1053話
ゾルテアレックスのいる牧場に着いた雄太達は、スタッフに案内されて放牧地へと向かった。
広い広い放牧地の端にいる草を食んでいた白馬がフイッと顔を上げた。
「アル〜」
「アル、来たよぉ〜」
春香と凱央が声をかけると真っ白な馬は牧柵を破壊するのかと思うぐらいの勢いで一目散に駆けてきた。
現役の頃と変わらぬ速さで駆け寄って来て、雄太達の前で首を激しく上下させている。
「アル、アル。落ち着いてぇ〜」
「あはは。アル、めちゃくちゃ元気だね」
春香と凱央が手を挙げると二人の手に鼻面をあてようと、左右に顔を振っていて足をステップを踏んでいるようだ。
「おい、アル。お前なぁ〜。もう落ち着いていい歳だろうが」
雄太が呆れたように言うとチラリと視線を投げてスイっと視線を春香と凱央に向ける。
「お〜まぁ〜えぇ〜。相変わらずだなっ! カームと言い、お前と言い、俺を何だと思ってんだよぉ〜」
案内してくれたスタッフは俯いて必死に笑いを堪えているが、肩が震えている。
雄太は苦笑いを浮かべて、春香と凱央に無でろと催促しているゾルテアレックスの元気そうな姿を見ていた。
「アル、本当に綺麗な白くなったね」
「ぼくの事、ちゃんとおぼえててくれてうれしいよ」
牧柵の隙間からゾルテアレックスに触れていると、ここが北海道である事を忘れてしまいそうだと春香は思っていた。
「パパ。アルをなでちゃダメ?」
「パパ。アルナデラレル?」
「パー。オウマタンナデナデデキル?」
悠助達が一斉に雄太の服の裾を引っ張る。春香と凱央がゾルテアレックスに『無でろ攻撃』を受けているのが羨ましくなったのだろう。
「え? あ、うん。順番な?」
頷いた悠助達のウズウズ具合が可愛過ぎて笑いながら雄太は美理愛を抱き上げた。
「アル。末っ子の美理愛だ」
「ワタチ、ミリア」
ゾルテアレックスは春香に似た美理愛を見て、鼻面をグッと突き出した。
「アル、キレーネ」
真っ白な雪のようなゾルテアレックスの鼻面に美理愛の小さな手が触れる。
大人しく撫でられている様子は、初めて凱央と会った時を思い出しているようだった。
美理愛に続き、悠助と俊洋もゾルテアレックスを撫でてやった。
「アル。子供達に撫でさせてやってくれてありがとうね」
トレセンにいた頃のように頻繁に会う事は出来ない。ゾルテアレックスは種牡馬としての仕事もあり会える期間も決まっている。
更には冬の北海道へ来る事は大変だ。
「次に会えるの楽しみにしてる。だから、元気でいてね?」
春香の手にグイグイと鼻面を押し付けている様子は『もう帰るのか?』と言っているように見える。
「アル。ぼくね、しょうらいパパみたいなジョッキーになるよ。アルの子どもに乗れたら良いなって思ってるんだ」
凱央がゾルテアレックスをジッと見上げて話す。
言葉の意味は分かっていないだろうと思うが、ゾルテアレックスはユルユルと尻尾を振って、凱央の手を唇でフニフニとした。
「おうえんしてくれてるんだ? ありがとう。来年からはサラブレッドで乗馬するんだよ。ぼく、がんばるからね」
大好きなゾルテアレックスに会えた事で凱央は今まで以上に頑張るのだろうなと雄太も春香も思った。
「また来るから待ってて。やくそくだよ」
凱央は何度も何度も振り返りゾルテアレックスに手を振っていた。
ゾルテアレックスもずっと春香と凱央を見送っていた。
「美理愛。この色のお馬さんで良いか?」
「ウン。パー、アリガトー」
空港の土産物売り場で、美理愛は失くしたぬいぐるみと同じような物を買ってもらった。
凱央は芦毛ではなく今のゾルテアレックスと同じ真っ白な馬のキーホルダーを選び、悠助はメイゲイルと同じ栗毛のキーホルダーを選んでいた。
「俊洋はどれが良いんだ?」
「ボクハ、コレガイイ」
俊洋が選んだのは黒鹿毛の馬のキーホルダーだ。
(これってデイが良いって事かな?)
そんな事を思いながら、子供達にそれぞれ好きな物を買ってやり、雄太達は北海道の地を後にした。




