1051話
レース明けの月曜日。
雄太は朝起きてから、使わない物をまとめた荷物を栗東の自宅に送る手配と用意しておいてもらった物を受け取りにホテルのフロントへ向かった。
大きなトランクを三つ預け、細長い箱と白い紙袋を受け取った。
(先に車のトランクにこれを積んで……。それからルートの確認をして……。うん、これでよしっと)
その日の予定を頭の中で反芻してから、出発準備をしていてもらった車の後部のスペースに箱と紙袋を置いて部屋に戻った。
「皆、忘れ物はないか?」
「ぼくはだいじょうぶだよ」
「ぼくも〜」
凱央と悠助は自分の手荷物の入ったリュックを背負い帽子をかぶっていた。
「ア、ボウシワスレタ〜」
二人の兄の帽子を見て俊洋は慌ててソファーに駆け寄り、置いてあった帽子をかぶった。
美理愛はウサギのリュックを背負い、麦わら帽子をかぶって雄太を見上げた。
その表情は少し暗かった。帰りの準備をしていて馬のぬいぐるみを失くした事を思い出したのだろう。
「美理愛、お馬さんのぬいぐるみはまた買ってやるからな?」
「ホント?」
「ああ。パパと約束だ」
「ウンっ!」
「よし。じゃあ、出発〜」
春香は元気になった美理愛にホッとして、今一度部屋をグルリと見回して忘れ物がないか確認をして部屋を出た。
雄太は全員が乗った車を東へと走らせ、途中で左折をして北上した。
左右に広い広い草原が続く道をどんどん進み、雄太は白く細長い看板がある場所にある細い道へ入る。
子供達は終始キョロキョロと見回していた。
(さっきのカンバン……)
凱央は細長い看板に書いてあった文字を通り過ぎる瞬間に読んでいた。
難しい漢字ではなく片仮名の所だけで、雄太がどこに向かっているのか分かったのだ。
(パパは、やっぱり優しいな……)
細い道をしばらく進み雄太は駐車スペースで車を停めた。子供達のシートベルトを外してやり車から降ろすと、後部ハッチを開けて箱と紙袋を手にした。
「パパ。ここって?」
悠助がキョロキョロと見回して訊ねた。
「ここはパパの大切な大切な相棒の生まれた牧場なんだ」
雄太がニッコリ笑って答える。凱央には、その笑顔が少しだけ淋しそうに見えていた。
雄太は紙袋を春香に手渡し右手で悠助の手を握った。俊洋と美理愛が手を繋いで歩いていくのを見てから、凱央はそっと春香の横に並び悠助達に聞こえないぐらいの小さな声で話し出した。
「ママ。さっき入り口の所のカンバンに……」
「うん、そうなの。きっと、悠助の心に区切りをつけさせてあげたいんじゃないかな」
「そっか。でも、それはパパも……だよね?」
日々成長を見せる凱央は、もう春香と視線が近い。
そして、心もしっかりと成長をして、人の気持ちを理解する事が出来ていて、雄太の考えている事が分かったのだろう。
「うん。パパにとっても大切な相棒だったからね」
「ママも?」
「悲しかったよ。胸が潰れるような感じって、こういうのなんだって思ったし、何度も何度も夢だったら良いのにって思ってた」
凱央は頷き、雄太と手を繋いで歩いて前を歩いている悠助の背中を見詰めた。
「ゆうすけ……。あのころ、何度もぼくの部屋に来ていっしょにねてって言ってたもんだよ……」
「そう。ありがとう、凱央。悠助に寄り添ってあげてくれて」
少し照れたように笑った凱央はジッと悠助の背中を見ていた。
そんな凱央を見ていると、やはり雄太に似ていると春香は思った。
(優しくて、悲しい思いをしている人を放っておけないところもそっくり……。私も雄太くんの温かい優しさに助けられて来たんだもんなぁ……)
暗闇の中で膝を抱えていた自分に手を伸ばしてくれた雄太と、弟の悲しみを理解して優しく接する事が出来た凱央。
(雄太くんは自慢の旦那様で、凱央は自慢の息子だな)
まだ小学生ではあるが、凱央は将来の夢をしっかりと持っている。
(もしかしたら私より大人になるのが早いのかも知れないな。私、頑張らなきゃ)
春香は親は子供と一緒に成長するのだという言葉を噛み締めたのだった。




