番外編 悠助の未来とメイゲイルの思い
チリン……チリリン
慎一郎宅の南部鉄器の風鈴の音が間近に聞こえ、悠助は目を覚ました。
(あれ? ぼく、まどあけっぱなしにしてた?)
起き上がった悠助はベッドから体を起こした。街灯の光が部屋の中を薄っすらと照らしている。
(まえにもこんなかんじでめがさめたっけ? あれは……そうだ。ゲイルがしんじゃったってきいたあとだ)
なんとはなしに悠助は窓に近寄り星空を見上げた。
(ほっかいどう、たのしかったな。ゲイルのおはかまいりもできたし)
草原が広がる場所にあったメイゲイルの墓碑やトレセンで会った時の事やテレビに向かって応援していた時の事を思い出す。
(ゆめでもいいから、またゲイルにあいたいな)
悠助は振り返りメイゲイルと撮った写真と、その横にぶら下げてある黄緑色のボンボンを見詰める。
(これ……パパもビックリしてたな)
なぜ部屋に落ちていたのか、今でも分からない。
雄太は遺髪として鬣を少しもらい勝ち馬写真と一緒に飾ってあるが、メンコもボンボンも持ってはいない。
「なんでとかわからないけど、これはぼくだけのたからものなんだよね」
『あ、ボンボンゆうすけのところにわすれてたんだ。どこにやったのかなって思ってたんだよね』
「え?」
悠助が声のほうに向くと、メイゲイルが部屋の中にスクッと立っていた。
「ゲ……ゲ……ゲイルっ⁉ どうやって、にかいにきたのっ⁉」
『え? まえにいっしょに空とんだしゃないか』
何を今更と言わんばかりに話すメイゲイルは慌てている悠助の顔に鼻面をくっつけた。
「そうだけど……そうなんだけど……」
『おはかまいりきてくれてありがとうな』
「え? あ、うん」
『あのリンゴ、おいしかったよ』
メイゲイルの目が細められ笑ったような顔になり、悠助はニッコリと笑った。
「ゲイルはリンゴすきだったもんね」
『ばたいじゅうふえすぎたらこまるってことで、おもいっきりたべさせてもらえなかったから、このまえはぜんぶたいらげたよ』
「そうだよね。てんごくだといっぱいたべてもだいじょうぶだもんね」
笑う悠助の顔に寄せた鼻面でスリスリとするメイゲイルは楽しそうだ。
『ゆうすけ。ポニーにのるのたのしい?』
「うん、たのしいよ」
『まだサラブレッドにはのれてないよね?』
「うん。ときおにいちゃんはらいねんから、サラブレッドにのるんだっていってたよ」
乗馬教室とは言え、体の小さな子供達はポニーで馬との接し方覚えたり、基礎を習っているだけだ。
本格的な乗馬は五年生からになっている。
「きまりだからしかたないもんね」
『だよね。ねぇ、ゆうすけ。また、ぼくにのらない?』
「あ、のりたい」
悠助が言うと、メイゲイルは嬉しそうに尻尾を振った。すると、メイゲイルの背中がフワリと光り鞍や鐙が現れ、いつの間にか手綱も着いていた。
トレードマークの黄緑色のメンコ着いていて、鬣にはお揃いの色のボンボンが揺れた。
『のれる?』
「だいじょうぶっ! ベッドからのるから」
悠助がベッドの上に立つと、今度は悠助の体が淡く光り、黄緑色と黄色の勝負服とジョッキーパンツとジョッキーブーツが身を包んだ。
手にはヘルメットがあった。
「かっこいい〜。パパみたいだ」
『にあうよ。ほら、ちゃんとヘルメットかぶって』
「うんっ!」
大好きな雄太のような格好に悠助は目をキラキラと輝かせ、ベッドからゲイルの背中に跨った。
『しっかりたづなにぎるんだよ?』
「うん」
『あぶみはだいじょうぶ?』
「ちゃんとできたよ」
『それじゃあ、いくよ』
フワリと体を浮かせたメイゲイルは窓の外へと向かう。そして、グングンと空高く駆け上がり星が瞬く栗東の空を悠助とメイゲイルは思うままに駆けた。
「ゲイル。ぼく、パパみたいにきしゅになるよ」
『ゆうたみたいな、か?』
「うん」
メイゲイルは更にグングンと速度を上げた。
『ゆうすけならなれるさ』
「おうえんしててね」
『もちろんだ。がんばれ』
「うんっ!」
悠助はメイゲイルに騎手になると誓った。
いつかメイゲイルのような馬に出会える事を夢みて。




