1052話
細い道をしばらく行くと広くひらけた場所に石碑のような物が見えた。その前には花や果物などがあった。
悠助達はなんだろうという表情でキョロキョロと見回している。
「悠助。ここにおいで」
雄太は悠助を石碑の前に呼んだ。悠助は雄太の隣に立って見上げた。
「ここはゲイルのお墓なんだ」
「え? ゲイルの……?」
悠助はハッとした表情を浮かべ石碑のほうを見た。そして、石碑横の写真のある小さな石碑にあった写真に気がついた。
大きく目を見開いた悠助の目が潤む。
「ゲイル……」
『メイゲイル』と書かれた墓標の前に悠助は膝をついた。
雄太は地面に箱を置いて、中から真っ白な花束を取り出した。草原に吹き渡る風が白いリボンをヒラヒラと揺らしている。
雄太は悠助の隣に膝をついて、悠助の手に持たせた。
「パパ……」
雄太が頷いてみせると、悠助はそっと花束を墓碑の前に置いた。春香も悠助の隣に膝をついて、紙袋からリンゴを取り出して悠助の手に持たせていく。
悠助は受け取ったリンゴを置き、続いて人参を置いた。
その間、凱央達は神妙な顔で見詰めていた。
悠助は花束と供え物を置いた手で、そっと墓碑を撫でた。
「ゲイル。ぼくね、いまでもゲイルがだいすきだよ。ぼく、ずっとずっとゲイルのことわすれないよ」
墓碑を撫でる悠助の目は赤くしながらも笑っていた。
雄太がそっと悠助の肩を抱いてやると、悠助は顔を上げて頷いた。
「ぼくね、うまくうまにのれるようにがんばるから、ここでみててね」
再び墓碑を見詰めた悠助ははっきりと言った。
(ゲイル。俺はお前は俺に今までにない景色を見せてくれたよな。俺、お前と天皇賞勝ちたかったよ。俺はこれからも頑張るからな。天国で見守っててくれ)
雄太はジッと墓碑を見詰めて両手を合わせた。
春香も両手を合わせた。
(ゲイル。雄太くんを守ってくれてありがとう。あなたの誰より速く走る姿、私も忘れないから)
凱央や俊洋、美理愛も雄太達を真似て手を合わせている。
「鷹羽さん」
雄太達が立ち上がると、後ろから声がかけられた。
「あ、場長さん」
「よくいらしてくれました」
作業着に身を包んだ白髪混じりの男性が優しい笑顔を向けてくれる。
「きみが……悠助くんだね?」
「はい」
場長は悠助の前に膝をついて小さな右手をギュッと握った。
「メイゲイルを大切に思ってくれてありがとう。きみが描いてくれたメイゲイルの絵は大切にさせてもらうからね」
「ぼくがかいたえが、ここにあるの?」
主を失くした馬房に置いて来た悠助の描いた絵を江川は手紙を添えて馬主に送ったのだ。
受け取った馬主は涙を流して喜んだ。
『手元に置いておきたいが、メイゲイルは牧場にいたほうが良い』
そう思った馬主は綺麗な額に入れて墓参りの時に牧場に持って来たのだった。
「ああ。良い絵をありがとう。大切に飾っておくからね」
「うん」
場長に頭を撫でられた悠助は墓石を振り返った。
墓石の向こうの草原を目一杯楽しんで駆けているメイゲイルがいる気がした。
「よぉ〜し。次はアルに会いに行くぞぉ〜!」
駐車場に戻り子供達を乗せると雄太は大きく両手を挙げて声を出した。
「早くアルに会いたぁ〜い」
「ぼくも〜」
凱央の声に一番に答えたのは悠助だった。
まだほんの少し目は赤かったが、満面の笑みを浮かべている。
俊洋と美理愛は兄二人につられてキャッキャとはしゃいでいる。
「じゃあ、しゅっぱぁ〜つ!」
雄太が車を発車させると、悠助は窓を開けて大きく大きく手を振った。
「ゲイルぅ〜っ! またくるからねぇ〜っ! ゲイルぅ〜っ! だいすきだよぉ〜っ!」
悠助の笑顔は晴れやかで、雄太と春香はホッと息を吐いた。
(悠助がいつまでゲイルの事を覚えてるかなんて俺には分からない……。大好きな馬が死んでしまって悲しい思いはしたけど、出会えて良かったと思っていて欲しいんだ。ゲイル……。俺もずっとずっとお前を……、お前の背中を忘れないからな)
雄太と悠助の思いは天国のメイゲイルへ届いただろう。




