲイルの一騎打ちだったぞ」
「えぇ〜。ゲイルはデイにまけないもん」
悠助はメイゲイルのほうが勝つと信じているようだ。その姿はにこやかで、父の雄太もメイゲイルの姿を見て話した事が嬉しいようだ。
「パパ。ゲイルと話せて良かったね」
「ああ。凱央がアルと話せて嬉しかったのが、ようやく実感出来たぞ」
「うん」
凱央もニコニコとして嬉しそうで、雄太もインポータントデイの勝利の嬉しさが倍増した気がした。
凱央達が学校へ行き、雄太は俊洋を幼稚園に送っていく準備をしていると、美理愛もついて行くと言うので、春香も一緒だ。
「パパ。ボクモ、デイヤゲイルミタイナウマニアエルカナ?」
(ん? デイとかゲイルみたいな……?)
少し考えながら俊洋の言いたい事を頭の中で整理し推理する。
(あ、自分が大好きでお気に入りの馬が出来るかなって事か)
俊洋の言葉に春香が振り返る。
「俊洋が大好きって思えて、お馬さんも俊洋が大好きって思ってくれたら、きっとお話出来るよ」
「ホント? ママ」
「うん」
ニッコリと笑う春香のハーフアップにした髪と青いリボンが揺れる。
手を繋いでいる美理愛のツインテールの髪にもお揃いの青いリボンがヒラヒラと揺れている。
(あれ? そう言えば春香ってやたらめったら馬に好かれるけど、夢で見たとか言った事あったっけ?)
カームマリン、ゾルテアレックスと調教師や厩務員から『相思相愛』と言われていたが、一度も春香が夢で会ったとは言った事がないのではないかと思った。
「マー。キョウハ、モモチャンナデナデデキル?」
「美理愛はモモちゃん好きだね〜」
「ウン。モモチャン、カワイイノ。オサンポスルノ」
最近の美理愛の好きな事はポニーのモモちゃんの散歩だ。もちろん一人では危ないので大人との二人曳きではあるが、楽しいのだと言う。
一度、俊洋が乗っているモモちゃんを慎一郎と一緒に曳いて歩き、それが楽しかったのだと興奮気味に話していた。
(美理愛も馬に興味を持つようになったし、その内凱央や悠助みたいに心から分かり合える馬と出会うのかな? 騎手になるならないは別として)
俊洋も美理愛も将来の事なんて分からない。
馬に関わる仕事に就くとも限らない。
(美理愛、もしかしたら尚道くん家のような農家に嫁に行くとか言ったり……?)
毎年恒例のお庭キャンプに来ていた尚道の後をテッテッテとついて歩いていた姿を思い出すと、そんな事まで想像してしまう。
(いやいや農家は仕事が大変で……。騎手が大変じゃないとは言わないけど……)
お気に入りの馬が出来るとか、馬の夢を見たりするかという話から飛躍していると気づかない雄太は、美理愛の将来を考えて一人ワチャワチャしていた。




